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10-4 お茶会は校舎裏で

「まあ、とりあえずお茶でも飲んで落ち着きましょう」


 祠のある植え込みから出て、持参してきた保温ステンレスボトルから紙コップに茶を注ぐ。

 どこ行くのか教えてくれなかったから、とりあえず持って来たのだが役に立って何よりだ。


 手渡そうとしたら彼女はそれを受け取らず、


「ちょっと待て、ポチ」


 そう言ってから腰を折り、賽銭箱を地面へ置いて膝上に手をやる。


 どうやらスカートの下に隠すようにジャージを履いていたらしい。

 裾を足首まで下げて、そのままコンクリートの通路に正座した。


 少し照れたような笑みを浮かべて僕を見上げる。


「冷えるからな。——この際だ、落ち着くなら君も座れ」


 言われるままに僕も地面に正座した。

 こうなるんなら座布団も持って来るんだったな。 

 

 真冬の風が吹く中で、地べたの上に正座して僕らは互いに向かい合う。

 お昼近くとはいえ日陰だし、今日はけっこう寒いのに先輩は平気なのだろうか?


 先輩にお茶を渡して話を始める。


「まず僕らが置かれている状況を整理しましょう」


 さすがにマズイ状況なのは僕でも分かる。

 執行部の、しかも生徒会長がインチキ祠を設置して生徒から集金していたことになってる。


 表沙汰になれば不祥事扱いは確実だ。

 不測の事態ではあるが、いますぐ揉み消せるならその方がいい。


 ご褒美の件は置いといても片付けておきたい。


「確認したいことが二つあります」


 先輩の顔の前に二本指を立てる。


「このお金で、部活のお茶とか買い足しますか?」

「いや、それは絶対にダメだ。君も分かってて聞いてるんだと思うが、小遣い稼ぎしたかったと思われたら困るんだ」


 お茶を飲みながら肩をすくめて言うが、まあ当然の返事である。

 僕らの茶道部は色々とツッコミどころが多いので、余計な隙は作りたくない。


「そうなると返金ですかね?」

「しかし、誰に返せばいいんだ? いつの間にかに来て、勝手に金を置いて行ったんだぞ。どうやって人と金額を確認する?」


 返金を呼びかけても嘘つく人がいそうだもんな。

 こんな場所のお賽銭の金額なんか、証明する手段がない。


「なかったことに出来ませんかね。最初からこんな祠は無かったと」


 僕の紙コップからお茶を飲みながら尋ねる。

 みゆきさんの時に使った手だが、先輩は首を横に振る。


「ダメだな。誰かが祠の写真を撮った可能性がある。ここにあった事は消せないと思ってくれ」


 いつ、誰がここへ来たのか不明だから証拠隠滅しにくいのか。


 証拠があるって事は、学校怪談や都市伝説みたいな形にするもの難しいな。

 それが可能だとしても、現金をどうするって問題は残るしな。


 使っちゃダメ。

 返金ダメ。

 もちろん持ち続けるのも捨てるのもダメ。


 詭弁的なアイデアが必要そうだ。

 考えるのは後回しにして、もう一つの方を聞いてみる。


「えーと、もう一つ。あの祠、先輩が一人で作ったんですか?」

「うん? 他の人の手は借りてないぞ」


 先輩は当たり前のように答えるが、ちょっと意外だった。

 てっきり誰か——演劇部の人とか——に手伝ってもらったと思っていたのだが。


「けっこう器用ですね」

「そうでもない。釘がうまく打てなくて、あちこち接着剤でくっつけたんだよ。廃材を何となく切って現物あわせだ」


 恥ずかしそうに先輩は視線をそらす。

 まあ、接着剤使うと解体が手間になりそうだけど。


 と言う事は、祠の設置も一人でやったんだよな?


「演劇部の人は、これ、知ってるんですか?」

「いいや。私は廃材の捨て方を教えて、ついでに少しもらっただけだからな。私が何をしてたかなんて知らないはずだ」


 言ってから、彼女も話がおかしいことに気がついたようだった。

 口元を手で隠すようにして、何か考え込んでいる。


「えーと、ここに祠があるのを——、いや、先輩がこれを作っていたことを知っているのは誰ですか?」


 年末、終業式の日以降に作った代物だ。

 で、今日が始業式だ。


 さらに言えば年末年始の一週間くらいは、部活動も禁止で敷地内すら入れない。

 なんで、この祠の存在を知っている人がいるんだ?


「つまりポチは、誰かがこれを発見して広めた、と言いたいんだな」


 考えがまとまって来たのだろうか。

 空になった紙コップを地面に置いて先輩が僕を見る。


「いえ、こんな場所にあるものを偶然発見したと言うより、先輩が作っている時から知っていた方が自然です」


 僕の問いかけに、先輩がまた考え込む。


 その間に僕は紙コッブにお茶を注ぐ。

 おかわりが欲しいとかじゃなくて、そのままだと風で飛んでっちゃいそうなんだ。


「言わんとする事は分かるがな。作っているところを人に見られた覚えもないぞ。そもそも、あまり人がいなかったから好き勝手やれたのもあるんだ」

「まあ、どこから誰が見てたなんて分かりませんよね」


 改めて紙コッブのお茶を飲みながら言うと、先輩も頷きながら紙コッブを手に取る。


「そうだな。あの日に顔を合わせたのなんて、絢香さんぐらいだ」

「……え? ちょっと待って。あの人、何で学校来てたの?」


 先輩があまりに当たり前のように言うからスルーしかけた。


「おかしくないですか? 三年生が冬休みに何の用事だったんです?」

「オカ研の部長に勉強教えてたって言ってたぞ。私が生徒会室に工具を借りに行く途中で、バッタリ顔を合わせたんだ」


 お茶を飲みながら何の疑いもなく先輩は言う。

 いや、待て。どう考えても、あの人は怪しい。


「えーと、とりあえず参考人として呼び出しましょう。何か知ってると思いますから」


 ポケットからスマホを取り出して、先輩に確認を取る。

 この際だから関係なくても巻き込まれてもらう。


「なあ、ポチ」


 少し困ったような顔で先輩が僕の名を呼ぶ。 


「コンクリ直はやはりダメだ。足が冷えて耐えられん。この続きは和室に戻ってからでいいか?」


 吐く息を白くしながら拝むように言われてしまった。

 やっばり座布団、持って来るんだった。

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