表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/154

4-4 待ち伏せデート

「こんな朝早くから待ちかまえている必要があるんですかね?」


 三年四組の教室で、適当な机の下に隠れながら、後ろの先輩に聞いてみる。


「こういうのは現場を押えるのが一番だ」


 僕に続いて机の下に潜り込みながら、先輩は何だか楽しそうだった。


「待って、先輩。何で同じ机の下に入ろうとするの?」


 振り返って聞くと、彼女は頬を膨らませながら僕を見た。


「だって仕方ないだろう。隠れて見つかりにくい机は、ここしかないって結論になったんだ」


 確かに先輩の言う通り、教室に二つある出入り口のどちらから見ても《もっとも目立たない場所》を二人で吟味した結果なのだが。


 まさか一緒に隠れるとは思ってなかった。

 僕も彼女も大柄な体格ってワケじゃないが、でも先輩の胸って、ほら、ねぇ。


 ……うん。背中の感触がすごいよ。ちょっと幸せな気分だ。


「そんな顔をするな。狭いところで私と一緒は、そんなに嫌か?」


 僕の背中に乗っかっている先輩から、生真面目そうな声が聞こえる。


「あ、すいません。何か眠くて」


 慌てて誤魔化すように目をこすると、彼女はあっさり騙されてくれた。


「そうか、すまんな。昨日、家に帰ってから《犯人が来る前に待ち伏せをすればいい》と思いついたものだから、君の都合を考えていなかった」


 先輩が張り込み好きなのは知っていたが、まさか六時前に登校するハメになるとは。


 ロクに寝てないから、僕が眠いのは嘘じゃない。


「いっそ和室に泊まればよかったかなあ」


 あそこなら布団もあるし、一晩くらい泊まってもバレないんじゃないのか?

 そんな意味の独り言だったのだが、


「何だ? 君は私と一夜を共にしたかったのか?」


 背後から、僕をからかうような声がする。


「今度、添い寝してくれるのを楽しみにしていますよ」


 昨日、和室で交わした会話を蒸し返したら、先輩が急に背中でビクッと跳ねて《ガンッ》と大きな音がした。


 振り返れば先輩は両手で頭を抱えながら涙目になっていた。


「そ、そうか。分かった。では次のご褒美はそれでいいな」


 先輩は指で目元をぬぐいながら、精一杯取り繕った感じで平静な声を出す。


 ……この人、いま、ご褒美って言った?

 やっぱ僕の事を犬かなんかと思ってるよね?


「……先輩、机の下は狭いので気をつけて」

「うん、そうだな」


「ところで先輩は、今回の犯人について、どう思います?」


 添い寝の話はスルーして話題を変えると、明らかに彼女はホッとしていた。


「犯人が誰かなんて考えるまでもあるまい」


 先輩は大して面白くもなさそうな顔で答える。


「君だって気がついていただろう? 写真に撮られた場所と時間を、迷いもなく解説してのけたんだぞ。そんなの撮影者本人でなきゃ不可能に近い」


「でも、それだと中村が僕らに相談した意図が分かんないんですよね。何か理由があって——例えば僕らをだまして利用したいと考えているのなら、今日ここに来ますかね?」


 そう尋ねると、先輩は僕の肩に肘を乗せ、頬杖を突いて考える。


「……たぶん来るな。昨日の今日で、こんな時間から張り込んでいるとは思うまい」

「まだ校門が閉まっている時間でしたもんね」


 ちなみに僕らは、代々の生徒会長に引き継がれてきた《秘密の鍵》を使って校内に侵入している。

 正体はただのマスターキーなのだが《そんなモノを生徒がいつも持ち歩いているのは学校側に秘密》という代物だ。


「私たちに罠をかけたつもりになっているのなら、機先を制するチャンスだろう。あいつは絶対に——」


 話の途中で先輩は急に声を顰めた。

 机の下でうつ伏せになっている僕の背中に体重を預け、身を伸ばすようにして耳元に口を近づける。


「——ほら、来たぞ」


 乾いた音を立てて、教卓側の扉が開いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ