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茶道部の出来ごころ 〜茶道部の犬に、先輩のオッパイは揉めない〜  作者: 工藤操
第11章 友よ、秘密の図書館で会おう
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11-5 禁断のハーブ

「えーと、この持ち主を探しているんですけど」


 オカ研の部室でハーブティを飲みながら、持ってきたエロ本を差し出す。

 目の前に出された肌色の表紙に憮然としながら僕を見る。


「何、これ? ビニ本?」

「おや、こういうのにお詳しい?」


 即座に《ビニ本》なんて言葉が出てくるので造詣が深いのかと思ったが、宮本は首を振って否定した。


「そうでもない。昭和サブカル史を勉強すると出てくるから知っているだけ」


 そうは言っても僕らよりはよほど頼りになりそうだ。

 少しでも持ち主の手がかりが掴めたら御の字である。


「これは80年代前半のビニ本だね。ふーん、『あかりの性活』ねぇ」


 あ、そのタイトル、《せいかつ》て読むんだ?

 なんでか知らんがエロ関係って、そういうダジャレ、好きだよな。


「ほう、表紙を見ただけで出版年代が分かるモノなのか?」


 マカロンを食べながら先輩が感心したような声を出す。

 宮本は我が意を得たりと言わんばかりに、得意そうな顔で説明を始めた。


「もちろんよ。本のサイズから紙質や印刷の具合に始まり、タイトルやモデルさんの雰囲気でも分かるし、カメラマンの撮り方も時代によって変わるから――」


 立板に水で語っているが、どっかで止めないと一ページごとの解説になりそうだ。


「あの、お願いしたいのは鑑定じゃなくて、これの持ち主なのですが……」


 話を途中で遮られても彼女は嫌な顔一つせず、机の上のエロ本を指でつつく。


「ねえ、中、見ていい?」

「どうぞ。ビニール袋は僕らが入れたものですから」


 宮本はためらう事なく手に取ると、封を開けてエロ本を取り出す。

 人前でこんなの見るのに、なんの抵抗も感じていないようだ。


 堂々とエロ本を手にする宮本の姿に、むしろ僕の方がいけないモノを見ているようで何となく恥ずかしい。


「うわっ、何コレ? 胸デカっ!」


 ページを開いた途端に、宮本が大声をあげる。

 さらにページをめくって、また大声を出す。


「デカっ! すごいデカいよ! ねえ、これ、あんたよりデカいんじゃない?」


 宮本が真剣な顔で聞くもんだから、先輩が返事に困った顔をしている。


「これの持ち主、分かりますかね?」

「え? ……これの?」


 困惑した表情で彼女は自分の胸を見た。

 それから顔を上げて先輩の胸に視線を送る。


「あの、胸の持ち主を聞いたのではないのですが?」

「ああっ、このエロ本の持ち主って話なの?」


 得心したように目の前のエロ本を手に取った。

 最初にそう言ったのなんか聞いていなかったらしい。

 しげしげと表紙を眺め、やがて裏返す。


「うーん、名前も書いてないしねぇ」


 考え込むような素振りで言う。


 ……エロ本に名前書く人ってあまりいないぞ。

 思ったよりずっとエロ本に詳しいけど、全くアテにならなそうだ。


 だけど宮本が発している《遊んで欲しい》オーラがすごい。

 『役に立たないからもう帰る』とは、なかなか言いにくい雰囲気だ。


「えーと、先輩。ハーブティ、飲まないんですか?」


 とりあえずの場つなぎで、机の上にある手付かずのままのカップを指差す。

 せっかく宮本が淹れてくれたのに全く口を付けていないのだ。


「ここのお茶はちょっとな」


 先輩は苦笑しながら首を振る。


「ああ、ハーブティーはクセが――」


 喋っている途中で気がついた。

 味が問題なんじゃない。


 改めて言うがオカ研・宮本はオカルトを全く信じてない。

 基本、ハッタリや雰囲気重視だ。


 この部屋にあるドライハーブっぽいのは校庭の雑草だし、トカゲの干物は道端で拾ったモノである。

 調達にお金がかかっているモノなんてない。


 ここのハーブティーは《独特の味がする》と思ってた。


「ねえ、宮本さん、これって何のハーブなの?」


 まさかと思って聞いて見たら、宮本は僕を見て無言のまま微笑んだ。

 いや、微笑まないでよ、怖いから。


「これ、もしかして、そこらへんの雑草なんじゃないの?」

「いやね、ちゃんとハーブよ」


 微笑んだまま宮本は言うが、どうにも信用できない。


「えーと、お茶にする前の原材料、見せてもらえませんか?」


 しつこく確認を求めると、宮本の顔からスッと笑顔が消える。


「ちゃんと洗ったから大丈夫よ」

「だから何を洗ったんです?」


 何度も飲んでいるので、さすがに毒ではないと思うのだが。

 ちょっとオカ研を甘く見ていた。


 げんなりとしてたら隣に座る先輩がぼやく。


「お茶セット、持ってくるべきだったな」

「すいません。そこまで気が回りませんでした」


 なんとなくの勢いで来てしまったので、僕らにしては珍しくエロ本しか持ってきてない。


「いまからお茶セット、持ってきましょうか?」


 いちおう聞くが、先輩は首を横に振った。


「ここは空振りだな。一度戻って考え直そう」


 そうですね、と立ち上がって机の上にあるエロ本を回収しようとしたら、宮本が僕の手を抑えた。


 引き止められるのかと思ったら、案外と真面目な顔で彼女は言う。


「ねえ、ポチくん。これの持ち主を探しているなら、エロ本図書館に行った方がいいよ」


 エロ本図書館?


「……ちょっと待って。それ何?」


 いや、言ってる意味はなんとなく想像できるんだけど。


 どこにあるんだ、そんなもん?

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