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12-5 当ててみて!

「ねえ、さっきからずっと思ってたんだけど、このコタツ、ちっとも暖かくならないよ?」

「え? 絢香さん、暑がりだからワザとスイッチ切ってると思ってましたが?」


 さっきまで寝てたから、てっきり脱水症状を起こさないように切っていたと思っていたのたが、どうやら違ったらしい。

 コタツコードのスイッチを拾い上げて僕に見せてくれた。


「おかしいな? 絢香さん、いつコタツのスイッチ入れました?」


 コタツ布団をめくって中を覗くとほの暗い中に三人の足が見える。


 このコタツはパネルヒーター方式なので光らないし音もしない。

 ヒーターに足がぶつからないのは便利なのだか、故障なのか判断しにくい。


「この部屋来たの、朝の9時過ぎくらいかなぁ」


 絢香さんの答えは予想よりはるかに早い時間だった。

 そんな時間から何してたんだろう?


 訝しむ僕の肩を叩いて絢香さんが笑う。


「そんな呆れた顔しないでよ。ただコタツ入ってゴロゴロしてただけなんだから。そんときはちゃんと暖かかったんだよ」


 言われてみればお昼休みにココへ来た時、やけにコタツが温まっていた気がする。

 先輩が先に来ていたので気に留めなかったのだが、パネルヒーターの立ち上がりの悪さを考えると不自然だった。


「えーと、お昼休み、僕らここでごはん食べてましたけど、絢香さんはその時どこに?」

「ん、隣の部屋に隠れてた」


 イタズラっぽい笑みで隣の部屋を指さして言う。


「なんで隠れるんですか? いたんなら一緒にお昼食べましょうよ」

「あんたたちが普段何してるのか興味があって」


 寒いだろうにわざわざ何をしてるんだか。


「……絢香さんて、ヒマなの?」


 言った途端にコタツの中で足を蹴られた。


「残り少ない高校生活をエンジョイしてるって言ってよ!」

「そう言われても……。絢香さん、卒業しても普通に学校来そうですし」

「ねえ、あたしのこと、学校に住む妖怪かなんかと間違えてない?」


 苦笑しながら絢香さんが文句を言う。

 相変わらず笑顔のバリエーションが多い人だ。


 一緒にいるとこっちの笑顔まで多くなる。

 この人のこういう所は、ホントすごいよな。


 素直に感心していたら、三つ編みメガネの柴田さんが音を立てて湯飲みを置いた。


「あの……ポチさん?」


 眉間にシワを寄せて、不機嫌そうな顔でこっちを見ている。

 しまった。時間無いのに話が横道に逸れまくってた。


 デートの約束まで、あまり時間がないから怒られるかと思ったら、


「生徒会長と付き合ってると噂で聞きましたけど、それって前の生徒会長の事だったんですか?」


 大真面目な顔でロクでもない事を聞いてくる。


 年末に宇宙人・高橋の時にも似たようなこと聞かれたけど。

 噂になってるとは初耳だ。


 どこからそんな話が出てきたのやら。


「うん、その噂の出所はアトランティスの梶崎だな。お昼休みに派手にやったろ? 噂になってもおかしくない」


 困惑してる僕に先輩がつまらなそうな顔で教えてくれた。


「ついでに言うと、あのあと執行部に《みゆきに彼氏はいない》という話を広めてもらってる。それで私と君で噂になったんだな」

「……ああ、経緯はわかりました」


 思わず深いため息を漏らすと、先輩は口元だけの笑みを作って肩をすくめる。


 さすがにあれは目立ちすぎたか。

 先輩は気にしてないようだけど、これは迷惑だよなぁ。


 僕が凹んでるのなんか御構い無しで、三つ編みお下げの柴田さんは話を続ける。


「見てて仲良いのはわかりましたけど。元会長の方が距離感近いから、どっちなのかなって聞きたいじゃないですか?」

「それ、いま聞く事ですか? あまり時間ないんですよね?」

「で、どっち?」


 柴田さんは三つ編みお下げを揺らしながら、勢いよく身を前に乗り出してくる。


 コタツごと押してきたから湯呑みが倒れないように手を伸ばすと、素早く絢香さんが僕の真横に動いて、伸ばした腕を胸に抱え込む。


「さあ、どっちが彼女か当ててみて!」

「どっちとも付き合ってませんから! 変な噂のもと、作んないで!」


 抱え込まれた腕を力任せに振りほどくと、絢香さんは不満そうに口をとがらせる。

 

「あたし、別に気にしないよ?」

「そりゃ絢香さんはすぐ卒業だからいいでしょうけど、先輩はあと一年、この学校にいるんです」


 僕から話を振られた先輩はつまらなそうに肩をすくめた。


「まあ私も気にしないがね。君と噂になるくらい、どうということもないよ」

「そういうの僕が気にしますので」


 僕は真面目に言ったのに、なんだか楽しそうな笑顔を見せる。


「おや? 君は私と噂になりたくない?」

「そんな事実もないのに噂だけあってもしょうがないですよ」

「まあ、それもそうか。では——」


 そこまで言って先輩は湯呑みのお茶に口をつける。

 続きを待っていたら、彼女はほうっと溜息をついて湯呑みを置き、目の前のクッキーを手に取った。


 それに釣られたように絢香さんや三つ編みお下げもクッキーに手を伸ばす。


「あ、このクッキー美味しいですね」

「それうちから持ってきたの。気に入ってくれたなら嬉しいな」


「いや待って。なんで先輩は言いかけたままやめるんです?」


 話がどっか行く前に慌てて突っ込みを入れると、絢香さんがクッキーを齧りながら苦笑する。


「何言いかけたのかなんて想像付くじゃん」

「あたしもなんとなくは察せます。ああ、そういうことなのかと」


 三つ編みお下げの柴田さんも頷いている。

 

「あまり想像して欲しくないな。恥ずかしいよ」


 少しうつむきがちに小さな声で先輩が言う。


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