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12-4 時間が経つのって早いよね

「えーと、確認したいことが二つあります」


 顔の前で右手の指を二本立てると、三つ編みお下げの柴田さんは神妙な顔で頷いた。

 とりあえず他の二人には、新たに淹れ直したお茶を飲んで黙っててもらう。


「柴田さんは《自分の傘を取り戻してほしい》というのが希望なんですか?」

「はい、あの傘はとても大事な傘なのです」


 正面に座る僕ではなく右隣に座る先輩をじっと見ながら、真剣な表情で答えてくれる。

 

「あの傘じゃないとダメなんです。あたしの告白はこれにかかっています」


 よく分からないんだか《二人の思い出の傘》とか、そういうものなんだろうか?

 そんなヒストリーを含んだものなら、告白とは関係なく取り戻したいかも。


 とりあえず、先輩の傘を借りたら都合が悪いって事は理解できた。


「この後、バレンタインまでずっと晴れ続きなんですよ。傘を使えるチャンスは今日しかないんです」


 ……日付変更も不可なのか。

 ちょっとやっかいになってきたな。


 傘を持ってきてない生徒が盗んだのなら、もう校内にいないのは確実だ。

 犯人を特定して取り返しに行くだけで1日が終わる。


「えーと、待ち合わせ時間ていつなの? 告白に映画って必要? 可能なら場所や時間の変更してほしいんだけど」

「それはもう私が確認している」


 僕の矢継ぎ早な質問に答えてくれてたのは先輩だった。

 質問が二つどころじゃないぞ、とため息をつき、めんどくさそうな顔で淡々と僕に告げる。


「相手がスマホや携帯といった物を全く持ってないのだよ。今の時点では連絡が取れない」

「……どうにもなりませんね」


 ほとんど友達がいない僕ですら持ってるのに、いまどき珍しい人だな。


「えーと、誰かに恨まれたりした覚えは?」


 話をしながら彼女にもお茶を出す。


「あえて言えばあの女ですけど、今日あたしが告白するの知らないし。そもそも傘立てのどれが私の傘なのかだって知らないと思います」


 三つ編みお下げの柴田さんはつまらなそうに答えてお茶を受け取る。


 それはいいのだが、さっきから彼女が全く僕を見ないのはどういうワケだ?

 先輩の方に視線を向けたまま微動だにしない。


 正確に言えば、先輩の顔とか手元じゃなく——。


「仲悪いなら嫌がらせで盗まれた可能性もありますし、まずその線から当たって見るのが——あの、どうしてずっと先輩の胸を凝視してるんですか?」


 ダメだ。スルーしようと思ってたのに我慢できなかった。


「だってあたし、こんなナチュラルにコタツの上に胸乗っけてる人、初めて見たんだもん!」

「驚くのは仕方ないですが、凝視するのはやめましょうよ」


 まあ僕も最初は目を奪われたからな。

 視線を引き剥がすのに苦労した覚えがある。


 溜息をついて先輩に目を向けると、彼女は平然とした顔でお茶を啜っていた


「気にするな、ポチ。よくある事だ」

「でも、さすがに失礼ですよ」


 たとえ女性であっても先輩の胸をガン見されるのは気分が良くない。

 これは嫉妬とかじゃなくて礼儀の問題だ。


「しかしな。君だって黙ったまま10分くらいガン見してる時があるぞ。いちいち気にしてたらキリがない」

「……僕、そんな事してますか?」


 全く記憶に無いのですが?

 恐る恐る聞いた言葉に、先輩はクスッと笑って僕を見る。


「どんな表情だったかも教えてあげようか?」


 あまり聞きたい話ではないので慌てて首を横に振る。


 記憶に無くても、身に覚えがないワケじゃないからなぁ。

 二人きりで黙ってお茶を飲んでると、たまに時間が飛ぶんだよ。


 あれがそうだったのかなと悩んでいたら、絢香さんが僕の手をつつく。 

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