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茶道部の出来ごころ 〜茶道部の犬に、先輩のオッパイは揉めない〜  作者: 工藤操
第1章 全知全能の神に導かれて僕らは出会った
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1-10 現人神、降臨

 僕は小声で呟くように言ったのに、池目はしっかりと聞きとがめた。


「無礼な発言は控えたまえ! 新しき神の御前であるぞ!」


 彼はブラジャーを着けた胸を張り、破れたワイシャツをブンブンと振り回した。


 自ら神を名乗るのもアレだが、ブラジャーをした男性神はもっとアレだよな。


 動いたせいでずり上がったブラジャーを、両手の指で摘んでから引き下げる。


 指を放すときに小気味いい音を立てたのが気に入ったらしい。

 彼はその後、何度も指を差し込んでは引っ張り、パチンパチンと言わせている。


「ハハハハハ。沙織ちゃんのブラジャーは最高だよ!」


「ああっ、あたしのお母さんのブラジャーを、そんなにしないで!」


 お下げ髪を揺らして沙織さんが悲しげに叫ぶと、彼は急に表情を曇らせた。


「……沙織ちゃん」

「何でしょう?」


「いま、お母さんのブラジャーって言った?」

「はい。母が愛用していたブラジャーなんです」


「ちょっと待ってくれ。これは沙織ちゃんのじゃなくて、お母さんのブラジャーなのか?」

「母の形見のブラジャーです」

「そ、そうか。…………え? そうなの?」


 思いもよらなかった事実を告げられ、はた目からも池目が困惑しているのが分かる。

 まあ、そうだろう。僕らもずいぶん困惑した。


「……そんなバカな。俺の全知が……。ああっ、揺らぐ! 揺らいでいる! 俺の中の下着好きとしてのアイデンティティが! 神は、神はどこへ行った!」


 池目は半裸のまま身もだえして倒れると、そのまま床をのたうち回っている。


 思った以上に色々と大丈夫じゃない人だった。顔はいいのに残念な事だ。


「……だめだ、違う。間違っている」


 涎の糸を垂らしながらゆらりと立ち上がった池目は、背中に手を回してブラジャーを外す。


 口元に付いた涎を手にしたブラジャーのカップの内側でぬぐってから、沙織さんの目の前にグイッと付き出した。


「コレは返すよ。……だが沙織ちゃん。君のブラジャーが欲しい気持ちは、今もまだ俺の胸に燃え盛っているんだ」


 血走った目で彼女を見つめ、ブラジャーを持った手を、そのまま彼女の胸元へ伸ばした。


「だから俺は君からブラジャーを奪い、今度こそ全知全能の神になる!」


 そう宣言すると、無理やり沙織さんのセーラー服を脱がせ始めた。


「キャアァ! や、やめてください!」

「池目先輩、何をしている!」


 人気の無い廊下に、沙織さんの悲鳴と先輩の怒号が響き渡る。


 先輩が後ろから羽交い締めにして無理やり沙織さんから引き離そうとしているが、そんな事で彼が止まるワケがなかった。


「離せ! 全知たる俺の間違いは、この世界が間違っているという事だ。俺は沙織ちゃんのブラジャーを得て全能の神になり、世界の間違いを正すんだ!」


 僕も池目の腕を掴んで制止しようとしたけれど、激しく暴れて手が付けられない。


「うわっ」


 揉み合っているうちに、先輩が短く呻いてよろめいた。

 暴れている池目の肘が、彼女の顔に当たったらしい。


「先輩!」


「これしきで騒ぐな、ポチ。私なら大丈夫だ」


 先輩は鼻に手を当てて涙目になりながら、それでも気丈な事を言う。


 怪我をしていない事を目の端で確かめつつ、僕は池目の腕を掴んでいた手を離した。


「あのさあ、僕だって女の子の下着は大好きだけど」


 僕の穏やかな声を意外に思ったのか、池目が血走った目を僕に向けた。

 嬉しそうな笑顔で何かを言おうとしているが、先輩に暴力を振るう奴の話なんか聞く気はない。


「せめて本人から許可を取れよ!」


 言うと同時に、手加減無しで池目を思いきり張り倒した。


 パンっと小気味いい音がして、池目がベチャッと廊下に倒れ込む。


「これで先輩の鼻が低くなったら、どうするつもりだ! せっかく美人でかわいいのに!」


「……ポ、ポチ?」


 ドン引きしたような先輩の声が聞こえる。

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