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茶道部の出来ごころ 〜茶道部の犬に、先輩のオッパイは揉めない〜  作者: 工藤操
第11章 友よ、秘密の図書館で会おう
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先輩と絢香 4

「絢香さん、コタツが見つかったんですよ!」


 下駄箱の前で唐突に後輩に声をかけられた。


「うん、わかった。靴履くからちょっと待って」


 あしらうように言って、絢香はゆっくりと靴を履き替える。

 満面の笑みで声をかけてくるあたり、また男がらみで何かあったのだろう。


 正直、あまり聞きたくない。

 エロ本の処分も手伝わされたし、自己嫌悪に陥るようなこともあった。


 疲れる1日だったので、他をあたってくれたらありがたい。

 だけど後輩は絢香が靴を履くのを黙ってじっと待っていた。


「お待たせ。じゃ行こうか?」


 絢香は微笑んで玄関に歩き出そうとすると、後輩は慌てた様子で引き止める。


「待ってください。私はまだ上履きのままなんです」

「あんた、いま何を待ってたの? ――で、コタツがどうしたって?」


 大急ぎで靴を履き替えている後輩に声をかける。

 彼女は下駄箱に上履きを放り込むと、笑顔で振り向く。


「うん、私たちの和室にコタツがあったんです」

「……それはようございました」


 つい気のない返事が出てしまう。

 だが後輩はそんなことを全く気にせずに話を続ける。


「そうなんです。これは期待していいと思うんですよ!」

「え? なんかあるの?」


 コタツで何かするのだろうか?

 思わず聞き返すと、後輩は嬉しそうな顔をして絢香を見た。


「だってコタツですよ? 二人で一緒に入ったりしたら仲良くなれそうな気がしませんか?」

「あんたたち、とっくに仲良いと思うけど?」


 そんな段階はとっくに過ぎてると思うのだが。

 あるいは、もっと何かエロいことでも企んでるのだろうか?


「あんたはコタツに期待しすぎ。そんなこと考えてないで、たまには一緒に帰ったら?」

「い、いえ。そういうのはまだ私たちには早いと思うんです」


 頰を赤く染めて顔の前で手を振っている。


「早いも何も、そういうとこから始めるものでしょ?」

「そうなんですか? 絢香さんは物知りですね」


 これで人を馬鹿にしてるわけじゃないんだからなぁ。

 隣を歩きながら、絢香は深いため息をつく。


「だいたい、あんたの言う《仲良くなる》って何を指してるの?」

「ええと、まあ、その……」


 言い淀んだあげくに真っ赤になって足を止めてしまった。

 まだ校門も出てないのに、帰宅にどれだけかけるつもりだ。


 もしかして、ホントにコタツでエロい事をするつもりなんだろうか?

 思わず絢香が後輩をジッと見ていたら、彼女は突然思い出したように叫ぶ。


「ポチの家に遊びに行く約束をしたんです!」

「分かったから、歩こうね?」


 後輩の手を引っ張って、絢香は早足で歩き出す。


 最終下校時刻間際とは言え、校門周辺にだってそれなりに人はいる。

 周りの視線がちょっと痛い。


 だけど後輩はそんな事お構いなしで喋り続ける。


「今度、彼の家に行く約束をしたんですよ。なんなら絢香さんも一緒に行きますか?」

「はあ? あたしが行って何すんのよ?」


 どう考えたって邪魔者にしかならないだろうに。

 それとも和室から出てきたコタツでも運びたいのか?


 呆れた顔で後輩を見れば、案外と切実な表情で絢香を見ていた。


「だって一人で行くの怖いじゃないですか。家族とかいるんですよ?」


 ――そりゃいるだろ。

 当たり前の話なのに、何をおびえているんだか。


 まあ気持ちはわからなくもないけどさ。

 絢香はため息とともに後輩に聞く。


「……で、いつ行くの?」

「決まってませんが」


 彼女はキョトンとした顔で返事をする。

 ただそういう話をしただけらしい。


「そういうの約束って言わないから!」

「そ、そうなんですか?」


 後輩はうろたえながらも、絢香の指摘に首を振る。


「いえ、確かに『近いうち』とだけしか言ってませんが、約束はしているハズです」


 胸を張って言い張っているが、何も決まっていないと言っているのに等しい。

 いや、むしろきちんと約束しているよりタチが悪い。


「……今日の夜、いきなり押しかけたりするなよ?」


 釘を刺すつもりで言ってみたら、後輩は心から残念そうな顔をした。


「そうしたいのは山々ですが、あいにく住所を知りませんので」


 やる気満々の回答に絢香は頭を抱えたくなる。

 こいつは夜中に押しかけて何するつもりなんだ。


「絢香さんが一緒だとポチも喜ぶと思うんですよ」


 意味不明な事を言って、後輩は絢香を見つめている。


「喜ぶわけないじゃん。困らせるだけだよ」

「いえ、ポチは絢香さんみたいな女性が好きですから、絶対に喜びます」


 何を根拠に断言するのかと思ったら、彼女はため息交じりに付け加える。


「だって山のようなエロ本から、迷わずロリを選びましたから」

「面と向かってあたしにそれを言うか? おい、表出ろ、こら!」


 絢香に『ロリだから好き』が禁句なのは周知の事実だ。

 苦笑しつつ腕まくりしながら後輩に言うと、悲しそうな顔が返ってきた。


「彼は私が拾った《胸の大きな女性》が写ってるエロ本に全く興味を示さなかったんですよ? なのにロリは自分から手に取ったんです!」


 嘆くように言っているのだが、全く意味がわからない。


「ちょっと待って。今日の話ってどんな話だったの?」


 校庭の大焚き火を消しに行っただけなので、いまいち全体が分かっていない。

 大量のエロ本があったのだけは知っているが、それだけだ。


「私だって説明できませんよ。ポチが《胸の大きな女に興味があるのか》を知りたかっただけなのに、どうしてあんな事になったのやら」


 ブンブンと腕を振り回して言っているのだが、つまり拾ったエロ本で好きな男の性的志向を知ろうとしてたのか?


「……そんなの直接聞けばいいんじゃない?」

「それで『嫌いだ』って言われたらどうするんですか? そんな事になったら私は自分の胸、包丁で切り落としますよ!」


 涙目になってとんでもない事を断言する。


「だから一緒に来て欲しいって言ってるんです! ポチ好みの絢香さんが一緒にいたら、私ももう少しポチと仲良くなれるじゃないですか!」


 もう、いろいろと話がおかしいのだが、どこに突っ込んだらいいのやら。


 彼が自分に興味ないのは、絢香自身よく分かっている。

 どう考えても、こいつの付属物程度にしか思われてないんだけどな。


「そうだ、ポチの部屋に入ったら家捜ししてください! 私はするなと止められているので代わりにして欲しいんですよ。何か絶対に出て来ますから!」


 まるで《とても良い提案》をしているかのような顔で後輩は語っている。


 いちいち巻き込んで欲しくないんだけどな。

 卒業も近いし、むしろ距離を置こうかと考えていたくらいなのに。


 絢香は諦めの深いため息を吐く。


 実際、こんなとっちらかった女が一人で現れたら、ポチの家族だって困るだろう。

 ほっといたら何しでかすか予想もつかない。


「ああ、もう、わかった。一緒に行くから。どんだけ邪魔にされても付き合うから。なんならあんたたちの邪魔もするから」

「ありがとう、絢香さん。一緒に仲良くなりましょう」


 後輩は絢香の手を握って礼を言う。


 ――こいつ、分かってて言ってるのかなぁ。


 呆れながら思うが、何も考えてないに決まってる。

 だから絢香は肩をすくめて、いつものように笑顔を向ける。


「ん、そうだね。仲良くなれるといいね」

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