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12-9 それにしたって5キロは重すぎない?

 大人しそうな人と思っていたが、よく考えたら演劇部だもんなぁ。

 あの暑苦しい集団の一員だから、あまりお近づきにならない方がいいのかも。


 とりあえず、ずいぶんと筋肉が鍛えられそうな傘なのは理解できた。

 エコじゃないから省エネ委員会に目を付けられてもおかしくないな。


「それにしたって5キロは重すぎない?」

「あんまり軽いと電動ファンで飛んでっちゃうから」


 顔だけをこっちに向けてしれっと言うが、どんだけ強力なファンなんだよ?

 扇風機どころのパワーじゃないだろ、それ?


「参考までに聞きたいのですが、そんな傘、ドコで売ってるんです?」

「え? ポチさんも欲しいの?」


 興味本位で聞いただけなのに、なんだか妙に食いつかれた。


「そっかぁ、誰かに告白する予定あるんだ?」


 変なポーズのまま、ねっとりとした笑顔を見せて横歩きでにじり寄ってくる。

 あまり近寄られたくないので慌てて否定する。


「いや、そんな予定はないですし欲しくありません。ただ、どこで売ってるのか気になっただけです」

「あんなのお店で売ってるわけないじゃない。電子工作部に作ってもらったのよ」


 初めて聞く名称だったので、先輩を振り返って確認を取る。


「……そんな部活ありましたっけ?」

「うん、人数は少ないが歴史あるトコだぞ。あまり派手な活動はしてないから、ポチが知らないのも無理ないがな」


 先輩は両手でカチューシャの位置を直しながら頷いた。

 そうか、電子工作部って昔からあるのか。

 省エネ委員会みたいにいつの間にか湧いてるのとは違うんだな。


「執行部的には予算折衝で毎年揉める困った集団なんだけどな」


 もう少し現実的な金額を要求して欲しいものなのだが、と先輩はぼやいて肩をすくめる。


「でもあの人たち、いい人ですよ。スタンガンも付けてくれたし」

「……え? それ傘の話だよね?」

「うん。スイッチ押すと先端から100万ボルト」


 あっけらかんとした笑顔で三つ編みお下げの柴田さんは言う。

 雨で濡れるのが前提なのにスタンガン内蔵?


「何でそんなモノ付けたの?」

「うちの学校、不審者多いからって」


 その意見は間違ってないと思うのだが、傘にスタンガンはおかしいだろう。

 犯罪に使われたらどうするつもりだ。


 しかも自作したスタンガンみたいだし、放置するには怖すぎる。


「先輩、電子工作部の技術力って信用出来ます?」

「電源を入れたら何か焦げた、くらいの能力だな。執行部が何か作って貰おうとは思わないぞ」


 面倒くさそうな声で返事が来た。


 これちょっとヤバいんじゃないかなぁ。


 先輩も分かっているのだろう。これ以上は話を聞きたくないと、カチューシャを頭から外してイヤーマフにならないか苦心している。


 先輩の奇行はとりあえず放っておいて、三つ編みお下げの柴田さんに向き直る。

 

「安全上の——、えーと絶縁対策とか、ちゃんとしてるんでしょうか?」

「たまにビリッとするけどゴム手袋しとけば大丈夫って言ってた」

「それは全然大丈夫じゃないです!」


 普通に漏電してるのかよ。

 設計に問題あるだろ。


 この分だとまともにテストもしてないんだろうなぁ。

 いや、むしろテストしてないからこそ、まだ何も起きてないと喜ぶべきか。


 僕らの会話を聞いた先輩が心底から面倒くさそうにため息をつく。


「ポチ、事故が起こる前に傘を回収する。省エネ委員会を押さえよう」

「それはいいのですが、すでに生徒の半数以上が下校している時間ですよ?」


 僕の言葉に先輩はきょとんと意外そうな顔をする。


「君は誤解してないか。たぶん傘はまだ校内にあるぞ」

「え? そうなんですか?」


 予想外の事を言われてちょっと驚いた。


「あのなポチ。確かに最初は傘を忘れた生徒が盗んだものと思っていたが、もう話の前提が変わっているだろ? 省エネ委員会が没収したなら持って帰る必要はない」


 そう言えばそうだった。最初の前提に引っ張られすぎて《無いから盗んだ》という考えから抜け出してなかった。


 さすがに先輩はしっかりしている。


「ていうか、普通の人は恥ずかしくてあまり使いたくないと思うぞ」

「え? 待って。それどういう意味? あたしの傘に文句あるの?」


 三つ編みお下げの柴田さんの言葉を無視して、それにな、と彼女は言葉を続ける。


「普通に漏電している傘なんだ。事故が起こっていないなら、まだ傘は校内にあると見ていいだろう。柴田のライバルが犯人なら嫌がらせも兼ねて隠してあると思う」


 珍しく推理っぽい事を語ると、その場でクルッと一回転ターンをする。

 長い髪が動きに添って優雅に流れる。


 右手の指をピッと三つ編みお下げの柴田さんに突きつけた。


「さて。そういうわけだから、恋のライバルの連絡先を教えてくれ」

「知るわけないでしょ、あんな女と連絡なんかしないもん」


 柴田さんは憮然とした表情で答えてくれた。


「そ、そうなのか……」


 いきなりガックリして黙り込むのはいいのだが、今の一回転は何だったんだ?

 カッコよかったけど、さっきの柴田さんの変なポーズに対抗心でも燃やしたのだろうか。


 早くも使いものにならなくなった先輩に代わって、僕が話を引き継ぐ。


「えーと、せめてライバルの人のクラスと名前だけでも」

「……なんだっけかな? 今うまく思い出せなくて」


 ライバルの名前を聞いただけなのに難しい顔をして悩んでいる。

 あんだけ敵視してるのに、名前さえ知らないってどういう事だ?


 僕の視線に気がついて三つ編みお下げの柴田さんが慌てた様子で両手を振った。


「違うの、台本はちゃんと覚えられるの! あたし、嫌いな人間の名前ってすぐ忘れる事にしてるから。記憶障害とかそんなんじゃないから! 2年生の、ええと、そう、2年生!」


 学年だけの情報でどうしろって言うんだ。

 呆れるくらい、しょうもない言いワケだ。


「まあ分かるよ。私も興味ない人間なぞ、存在すら覚えてない」


 なのに先輩は自慢にもならない事を言い切って同意する。


 ええ、知ってます。

 先輩はそういう人ですよね。


 しかし困ったな。

 柴田さんのライバルは省エネ委員会へ繋がる数少ない手がかりなのに、さっそく手詰まりになってしまったぞ。

 感電事故が起こる前に何とかしたい所だけれど。


 配電盤の前で腕組みして考えていたら、急に背中をつつかれた。


「ねえねえ、ポチくん」


 名前を呼ばれて振り返ると、苦笑いした絢香さんが立っていた。


「玄関先で痙攣して倒れてる生徒がいてさ、なんか感電してるっぽいから助けるの手伝ってくれない?」

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