10-3 サイズ的には鳥小屋が正しいかも
小さな祠、と言ったが本当に小さい。
もはや手のひらサイズに近いくらいだ。
祠のミニチュアと言った方が正確かも。
こんなの、ここにあったっけ?
あまり校舎裏には来ないせいか、記憶に無い。
ていうか、何でこんな物がここにあるんだろう?
「あの、先輩。何ですか、これ?」
色々いっぺんに聞こうとしたら、質問が曖昧になってしまった。
これじゃマトモな返事が返って来なそうだ。
困惑している僕を見て、先輩は満足そうに頷く。
「年末に演劇部から、大道具の廃材を捨てたいと相談されてな」
それだけ言うと腕組みをして黙ってしまった。
「……もしかして、これ先輩の手作りなんですか?」
まさかと思って聞くと、自慢気な顔で先輩が胸を張る。
「うん。案外よく出来ているだろ。昨年のうちに仕込んでおいたんだ」
なるほど。
どおりで日曜大工の犬小屋感がある。
何の霊験もなさそうな祠だよな。
「この賽銭箱も自作ですか?」
祠の前に置いてある賽銭箱を指さす。
「いや、100均で買ってきた貯金箱だよ。賽銭箱っぽいのが売ってるんだ」
少し残念そうに言うが、ちゃんと古びた感じに加工してあるし、けっこう凝ってる。
「こんなところに置いてたら、すぐ盗まれますよ?」
「その心配はないよ。この初詣が終わったらすぐ取り壊す予定だ」
それ、僕も一緒にやるんですよね?
口に出しかけたけど、やめておく。
先輩と一緒なら、別に文句なんかないからだ。
「せっかく作ったのに、少し勿体無い気もしますね」
「わざと誰も来ない所に作ったんだよ。来年の初詣まで残してもいいんだがな。ちなみに、中に入れた御神体は、恋愛成就の指輪だぞ。まだツボの中にいっぱいあったから入れて見た」
まあ、あれは機会を見て捨てるつもりだったからいいんだけど。
リサイクル精神は大事だしね。
「つまり、これって恋愛成就の神様なんですか?」
御神体があれなら、そうなるのかな。
あんまり世話になりたくない感じの神様だけど。
「他に適当なものがなかったからな」
肩をすくめて彼女が笑う。
僕だって祠の中に入れられる物なんて持ってないしな。
廃材で作った物だし、妥当なところだろう。
「さあ、そんなわけで私と君の初詣だ!」
先輩が意気揚々とした声を出す。
ここで初詣はいいんだけどさ。
普通にその辺の神社ではなぜダメなのだろう?
お正月のうちに誘ってくれれば、喜んで出かけたんだけどな。
疑問に思っていたら、先輩が僕の顔を覗き込む。
「ああ、ポチ。言いたいことは分かるが、私にも事情があったんだ」
ため息を吐いて、わざとらしく苦渋に満ちた表情を作る。
「捨てる予定の大道具を見ていたら、なんだか勿体無い気がしてな」
「要するに、作って見たかったんですよね?」
ツッコミを入れると、先輩は大きく頷いた。
「だって初詣は混むじゃないか。私は寒いのが苦手なんだ。昨年はうっかり絢香さんに二年参りに連れ出されて、すごく辛かったんだぞ」
そう力説している先輩は、この寒空でセーラー服姿である。
寒いの苦手なら、上にコートやジャージを羽織ればいいのに。
「そんなわけで決して混まない初詣だ。このくらいなら寒くたって大丈夫だ!」
「鳥居すらありませんけどね」
苦笑しながら言うと、先輩も苦笑を返してくる。
「あれも作ろうとは思ったんだが、案外難しくてな。そこは我慢してくれ」
「別に文句を言ったつもりでもないんですけどね。二礼二拍でしたっけ?」
参拝の仕方を確認したら、彼女は肩をすくませ、
「諸説あるし、適当でいいよ。適当に作ったんだし」
すごく雑なことを言い出した。
まあ、中に入ってるのもオカ研のグッズだしな。
あんなのに礼を尽くしても仕方ないか。
「あ、お賽銭入れなきゃ」
財布の中から小銭を取り出す。
「まあ、すぐ回収するんだけどな」
と先輩は笑って言うが、祠の中身がいい加減なだけに、形こそ大事だろう。
手にした小銭を賽銭箱に放り込むと、ガシャンと金属が触れ合う音がする。
——あれ?
「……ポチ、いま、いくら入れた?」
やはり違和感に気がついた先輩が僕に聞いてきた。
「五円玉一枚です」
答えながら賽銭箱に手を伸ばした。
何の固定もされてないそれは、本当なら風に飛ばされそうに軽いはずなのに。
持ち上げた賽銭箱はずっしりと重かった。
「先輩、今年は参拝客が多かったようですよ?」
「いや、待て。今年も何も作ったばかりで、参拝客なんて来るわけないんだ」
僕が賽銭箱を手渡すと、その重さに彼女もビックリしていた。
「これ、全部小銭なのか?」
賽銭箱を振りながら音を確認している。
「下手すりゃお札も入ってますね」
「それはまずいぞ。お札なんか入ってたら冗談で済まされない」
先輩の困惑はよく分かる。
身内だけのシャレのつもりで作ったから、知らない人に参拝されても困るのだ。
思ってもいなかったトラブルに、彼女は肩を落として途方にくれたような顔になる。
「なあ、ポチ。私はちょっと困ってる。この賽銭について相談に乗ってくれ。ご褒美は弾むぞ」