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茶道部の出来ごころ 〜茶道部の犬に、先輩のオッパイは揉めない〜  作者: 工藤操
第11章 友よ、秘密の図書館で会おう
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11-4 昭和サブカル史

 ……ちょっと浮かれすぎてしまった。


 三階の廊下で、僕らは疲れ果てて膝をつく。


 二人で手を繋いで歩いていたら、だんだん先輩が手の振りを大きくしはじめた。

 何かと思って彼女を見れば、いたずらっ子みたいな笑顔で僕を見上げる。


 よく分からないがご機嫌そうなので、僕も彼女の手の振りに合わせて大きく手を振る。

 そしたら歩幅も次第に大きくなって。


 気がつけば僕らは手を繋いだまま廊下をスキップで移動していた。

 ブンブン手を振って階段すらスキップで登り、目的の教室まで宙を舞うように飛んできた。


 どうして、こんな事になったのやら。

 エロ本を片手にスキップしてるとか、わりと正気を疑う行為だぞ。


「すまんな。君と手を繋いで歩いていたら、なんだか楽しくなってしまってな。つい子供みたいにハシャいでしまった」


 肩で息をしている先輩が笑う。


「だが、おかげで体は暖まったよ」 

「やっぱり押し入れのコタツ、探しましょうね」


 先輩が寒いの苦手なら、絶対にそのほうがいい。

 毎日、こんな事やってられないからね。


 二人で顔を見合わせ、何となく笑ってしまう。


「……それで何でオカルト研究会なんですか?」


 目の前の扉を眺めながら聞いてみる。

 先輩はカチューシャの位置を直しながら笑顔で頷く。


「うん? そのエロ本の持ち主を占って貰おうと思ってな」

「いや待って。ここの占い、インチキじゃないですか」


 オカ研の部長さんは、全くオカルトを信じていない種類の人だ。

 勢いとハッタリ任せの人で、彼女から貰った《恋愛成就の壺》は年を越した今でも持て余している。


「だって何の手がかりもないんだぞ。占いに頼って何が悪い!」


 そう言えば、うさんくさいオカルトが好きな人だった。

 ただの趣味でここに来たんじゃないだろうな?


「君の言いたい事は分からないでもない。だがな、インチキだからこそ下調べや根回しはしっかりやるんだ。色々と人脈が多いから、聞いてみる価値はあるよ」


 そりゃね。執行部とは全く違う人脈があるのかもしれないけど。

 あの人、三年生なんだぞ。


「もうすぐセンター試験ですから、さすがに部長さんはいないと思いますけど」

「普通にいるわよ」


 いきなり扉が開いてオカ研の部長が顔を覗かせる。


「うわぁ、ビックリした!」

「相変わらず騒がしい人たちね」


 扉の奥で腕組みしている彼女は例の黒装束ではなく、普通に制服を着ていた。

 長い黒髪を二つ結びにして、ちょっと度の強そうなメガネの奥から呆れた顔で僕らを見下ろしている。


「えーと、宮本さん、こんな時期まで部活やってるんですか?」


 廊下に膝を突いたまま、愛想笑いを向ける。


「ここであーやに勉強教えてもらってるのよ」


 オカ研部長・宮本は少し疲れた顔で言う。


 勉強の進捗がどうなのかはあえて聞かない。

 この人を刺激してもロクな事にならないからね。


「あ、言っとくけど、あいつ、いま職員室に行ってるからいないよ?」


 二つ結びの髪の毛をクリクリいじりながら教えてくれる。

 あの人がいると話がややこしくなるので、いない方がありがたい。


「今日は制服で対応してくれるですね」


 立ち上がりなから声をかけると、宮本はちょっと肩をすくめて笑う。


「こっちの方がポチくんが好きだって聞いたからね」

「あれ? 僕、その話しましたっけ?」


 先輩にそんな話をした記憶はあるのだが、彼女に直接言ってはいないハズだ?

 いつの間に伝わったのかと不思議に思っていたら、


「冗談よ。わざわざ着替える時間が惜しいだけ」


 ちょっと照れたような顔をして背を向けた。

 案外、本当にサービスしてくれたのかも。



          □



「いま、あんま余裕無いから、難しい話は無しにしてね」


 面倒くさそうな顔で言いながら宮本がハーブティーを準備している。

 その言葉とは裏腹にイソイソと用意しているのは気のせいだろうか。


「あーやが戻って来るまでの間だけだからね」

「はい、分かってます。受験生の邪魔はしません」


 念を押すように言われたので素直に返事をしておく。

 まあ、宮本に相談があるわけじゃない。

 ちょっと話を聞くだけなので、すぐに終わるハズだ。


「さぼるとうるさいんだよ、あいつ」


 ぼやきながら丸テーブルにお茶を置くと、片手で《来い来い》の仕草をして僕らを座らせる。


「ポチくん、お菓子食べる? あーやが持ってきた奴だけど」


 すっと僕の横に立って、なかば無理やりマカロンを僕の手に握らせてくる。

 ちょっと意味が分からなくて気持ち悪い。


「あれ? マカロンは好きじゃなかった? それじゃクッキー食べる? これもあーやから貰ったのよ。はい、あーんして?」


 スツールに座っている僕に体を寄せて、グリグリと額にクッキーを押し付けてくる。


 マカロンもクッキーも好きだけどさ。

 美味しいかどうかは、食べ方も大事だと思うんだ。


 ていうか、おでこ痛い。そこ、口じゃない。


「……あんまり時間ないのでは?」

「気にしないでいいわ。ポチくんなら特別よ!」


 宮本を見上げて聞くと、満面の笑顔でグリグリされた。


「えーと、受験、大丈夫なんですか? あまり余裕無いと聞いてますが」


 彼女の手を押しのけながら確認すると、はっ、と短いため息をついて肩をすくめた。

 手にしたクッキーを自分の口に放り込み、やさぐれた仕草で手近なスツールに座って足を組む。


「人間、たまには休憩だって必要よ」


 その言葉だけで察するものがあった。


 あ、これ、長居したら僕らも絢香さんに怒られるヤツだ。

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