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13-1 人生の全て

本日より更新を再開します。

あまり更新ペース上げられませんが、よろしければお付き合いをお願いいたします。


こんな更新状況にも関わらず、いいねを付けてくれた方に感謝を。

ブックマークを付けてくれている方々にも改めて感謝申し上げます。


あとですね。いまさらですがタイトルの変更を考えてます。

たまに思い出してタイトル検索で来られる方がいらしたら迷惑かと思われますが、

どうかご容赦をお願いします。


楽しく読まれることを祈りつつ。

それでは。


工藤操

「君はバレンタインにチョコレートをいくつ貰った?」


 唐突に彼女が聞いてきたのはバレンタインデーの前日だった。


 え? 明日の話をいま聞かれても……。

 そもそも誰からも貰う予定なんかないんだけど。


 何を聞かれたのか分からなくて困惑する僕に、彼女は少し慌てて付け足すように言う。


「いや、もちろん今年のバレンタインの話ではない。君は今までにいくつ貰った?」

「……それは人生の全てでって事ですか?」


 確認のために聞くと、先輩は大きく頷いた。


「今までの人生で全てだ。未来の分は省いていい」


 それで案外と上手い事を言ったつもりなのだろう。

 長い髪をかきあげて、楽しそうにクスクス笑ってる。


「ああ、親から貰ったのは省いてくれ。あとクラスとかの強制イベントみたいのも無しだ。個人的に女性から貰ったチョコレートの数を聞きたい」


 なんだか知らんが、質問が妙に具体的だ。

 そんなの聞いて何になるのやら。


 まあ、その内容なら答えるのも簡単だ。

 自信を持って言い切れる。


「ゼロです」

「……は? もう一回、言ってくれないか?」


 先輩が驚いた顔で聞き返してくるが、そんなに意外な事だろうか。


「ゼロです。義理も含めて一個も貰った事ないです」


 胸を張って言うと、彼女は静かにコタツの上の湯呑みを手に取り、黙ってお茶を啜る。

 それから呆れたようにため息をついて僕の顔を見た。


「君は友達がいないのか?」

「いません」


 首を横に振ってきっぱり答えると先輩は少し困った顔をする。

 友達の件に関して彼女に思うところがあるのは知ってるが、実際チョコレートをくれるような友人なんていた事ないし。


「いや、しかし友達がいないのは高校入学以降だろ? 中学の時に気になる女子とかいなかったのか?」

「基本、女性と縁のない生活でしたから」

「……本当にポチは一度もチョコレートを貰ったことがないのか」

「すいませんね。モテないんですよ」


 苦笑しながら答えると、先輩も苦笑して肩をすくめた。


「いやいや、義理ですら貰った事がないとは考えもしなかったよ」


 そこまて言ってから、わざとらしくも大きなため息をついて表情を変えた。

 嘲るような笑顔で僕を見下すようにして言葉を続ける。


「かわいそうに。いまどき一度もチョコレートを貰った事がないなんて」

「それ、いまどき、関係あるんですか?」

「だってポチはチョコレートの味を知らないんだろう? かわいそうだよ」

「いや、普通に食べたことはありますよ?」


 僕の言葉を聞いて、先輩は悲しげに首を振る。


「見栄を張らなくてもいいんだ。ポチはチョコレートの味を知らないまま育った。恥ずかしくても正直に言ってごらん?」

「いままでお茶請けに何度も出してますが? 先輩も一緒に食べてましたよね?」


 むしろお茶請けに困るとチョコレート、くらいの頻度で出ているのでかなり食べているはずなのに。

 先輩はちっとも聞く耳を持たずに話を進める。


「いいんだ。私はポチがそんな恥ずかしい奴でも気にしないよ」

「えーと、別に恥ずかしくないですけど」

「いやいや、私のポチがそんなだなんて由々しき問題だよ」


 何かに納得したように先輩は頷き、湯呑みを持ち上げお茶を啜る。

 それから、ほうっとため息をついて黙り込んでしまった。

 両手で湯呑みを大事そうに抱えて、上目遣いに僕を見ている。


 ……何がしたいんだ、この人は?


「えーと、そう言いましてもね。バレンタインのチョコなんて相手があっての話ですから」


 じっと僕を見ている先輩の圧力に負けて話を継いだら、彼女は嬉しそうに顔をあげた。


「まあそうだな。君にそういう人がいなかったのは分かったよ」

「ご理解頂けて何よりです」


 居住まいを正して頭を下げると、先輩は楽しそうに肩をすくめる。


「で、明日はどうなってる? 貰う予定はあるのか?」

「えーと、明日ですか? ちょっと待ってください」


 ポケットからスマホを出してスケジュールを確認してみる。

 ひとしきり画面を見てから、おもむろに先輩に顔を向けた。


「明日は何も入ってませんね。ガラ空きです」

「いまスマホ見る必要あったか? 何も操作してなかったように見えたが?」 

「気にしないでください。なんかあるフリしただけです」


 僕の言葉に呆れたように肩をすくめて先輩が笑う。


「まあ仕方ないな。それじゃあ私が君にあげることにするよ」


 あっさりと言われた言葉だけに、自分の耳を疑った。


「……先輩が僕にくれるんですか?」

「ん? 人生で初めてのバレンタインチョコだろう? 欲しくないのか?」


 小首を傾げて不思議そうに僕を見る。

 彼女は少し考えるような素振りの後で、ハタと何かに気付いたように手を打った。


「ああ、本当はバレンタインのチョコとか貰い飽きているのか! 余計なお世話だったのか?」

「どうしてそんな結論になるんですか! 僕、モテないって言いましたよね!」

「いやしかし、全然嬉しそうじゃなかったから」

「ビックリしすぎてリアクションできなかったんですよ!」


 コタツを乗り越えんばかりの勢いに気圧されたのか、先輩はちょっと上体を引いて困惑の表情を浮かべている。


「……君は私を何だと思ってるんだ? さんざん世話になってるんだ。このくらいは普通に考えるよ」

「いやまあ、素直に喜べなかったのはよくなかったかもしれませんが」

「で、君が欲しいなら持ってくるけど」


 薄く笑うその表情に何となく含みがあった。

 今までの経験から警戒心が沸き起こる。


「えーと、一応確認しますけど、お茶請けとして持ってくるって話じゃないんですよね?」


 いつものようにからかわれてるかと思ったのだが、呆れた顔をされてしまった。


「バレンタインのチョコレートとしてだよ。いま、お茶請けは余り気味だろ? 君がいらないのなら——」

「頂けるものならぜひにでも!」


 ほとんど土下座みたいになって頭を下げる。

 実際、目の前にコタツがなかったら土下座していたかもしれない。

 そんな僕を見て、先輩は手をひらひら振りながらやめてくれと苦笑する。


「そこまで大袈裟な話じゃないよ。あまり期待されても困るんだ」

「すいません。あともう一つ確認させてください」

「ん? なんだね?」


 長い髪をかきあげて先輩は楽しそうに笑っている。

 もしかしたら聞くまでもない事なのかもしれないけれど。


「……それ、タダじゃないんですよね?」

「もちろん」


 頭のカチューシャを直しつつ、当たり前ように彼女は頷く。

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