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茶道部の出来ごころ 〜茶道部の犬に、先輩のオッパイは揉めない〜  作者: 工藤操
第1章 全知全能の神に導かれて僕らは出会った
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1-1 楽園は校舎の一階にあった

 先輩と出会ったのは、まだ桜が舞う春先だった。


 その日の僕は、お昼休みに校舎の中をさまよっていた。


 入学式の当日に上級生とケンカして停学をくらったのが、そもそもの原因だ。


 チャラい感じの男に絡まれている女性がすごい美人だったから、ついカッコつけてしまったんだよ。 


 慣れない事はするもんじゃないね。


 ケンカなんかした事なかったんだし、揉め事は避けて通りたい方なのにさ。


 おかげで停学が開けた頃にはすっかりクラスの人間関係ができ上がっていて、僕が入り込むスペースなんてどこにも無かった。


 ていうか、みんなが僕を避けている。


 僕の停学中に変な噂を流した奴がいて人間性を疑われてしまっている状態だ。


 いわく、露出狂のロリコンとか、マザコンのストーカーとか、そんな感じなのだけどリアリティのある設定や意外性のあるストーリが作られていて案外と説得力があった。


 誰が作ったのか知らないが、他人事として聞いている分にはけっこう面白い物語になっていると思う。

 女子トイレの盗撮がバレて停学になる下りなんか爆笑ものだ。


 おかげで事実無根であるにも関わらず見事なくらいみんなが信じていて、僕の話なんか誰も聞いてくれない。


 ま、噂話を信じる連中なんてどうせロクなモンじゃないし、そんなの相手にいちいち弁解するのも面倒だ。


 クラスに友達はできそうもないけど、友達なんていなきゃいないで、どうにでもなる。


 とはいえ教室の居心地は最悪で、お昼休みに飯を食う場所にさえ困る有り様だ。


 ——静かで一人になれる場所が欲しい。


 たったそれだけの願いを込めて人気のない所を探し求めるが、そういう所に限ってカップルやらガラの悪い生徒が吹きだまっていて、とても落ち着ける場所じゃない。


 停学が終わったばかりの身でトラブルは起こしたくないし、僕はいったいどこで飯を食えばいいのやら。


 購買で買ったパンを片手にフラフラと校内をさまよっていたら、一階のとある部屋の前にたどり着いた。


 校舎の中にもかかわらず格子戸の引き戸が付いた入り口には


《和室》


 と書かれたプレートがはめ込まれている。


 さすが高校だ。こんな部屋もあるなんて中学校とは一味違うな。


 深く考えもせず引き戸に手をかけたら、あっさりと開いてしまった。


 引き戸の奥は三和土や上がり框があって、ちゃんとした玄関の作りになっていた。

 脱いだ上履きがないから室内に誰もいないのは確実だ。


 何に使うための部屋なのか分からないが、これは好都合ってヤツじゃないか?


「おじゃましまーす」


 なんとなく声を出して勝手に上がり込む。

 見つかったらマズそうだから、玄関の鍵は掛けておき、脱いだ上履きは持っていく。


          □


 思っていたより和室の中は広かった。


 二〇畳くらいの畳敷きの部屋が三つと台所を兼ねた狭い廊下。

 それぞれの部屋は襖で仕切られているが、全部開け放てば二クラス合同の授業だってできそうだ。


 部屋の中には押し入れもあり座布団やら布団がぎっしりと入っていた。


 変な場所にも襖があったので不思議に思って開けてみたら、茶道に使う水屋だった。


 あまり使われていないのか少しカビ臭いけど、校庭に面した窓には障子があって柔らかい光が差し込んでいる。

 落ち着ける雰囲気のよい場所だった。


 校舎の中にこんな空間があるなんて。


 畳の上に上履きを置いて直座りして手に持っていたパンを食べる。

 あっという間に食事を済ませて、そのまま横に寝転がる。


 ここは静かで教室よりずっと居心地がいい。


 ——明日も鍵が開いてるといいな。


 お昼休みが終わる五分前にスマホのアラームをセットしてから目を閉じる。


 ま、僕が教室にいなくても気にする奴なんかいないだろうけどね。

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