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茶道部の出来ごころ 〜茶道部の犬に、先輩のオッパイは揉めない〜  作者: 工藤操
第11章 友よ、秘密の図書館で会おう
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11-10 キャンプファイヤー

 夕暮れの校庭に先輩の大声が響く。


「いいから、うだうだ言わずに持って帰れ! 一冊たりとも校内に残すな!」


 いつまでも号泣し続けるエロ本図書館のメンバーを持て余した先輩は、全部処分の命令を撤回した。

 情にほだされた、というより面倒くさくなったのだろう。


 さすがに《持ってるだけでアウト》な本は今すぐ処分となったけど。

 どうせ売れないし、持って帰るのもマズイからね。


 ちなみに彼らは全員3年生という《設定》になっている。

 普通のエロ本を持ち帰るぶんには問題ない。


 うん、ちゃんと確認してないけど3年生だから問題ない。

 結局の所、まあまあな妥協案で収まった感じだ。


 落ちた天井は後日撤去するとして、すごくヤバいのをまず倉庫から運び出すことにした。

 そしたら、それだけでとんでもない数になり、ちょっとした山の様相である。


「……先輩、これ、どうします?」

「生徒会室のシュレッダーにかけようと思っていたのだが……」


 ため息交じりで彼女は言うが、さすがにこの数は無理だろう。

 とはいえ今日のうちに処分しないと、保管場所とかの新たな問題が発生してしまう。


 成り行きの結果ではあるが、どうにかしないとマズイ。

 こんな本、そこらに置いとけるもんでもないし。


 僕らが途方に暮れていたら、館長が突然に哄笑する。


「ハハハハ、今こそ時が来れり。全ての本に火を放て!」


 彼の号令でエロ本図書館のメンバーが積み上げられたエロ本に火を付けた。


「は? 何してんの?」


 そりゃ処分方法に困ってたけどさ。

 いきなり校庭で燃やすってのはありえなくないか?

 

 しかも全員が迷いなく火を付けた。

 持ってるだけで逮捕される本なんて、二度と手に入らない稀覯本なのに。


 明らかに統制された行動だ。

 そういえば倉庫からエロ本を運び出す時に、何やらヒソヒソ話してたもんな。

 てっきり大切なのだけでも隠そうとしているんだと思っていたが。

 

「ハハハ、さすがは年代物の禁書だけあって、よく燃えよるわ! 我らが魔神を呼び出すにふさわしい炎だ」


 キャンプファイヤーのような火柱を前にして、館長が高らかに笑う。


 いや、そんなこと言ってる場合ではないくらいの火柱なのだが。

 通報されるんじゃないか、これ?


 携帯コームで髪型を整えた館長は、燃え盛る炎を背にして大きく両手を広げる。


「愚かなる生徒会の犬よ。我らがエロ本図書館は永遠である! エロ本魔神の降臨に立ち会える幸運に感謝するがいい」


 ……ちょっと言ってる意味が分からない。


 それが顔に出ていたのだろう。

 白手袋を貸してくれた男子生徒がそっと近づいて来て耳打ちする。


「エロ本図書館に伝わる悪魔召喚の儀式です。全てのエロ本を焼いた時に、エロ本の神が現れると言われています」


 え? それ、神と悪魔のどっちなの?

 そんなの呼んで、どうすんの?


 まあ突っ込んでも仕方ないんだろうけれどさ。


「えーと、そんな話、どこから出て来たの?」

「さあ? 伝承ですので僕らにはちょっと……」


 男子生徒は首を捻るが、すぐに館長が懐から一冊の薄い本を取り出した。


「伝承の出典ならば安心しろ。全てこの本に書いてある」


 わざわざ僕が見やすいよう、顔の前に突き出してページを広げてくれる。

 この人たちって基本的には親切だよな。


「……これ、エロマンガじゃないですか」


 出典とか大袈裟に言ってるけど、やたら薄いしB5サイズだし、同人誌だよね、それ?

 ホント、いろんな本があるな、ここ。


「ほら、見てみろ。このページで火を付けて、3ページ後に炎の中から魔神が現れるんだ」


 彼はページを指さし自慢気に語ると、一人で納得したように頷いている。


 そんなもの出して、その後どうするつもりなんだよ。

 魔神なんか呼んだらロクな結果にならんだろうに。 


「ダメでしょ、フィクションの内容、そのまま実行しちゃ!」


 呆れ返っているのを感心していると勘違いしたのか。

 館長は満足そうに頷いて、


「興味があるなら貸してやってもいいぞ。学園エロの傑作だ」

「まあ、確かに絵はかわいいと思いますけど」


 表紙を見ただけでも、かなり上手いと分かるしな。

 もう少し読んで見たい気もするぞ。


 ――ん? ちょっと待て。


 これ、あまりにもかわいくないか?

 昭和の時代にこんな絵柄無かったハズだぞ。


「ねえ、それ、いつの本?」

「一昨年の文化祭で漫研が配布した同人誌だ。一般には出回ってないという意味では、これも稀覯本になるな」


 当然のように館長は言う。

 一昨年発行の同人誌って、そんなの伝承でも何でもねえじゃねえか。


「えーと、表紙の作者名、宮本あゆむってありますけど、もしかしてオカ研の部長ですか?」

「うん、後で呼び出しだな」


 すこし離れた場所にいる先輩が淡々とした声で言う。


 とりあえず、エロ本図書館の人たちから《先生》と呼ばれてる理由は理解できた。


 あの人、いろいろやってたんだなぁ。

 インチキ占い師なんか目指さないで、こっち頑張った方がいいんじゃ無いのか?


「よし、次は生贄を捧げるぞ! この女を縛り上げて裸に剥け!」


 館長の号令で、エロ本図書館のメンバーは体育倉庫から煤けた万国旗を持ち出して先輩に襲い掛かった。

 止める間もなく先輩がぐるぐる巻きにされていく。


「よし、いいぞ! 早く服を脱がせろ!」

「博士、大変です! 縛り上げたら服が脱がせられません!」


 今日の先輩はスカートの下にジャージ履いてるし、ぐるぐる巻きにしすぎてるから制服を脱がすのは無理だ。

 彼らの声に、エロ本博士は慌てて手元のページをめくる。


「そんなバカな! この本ではそうしてるぞ!」


 つられて僕も横から覗き込んで確認する。


「……あ、ホントだ。縛ってから脱がしてますね。これ、どうやってるんでしょう?」


 こういうところを描かないのはマンガならではだな。


「変なトコに感心してないで助けてくれ!」


 万国旗まみれになって校庭に転がる先輩が怒ったような声を出す。

 まあ、彼女を放っといたのは悪かったと思う。


「わかりました。ちょっと手荒くしますよ」


 言うと同時に彼が持っている同人誌を上に向かって叩きあげた。

 宙を舞う本に館長の視線が向いたところへ、足をかけてなるべく派手に転がす。


 彼がもんどりうって倒れるのを横目で見ながら、火の中に入りそうだった同人誌を空中でキャッチする。


「ああっ館長!」


 派手に倒れた館長に一同の視線が集まる。

 その隙に距離を詰めて、彼らが抵抗を試みる前に次々と張り倒す。


 先輩に危害を加えた相手なので、あまり手加減はしなかった。

 10秒もかからず全員が地面に倒れ伏していた。


 黙って倒れたままの館長のところへ歩き、胸ぐらを掴んで引き起こす。


「で、先輩を縛ってどうするって?」

「……ま、魔犬だ」


 震える声で館長が言う。


「大変だ、我々は魔犬を召喚してしまった! もはやエロ本図書館は滅びるしかない! みんな、逃げろ! 持てるだけのエロ本を持って逃げるのだ!」

 

 彼の叫びでエロ本図書館のメンバーたちが色めき立つ。


「魔犬だ!」

「もう終わりだ!」

「かくなる上は我々も炎の中に身を投じよう!」


 エロ本図書館のメンバーはまだ火がついていないエロ本を抱え、パニックになって走り回る。

 この人たち、僕をどんな風に思ってるんだろう?


 いったい彼らの脳内でどんなストーリーが展開しているのやら。

 呆れながら見ていたら、校舎からものすごい勢いで絢香さんがバケツを手に走ってきた。


「あんたたち、何してるのよ! 校庭でこんな焚き火して、いま職員室で騒ぎになってる!」


 僕の胸ぐらを右手で掴んで、ぶさ下がるようにしながら怒っている。


「……あの、絢香さん。これには事情がありまして」

「言い訳なんかどうでもいいから早く消せ、バカ犬!」


 言うと同時に手を離すと、反対の手に持っていたバケツの水を僕にぶちまける。


「……ごめんなさい。すぐ消します」


 頭からずぶ濡れになりながら言うと、彼女は空のバケツを焚き火にぶん投げて僕を蹴倒す。

 右足で僕を踏みつける彼女の姿に、館長がぽつりと呟きを漏らす。


「……女神だ」


 彼の言葉はさざ波のようにエロ本図書館のメンバーたちに広がっていく。


「女神が現れた」

「神岡先輩はエロ本の女神さまだ」

「おお、我々は助かったぞ」


 みんなで口々に絢香さんを《女神》と呼び、地面にひれ伏して拝み出した。


「は? 何、この集団? え? 何であいつ、ぐるぐる巻きにされてるの?」

「えーと、話すと長くなるのですが……」


 絢香さんに踏まれたまま、雫の落ちる前髪を搔きあげて答えた。


「……とりあえず、それっぽいポーズでも取ってもらえますか?」

「え? よく分かんないけど、こんな感じ?」


 僕に言われるまま、彼女はホタテ貝に乗った女神みたいなポーズをしてくれる。


「おおっ、なんという神々しさよ!」


 エロ本図書館のメンバーたちは地面に頭を擦り付けんばかりにして絢香さんを拝んでいる。

 正直なところ、ドン引きだ。


 顔を上げれば校舎から執行部の人たちが走って来るのが見える。

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