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10-6 そこは気軽に『オッケー』って言えよ!

「学校の向かいに青木さんて家があるじゃないですか。あそこの家族はラッシーが大好きですけど、誰もラッシーの恋人になろうなんて思ってないんですよ!」

「思ってたら大変だよ。どんな性癖なんだ」


 目の前に座る絢香さんがツッコミを入れてくる。

 期待通りの言葉に僕は大きく頷いた。


「ですよね? 普通の人は犬に恋愛感情は持ちませんよね? そんなことを思うのは変態ですから!」


 あのあと《何で先輩に告白しないのか》という話になって、僕は熱弁をふるっていた。

 こんな話に興味あるのか分からないが、絢香さんはお茶を飲みながら話を聞いてくれている。


「ねえ、その論法だと、ポチくんは変態としか恋愛ができないことにならない?」


 ポケットから出したクッキーを齧りながら、僕に質問をする。


「いえ、そこは大丈夫です。僕を犬と思っていない人となら恋愛だって……できますかね?」

「何で不安になって、あたしに聞くのよ?」


 呆れ返った顔で絢香さんが答える。


「だって僕、そういう経験ないんですよ。よく分からないんですよ」

「だからあたしだって、そんな経験ないんだってば。それとも、あたしとそういう経験したいって話?」


 そう言って彼女は上目遣いに僕を見ながらお茶をすする。


「は? 絢香さんとですか?」

「小さいから持ち帰りも簡単で、彼女にするならお買い得だと思うけど」


 そんな事言われてもなあ。

 考えたこともなかったから、返事のしようがない。


 つい考え込んでしまったら、絢香さんが畳をバンバン叩いて文句言って来た。


「いや、悩むなよ。そこは気軽に『オッケー』って言えよ!」

「言えるわけないでしょ? そんなおっかない事」


 即座に断ると、絢香さんは湯呑みを畳の上に置き、僕の方に身を乗り出した。 


「あのさ、前から聞きたかったんだけど。君はあたしのこと、どんな風に思ってるの?」

「えーと、かわいくて美人で魅力的な人だと思ってますけど……」


 思ったところをそのまま言って見たら、彼女はポカンとした顔で固まってしまった。


「……あの、どうかしましたか?」

「ん、ちょっと照れてだけ。てっきり《チビ》とか《まな板》って言われるかと身構えてたからさ」


 ホントに少し頰を染めて、手で顔を仰いでる。

 こんなので照れるなんて意外だ。


「ん、君がそこまで言うなら、今度、パンツくらいは見せたげるよ」

「もうやめましょうよ、その話題。そもそも絢香さんは僕と付き合いたいんですか?」

「え? そう真面目に聞かれても……」


 困惑した顔で顎に手を当て、黙り込んでしまった。


「けっきょく自分でも悩んでるじゃないですか?」

「いや、どう答えたら傷つかないかなって考えちゃって」

「それ考えるくらいなら、最初から変なこと言いださないで!」

「あはは、つい出来心で」


 バカなことを話していたら、ようやく先輩が和室に戻って来てくれた。


「すっかり遅くなってすまない。トイレで執行部の連中に捕まってな。年明け初日なのに、あいつらは真面目すぎる。ポチ、二人きりで失礼はなかったか?」


 喋りながら入って来た先輩を、絢香さんは笑顔で迎える。


「ん、今度ね、パンツ見せる約束した」


 聞いた途端に先輩の目がスッと細くなる。

 そのまま部屋の中へ歩いて来て、絢香さんの隣に腰を下ろす。


「ふむ、それは羨ましいな。なんなら私のパンツも見てみるか? 私は今日のパンツにけっこう自信があるぞ」


 低い声で言うものだから、かなり怖い。

 怒られる予感で、縮こまるようにして声を出す。


「いや、先輩のパンツはもう貰いましたから結構です」

「ほほう、君はもう私のパンツに興味がないと?」


 先輩は畳の上に置いてあった僕の湯呑みを手に取り、一気に飲み干して僕を睨む。


「ちょっと待って。その話、詳しく教えて」


 身を乗り出して絢香さんが食いついてくるが、これ以上ややこしくなるのは勘弁して欲しい。


 なのに先輩はあっさりと誤解されるような事を言う。


「ポチは女性の下着が大好きなんです。中身より下着の方が好きな変態なんです」

「先輩、待ってください! 大真面目な顔で言うと本気にされますから!」


 慌てて否定するも、先輩はゆっくりと首を横に振った。


「いいんだ、ポチ。性癖は個人の自由だよ」


 心ない笑顔で言う先輩の隣で、絢香さんがポンと手を打つ。


「さっきポチくん、自分は変態としか恋愛できないって言ってたもんね」

「私も彼に気に入られたくて、頑張って変態になろうとしているのですが、なかなか難しくて」


 先輩が胸の下で腕組みをして何度も頷くと、絢香さんも大真面目な顔で頷いた。


「そっかぁ。あんたも大変だね」

「ポチは胸の方が好きだからブラジャーをあげるといいですよ。私のパンツはいまいち不評でしたから」


 先輩の言葉で、絢香さんはパッと両手で自分の胸を押さた。

 上目遣いでチラッと僕の顔を見る。


「……欲しいの?」

「いりません。中身の方がいいです」


 即座に断ったら、絢香さんは残念そうにため息をつく。


「あたし、今日の中身には自信がないんだ。また今度ね」


 それ、どんな中身なんだよ。

 むしろ興味深いじゃんか。

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