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茶道部の出来ごころ 〜茶道部の犬に、先輩のオッパイは揉めない〜  作者: 工藤操
第3章 放課後ピクニック
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3-3 離れかけた指を絡めるように

「じゃあ、手分けして探しましょうか」


 部室へ戻る臼井を見送ってから、そう提案すると、先輩は黙ったままコクンと頷く。


 校内はそんなに広くない。

 二人で手分けして探せば、あっという間に終わるだろう。


「じゃあ僕はこっちからグルッと一周してみますから」


 そう言って別れて、僕らは別々に廊下を歩き出した……ハズだった。


 なのに、なぜか先輩が僕の後ろを付いてくる。

 立ち止まって振り返ると、彼女は不思議そうに首を傾げた。


「あの、先輩。手分けして探す手筈では?」


 確認のつもりで聞いたら、先輩は思いきり頬を膨らませ怒ったような顔で僕を睨む。


「だって仕方ないだろ。北原の写真は一枚しかないんだ」


 えーと、僕はそんなに悪い事をしましたかね?

 先輩が北原の顔を知らないとは思っていなかっただけなんですが。


「じゃあ、この写真、スマホで——」


 言い終わるよりも早く、先輩はピッと僕の手から写真を奪った。


「いや、やはり見落としがあっても良くない。一緒に行こう」


 落とし物を探しているワケでも無いのに、何を見落とすと言うのだろうか。


「まあ、先輩がそう言うのなら」


「うん。別に手を繋いで歩こうとか、そういうワケじゃないんだぞ」


 彼女はよく分かんない事を言いながら髪をかき上げ、僕をからかうような笑みを見せる。


          □


「北原先生ならゴミ置き場にいたよ」


 通りすがりの三年生から情報を得て裏門の近くまで足を運んで見たのだが、やはり英語教師・北原の姿はなかった。


「確かに臼井の言う通りだな」


 山のように積み上げられたゴミ袋を見上げながら、感心したように先輩が呟く。


 北原の姿を探して校内をさまよい歩き、すれ違う人たちに行方を尋ねてみたのだが、本当にドコにいるのか分からない。


「知らないオッサンはいたんですけどねぇ」


 これには僕も首を傾げざるを得ない。

 どこへいっても空振りなのはホントに不思議だ。


 臼井の言う《知らないオッサン》らしき人とは何度か廊下をすれ違ったので、よく分からない人物が校内をウロウロしているという事だけは分かったんだけどさ。


 あと気になったのが、北原の行方を尋ねると、ほとんどの人が半笑いで教えてくれる事だ。


「どうします? やっぱり二手に別れますか?」


 見つからない以上、一度に捜索するエリアを増やすべきだ。

 そう提案して先輩の方へ視線を向けたら、すごく不機嫌な顔になっていた。


「……えーと、先輩。一体何が?」


 恐る恐る聞くと、苛立った声が返ってきた。


「君はそんなに私と一緒にいたくないのか?」

「え? 何の話をしているんです?」


「だから私は一緒に並んで歩いて手を繋ぎたいとか、そういう話をしているんじゃない!」

「ええ、確かにしていませんでした」


 念のため記憶を手繰ってみる。


 僕らが歩きながら話していたのは、好きな茶菓子の種類とか、最近読んだ本や見た映画の感想とか、そんな感じの世間話だけだった。


「不満があるなら後で聞きますから、今は——」


 高積みされていたゴミ袋の山頂付近で、何かが動いたのが視界に入った。


「——先輩、危ない!」


 とっさに彼女の手を掴んで引っ張り、自分の方へ引き寄せる。


 同時にゴミ山が崩れて、大きなゴミ袋がひとつ、ゴロゴロと足下に転がり落ちてきた。


「……あんまり危なくなかったですね」


 拍子抜けしながら言うと、先輩が笑い声を上げる。


「君は大げさだな。急に大声を出すから、何かと思ったじゃないか」

「急に崩れてきたから……」


「ふむ。今度、執行部からゴミの出し方を指導しとかなきゃいかんかな」

 思案気な顔で長い髪をかき上げようと右手を動かし、それでようやく僕と手を繋いだままなのに気がついた。


 彼女はしばらくその手をジッと見つめていたが、やがて驚いたように目を見開き、


「……おお」


 とよく分からん感じに感嘆の声を上げた。それからゆっくりと視線を僕の方へ移す。


「何だ、ポチ。君は私と手を繋ぎたかったのか?」

「あ、すいません。とっさの事だったから……」


 慌てて手を離そうとしながら言いワケをするが、先輩はそんなの聞いちゃいなかった。


「そうならそうと言えばいいのに。ずいぶん遠回しな事をするんだな」


 離れかけた指を絡めるようにして、先輩が手を繋ぎ直す。


「せ、先輩?」


 困惑しながら彼女の顔を見ると、意味深な感じでニヤッと笑った。

「まあいいよ。そこまでして手を繋ぎたかったんなら、こののままにしてあげよう」


「……あの、先輩。これ、けっこう恥ずかしいんですが」

「ハハハ、照れるな、ポチ。君がそうしたいなら、別に気兼ねしなくてもいいんだよ」


 そう言っている先輩だって耳まで赤くなっているもんだから、これで照れるなって言う方が無理だってば。


 繋いだ手をどうしようかと迷っていたら、不意に頭上から大人の声がした。


「あー、君たち、すまんがちょっと手を貸してくれないか?」


 先輩は弾かれたようにパッと手を離すと、素早く僕と距離を取る。


 何もそこまで、と言いたくなる態度だったが、まあいいさ。


 声の主を求めてゴミの山を見上げれば、山頂付近に例の《知らないオッサン》がいた。


「……そこで何をしているんです?」


「登ったら、降りられなくなったんだ」


 オッサンは気弱な笑みで、小猫みたいな事を言う。

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