表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
茶道部の出来ごころ 〜茶道部の犬に、先輩のオッパイは揉めない〜  作者: 工藤操
第3章 放課後ピクニック
26/154

3-2 何か、ハゲてた

 生徒会室で待っていたのは、ごく普通の男子生徒だった。

 これと言った特徴も無く、強いて言えば地味な顔だ。


 彼はビニール傘を手に持って、椅子にふんぞり返るように座っている。

 僕と目を合わせるとニヤリと笑った。

 

 ……何でしょうね、この堂々とした自信と態度は?


「粗茶でございます」


 和室から持参した湯飲みを目の前に置くと、彼は驚いた顔で僕を見た。


「茶道部なんか、うちの学校にあったのか?」


 言われた僕も驚いた。

 お茶を出しただけで茶道部と見抜くなんて、ただ者じゃないぞ。


「何で僕が茶道部と分かったんです?」


 目を丸くして聞き返すと、彼はテーブル越しに僕の右手を指さした。


「手に持っている急須に、マジックでそう書いてある」


 ……あ、ホントだ。太マジックで《茶道部》とクッキリ書かれている。


「他の部活と混ざらないようにな」


 ぼそっと先輩がつまらなそうに呟いた。


 いつもの事だが生徒会室に来ると、先輩のテンションがダダ下がりになる。

 今も眠たそうな目をして、生徒会長の机で頬杖を突いている。


 こうしていると美人度は上がるが、なんとなく先輩らしくない感じがして面白くない。


「彼は演劇部の部長だ」


 先輩の紹介は簡潔でぶっきらぼうだった。


 まさかと思ったが、彼女はそれっきり黙ったままである。

 演劇部の人も困惑しているのが見て取れた。


「えーと、まず名前と相談の内容を教えていただけたら」


 仕方なく僕が進行役をすると、演劇部の人も明らかにホッとした顔になった。


「臼井だ。相談というか、手を貸して欲しいんだ」


 演劇部が《手を貸せ》というからには、大道具係でも足りないのかと思ったのだが、


「うちの顧問がどっか行っちゃってさ。どこにいるのか探してきて欲しいんだ。コンクールが近くて色々あるのに、見つからなくて困っているんだ」


「顧問の先生が失踪したって話ですか?」


 面倒な話を持ち込まれたなと思ったのだが、彼はキョトンとした顔をして、


「それなら警察に頼むよ」


 あっさりと言い切った。そりゃそうだ。


 臼井は傘を手に持ったまま、せっかくの茶に口もつけようとしないで喋る。


「学校には来ているみたいなんだけど、つかまんないんだよ」

「演劇部の顧問って誰ですか?」

「英語の北原だ」


 名前を聞いて、顔を思い出そうとしてみる。


「……ごめん。全然、分かんないです」


 僕が苦笑して見せたら、頬杖を突いたままの先輩が、取りなすように口を挟む。


「北原は三年生を主に受け持っているからな。ポチが知らなくても無理はないよ」


 その後で、臼井に写真を見せるよう指示をした。


 彼が取り出したのは、演劇部の集合写真と思わしき写真のプリントだった。


 端っこの方にいる二〇代半ばの男性が顧問の北原なのだろう。

 みんな笑顔で写っていて、顧問と部員の仲はかなり良さそうだった。


「北原先生は、ちゃんと授業をしているんですよね?」

「隣のクラスは自習になっていなかったし、学校へ来ているのは間違いないよ」


 ……え? 隣のクラス? 臼井ってもしかして三年生なの?


 とっくに冬服へ切り替わったのに、まだ部活やってんの?


 驚きが顔に出てしまっていたのだろう。

 臼井は自慢気な表情になって、得意そうに言う。


「コンクール、勝ち進んじゃってね」


 そんな事を言われても、さっぱり分かんないんですけどね。


「授業が終わったら、すぐに隣の教室へ行けばいいんじゃないの?」


 素朴な疑問を口にしたら、すぐ臼井に反論された。


「ああ、当然そうしたよ。どこにもいなかったけどな」


 そう言った後で、ふと付け加えるように変な事を口にした。


「知らないオッサンならいたけどな」


 隣の教室に知らないオッサンって、何だそりゃ?


「誰、それ?」

「何か、ハゲてた」


 そんな役に立たなそうな情報をもらってもなあ。


「職員室で『北原ならあっちにいるよ』と教えてもらっても、全く姿が見えないんだ」


「先生の携帯番号とか、連絡先は知らないんですか?」

「生徒には教えない主義らしい」


 ずいぶんと真面目な先生らしい。

 いまどきスマホの番号くらい教えてもいいだろうに。


 ともあれ、臼井の相談は簡単な話だ。


「一緒に北原先生を探せばいいんですね?」


 念のために確認を取ったら、彼は苦笑しながら首を横に振った。


「いいや、俺らは稽古をしたいから、代わりに探してきて欲しいんだ」


 ……まあ、いいんだけどさ。


「コンクールが近いんだよ、勘弁してくれ。そこまで手が回らないから頼んでいるんだ」


 そう言いながら臼井は立ち上がった。


「あ、ちょっと待って下さい。もう一つ質問が」


 彼はすぐにでも部活に戻りたそうな様子だが、どうしても聞きたい事があった。


「ずっと気になっているんですが、臼井さんは何でビニール傘を持ち歩いているんです?」


 今日は晴れているし、そうでなくても校内を歩くのに傘はいらんだろう。

 彼にどんな理由があるのかと思ったら、


「ああ、そこの廊下で拾ったんだ」


 まったく何の意味もなかったらしい。


「そのうち小道具に使えるんじゃないかと思ってな。欲しくてもやらんぞ」


 ……つまり必要もないのに拾ってきたのか?

 演劇部ってよく分からんところだな。


「それは落とし物として執行部が預かる。こっちへよこしたまえ」


 座ったままの先輩が、面倒くさそうに手を伸ばした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ