11-6 第二倉庫に歴史あり
たどり着いたのは校庭の片隅にある第二体育倉庫だった。
宮本から紹介されたボロボロの木造倉庫を前に、僕らは二人並んで困惑する。
「えーと、ここがエロ本図書館なんですか?」
どう見てもボロい体育倉庫にしか見えないんだけどな。
とても図書館なんて代物には見えない。
「第二倉庫に、そんなスペースはなかったと思うが」
隣に並ぶ先輩も腕組みをして訝しい顔をしている。
「ねえ先輩。なんで体育倉庫って二つあるんですか?」
せっかくの機会だから、ちょっとした疑問を先輩にぶつけてみる。
なぜか、うちの学校には《体育倉庫》と《第二体育倉庫》が存在している。
授業で使うのは校舎に近い位置にある体育倉庫で、こっちの倉庫には何が入っているのさえ僕は知らない。
「私の入学よりずっと前の話なんだけどな」
先輩もあまり詳しくはないようで、自信なさそうな顔で説明してくれる。
「老朽化による建て替えで、こっちは本当なら取り壊す予定だったと聞いている。結局、普段使わない体育祭の道具などを放り込んでおくのに都合良かったんで、そのままになったらしい」
時系列的には第二の方が先に建っていたのか。
第二という呼称は《予備》とか、そんな意味なのかな?
「それ、いつごろの話なんです?」
いま使っている体育倉庫ですら、けっこう古い。
目の前の第二体育倉庫は木造だし、そうとうにボロい。
地震とか来たらヤバいんじゃないかって見た目だ。
「さあ? 平成か昭和か、そんな時代の話らしいが、古すぎてよく分からん」
全て口伝の言い伝えらしい。
まあ体育倉庫の運用は執行部とは無関係だしな。
「私もあまり入ったことがないが、ガラクタみたいな物しかなかったと覚えているぞ」
肩をすくめて先輩が言う。
「こんなトコに図書館って言われても……」
「まあ、それは入ってからのお楽しみってヤツなんだろう」
先輩が笑顔で言って、体育倉庫の扉を開ける。
□
思ったより色々入ってるな。
最初に考えたのはそんなことだった。
明かりはあるのだが、色々と積まれすぎてなんか薄暗い。
使わなくなった物を片端から放り込んでいった結果なのだろう。
古い跳び箱や、ボロポロになったマットがうず高く物が積まれて、足の踏み場もない状態だ。
「うちの体育祭って棒倒しはしませんでしたよね?」
壁の方に積んである丸太を指差して言うと、先輩も巨大な紅白の玉を眺めて呆れたような声を出す。
「大玉転がしの玉とか、いつ使ったんだろうな」
少なくても今年の体育祭ではそんなのなかった。
本当に昭和の頃から、そのまんまなのかも。
大昔の文化祭のアーチや看板なんかも入ってるし、本当にガラクタ倉庫になってるな。
「しかし、直せばまだ使えそうなものもあるな。今度、きちんと整理してみるか?」
「それ、執行部だけでお願いしますね」
やんわり断ると、先輩はすごく不満げな顔になる。
でも、そんな時間があるのなら押入れのコタツを探したい。
「確か、こっちと言ってたな」
先輩が奥の方を指差しながら、器用に積み上げた物に登って歩く。
先輩だって体育倉庫の奥には入ったことがないはずだ。
それなのに、どこに足を置けばいいのか理解しているような動きを見せる。
「まあ勘だな。こういう部屋の隠し通路みたいのは足を置く場所に規則性があるんだよ」
なんだか分からない木材の上から僕を振り返って自信たっぷりに彼女は言う。
それはいいのだが、僕らは本当にエロ本図書館へ案内されているのか?
どう見ても、そんなスペースないんだけど?
「うわっ」
新たに一歩踏み出した先輩が、何か踏み抜いて転落しかける。
「あまりアテにならない勘ですね?」
とっさに腕を伸ばして先輩の体を支える。
ちなみに件のエロ本はオカ研で借りたバックパックに入っているので、僕の手は両方とも空いている。
なんで貸してくれたのか、その理由がようやく分かった。
「ああ、すまん。やはり油断するとダメだな」
照れ臭そうに笑って体勢を整える。
エロ本図書館に行こうとして大怪我、とか勘弁して欲しい事態だ。
「先輩、僕が先に行きますよ」
返事を待たず、彼女と体の位置を入れ替える。
危ないし、狭いからね。
この先、這って行かなきゃ無理そうだし、そうすると僕が目のやり場に困りそうだ。
まあ先輩はスカートの下にジャージなんだけどさ。
慎重に体重をかけられるところを探り、倉庫の一番奥まで這うようにして進む。
そしたら一番奥の隅、入り口からは決して見えない場所に梯子があった。
「……先輩、梯子があります」
「うん? そりゃ倉庫なんだからそれくらいあるだろ?」
先輩が僕の背に乗るようにして確認しに来た。
背中の感触についてはあまり考えないことにする。
後で思い出すくらいにしておこう。
「ふむ。障害物競争にでも使っていたのかな?」
見るからに古い、木で出来た梯子だ。
もうボロボロで、体重をかけたら折れてしまいそうな梯子なんだけど。
よくみれば、それは天井とつながっていて、隠し扉のようなものが見える。
「えーと、コレ、登りますか?」
「ここまで来て帰るわけにもいかんだろ」
恐る恐る尋ねると、先輩もため息をつきながら答えてくれた。