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12-8 エコエコうるさい

「先輩、いつの間にこんな委員会作ったんですか?」


 呆れた顔で先輩を見ると、彼女は思い切り首を横に振って否定する。


「委員会の新設なんてするわけないじゃないか。メンドくさい」

「ま、これ、文面だけで執行部とは無関係なのが分かるけどさ」


 絢香さんは肩をすくめて言うと、張り紙を剥がして配電盤の扉を閉める。


 どういうことかと思ったら、手に持った紙をよく見えるようにこっちへ向ける。


「この《生徒会》って単語は執行部を指してると思うんだけど。内部の人間なら絶対しない言葉遣いだからね。これ作ったのは執行部に近い人間じゃないよ」


「ふむ。執行部の名を騙るヤツがいるのは問題だな」


 先輩は面倒くさそうにスカートのポケットからスマホを取り出し、どこかへ電話をかける。


 余談だが先輩は電話を好む。

 メッセージアプリやSNSは使いたがらない。

 たぶん文字を入力するのが面倒なのだろう。


「いま執行部に確認しました。ここ数日で活動を始めた謎のグループだそうです」


 通話を終えた先輩がうんざりした顔で絢香さんに報告する。


「数日前からなのに、あんたんトコへ話が上がってなかったの?」

「あ、いえ、執行部も存在を確認したのはさっきだそうで、あちこちに同じ張り紙が貼られているそうです」


 絢香さんが笑顔なく言うので、慌てて先輩が弁明している。


「ま、いいや。ちょっと執行部行って、詳しい話聞いてくるよ」


 絢香さんはへラッと笑って肩をすくめ、クルッと僕らに背を向けた。

 軽い足取りで去っていく背中を見送りながら、三つ編みお下げの柴田さんがぼやく。


「舞台の照明つかないから今日の稽古、中止になったんですよ。あれは省エネ委員会の仕業だったんですね」

「ああ、デートの待ち合わせまで妙に時間あるの、そのせいなんだ?」


 そうそう、と三つ編みお下げの柴田さんが頷く。


 本来なら部活が終わってからデートのスケジュールだったのだろう。

 結果として、省エネ委員会のおかげで盗まれた傘を探す時間ができたワケだ。


「演劇部は照明や音響で電気使いまくりますからね。省エネじゃないってのは分かりますけど」


 柴田さんは肩を落としてため息をついた。


「さっきも言ったけどエコエコうるさいのは勘弁して欲しいです。あたしが使ってる傘立てにすら省エネ委員会の張り紙がありましたよ。もう絶対あいつの仕業だよ」


「え? 柴田さんのライバルって省エネ委員会なの?」

「知りませんよ、そんなの。でも急にうるさくなったし、そうなんじゃないの?」


 投げやりな感じで言うから、よほど嫌な目に遭っているのだろう。

 その気持ちは分からなくもなくて苦笑してしまう。


 ——あれ?

 何か引っかかったぞ。

 今の話、変なところがあった。


 横目で先輩の様子を確認すると、胸の下で腕組みをしてジッと僕の顔を見ていた。

 一瞬だけ視線を合わせて、三つ編みお下げの柴田さんに向き直る。


「えーと、なんで傘立てに省エネ委員会の張り紙してあったの?」

「さあ? あたしが貼ったんじゃないから知らないよ」


 そりゃそうだ。

 質問の仕方がよくなかったな。


 絢香さんが鍵開けっ放しで寝てたのに、和室の蛍光灯のスイッチには張り紙はなかった。

 ブレーカーが落とされてるから、和室の存在を知らなかったワケではない。

 貼る場所を選んでいると判断していいだろう。


 柴田さんが使ってる傘立てには貼ってあった。

 僕が知る限り、省エネと傘にはあんま関係ないはずだ。


 わざわざ貼った理由は何だ? 


「他の傘立てにも張り紙はあった?」

「ううん、あたしのトコの傘立てだけ」

「その時はもう柴田さんの傘はなかった?」

「あたしの傘、電動なんですよ。もしかしたら省エネ委員会が持ってったのかも」


 ……え? 傘に電動なんてあるの?

 開閉が電動ってことなんだろうけど、あまり便利そうに思えない。

 何の意味があるんだ、それ?


 意外な話に戸惑ってたら、先輩が横から補足情報をくれた。


「ポチ、最近は電動の折りたたみ傘が売ってるんだ。両手が塞がらなくて便利らしい」

「あたしのは告白用の勝負傘ですから、便利さは度外視ですけどね」


 なぜか自慢げに三つ編みお下げの柴田さんが胸を張る。


「そういうの、最初の段階で教えて下さいね」


 釘を刺すように言うと、三つ編みお下げの柴田さんは何か勘違いしたらしい。


 僕は《盗まれた状況や手がかりになりそうな事》はきちんと教えて欲しいと言ったつもりだった。

 なのに彼女は勝負傘の詳細を教えてくれと理解したようだ。


「まずね、あたしの傘はLEDで光るの! 暗い所でもあたしを美しくライトアップしてくれる!」


 嬉しそうに勝負傘の素晴らしさを語り出す。


「しかもね、傘に内蔵されたファンが回って、あたしの長い髪を軽やかになびかせてくれるの!」


 柴田さんの三つ編みお下げがなびくくらい強力なの? 

 この真冬に寒すぎやしないか?


「さらにスマホと連携してスピーカーからお気に入りの素敵なミュージックが流れるのよ!」

「それ、近くの人に迷惑だからイヤホン使いましょうよ?」


「あの傘があればムード満点で勝ったも同然! 大容量のモバイルバッテリーを使えばフル稼働でも10分は持つ優れもの! それで重さはたったの5キロ!」


 三つ編みお下げの柴田さんはスーパーヒーローじみた変なポーズをビシッと決めて、笑顔で言い切った。

 そうか、思い出の傘とかそういうんじゃないんだ。

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