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茶道部の出来ごころ 〜茶道部の犬に、先輩のオッパイは揉めない〜  作者: 工藤操
第9章 クリスマスプレゼントを君に
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先輩とみゆき 7

「ほら見てくれ、みゆき。ポチにもらったんだ!」


 すっかり日の暮れた公園で。

 カチューシャを頭につけた友人が、踊り出しそうなくらい浮かれてる。


「あー、はいはい。よかったね」


 ベンチに座り、なげやりな声でみゆきは言うが、実際よかったと思っている。

 色々と思いつめていたから、これで少し落ち着いてくれるといい。


「すごいね。ちゃんとポチくんは考えてくれてたんだ」

「ああ、校内で窃盗事件があってな。あやうく貰えないところだったよ」


 本当に踊りながら友人は語る。


 なんでも《イケメン男子のクリスマスプレゼント》をターゲットにした組織的窃盗事件が発生し、彼が用意したプレゼントも盗まれたらしい。


「まったく困った奴らだったよ。今日中に取り返す事を優先したから説教だけで済ましたが、本来なら厳重処分のところだ」


 しれっとした顔で友人は言うが、それはもしかして《好きな男の子からのプレゼントが欲しいから手短に済ませた》という意味だろうか?


「それにしたって、ポチのプレゼントを狙うなんて何を考えてたんだか」


 いまだ踊り続けながら友人は言う。


「ポチはイケメンじゃないし、女性にモテるタイプでもない。彼のプレゼントが欲しいやつなんていないだろうに」


 まあカチューシャなど、転売しても大した値が付くものではない。

 そういう意味では欲しがる人はいないのだろうが。


「……あのね、ポチくんてたぶんモテるよ?」


 ちょっと迷ったけれど、この際だから言っておくことにした。

 たしかに顔がいいとは言わないが、彼がモテないってのは大きな誤解だ。


「そうなのか? だが私は彼が女性と一緒にいたところなんて見たことがないぞ。そもそも男の友達だっていないんだ」


 友人はピタッと踊りをやめて、驚いた顔でみゆきを見る。


 そんなに意外なことだろうか?

 彼に友人がいないのは事実でも、それにはちゃんと理由がある。


 こいつが彼にベッタリだから友人を作る余裕がないのだ。

 もしかして、そこを全く分かってないのか?


「あのね、彼のいいトコを知ってるのはあんただけじゃないの」


 みゆきが言うと、友人は困ったような顔になる。


「しかし、みゆき。ポチのいいところなんて、そんなにないぞ。確かに気遣いはできるし、人の話をよく聞いてくれるが、それくらいしか思いつかない」


 必死になって喋っているが、全く反論になってない。


「あのね、それ、すごく大事だから」


 諭すように言うと、友人は何かに思いあったったように頷いた。


「ふむ。たしかにみゆきの元彼は人の話を聞かない男だったな」

「だから、あたしの黒歴史を蒸し返すなよ!」


 でも実際、そうなのだ。

 案外と人の話を聞かない人は多い。


 友人は彼に慣れすぎてて、その希少性を理解していない節がある。


 ——こいつの話を真面目に聞き続けるなんて、誰にでも出来ることじゃないぞ。


 思いつきと勢いまかせが多すぎるのだ。

 みゆきですら相手にするのがたまに嫌になる。


「やはり、その程度でポチがモテるなんて納得がいかん。みゆきの勘違いではないのか?」

「まあね。その程度なら、探せば見つかると思うけど」


 ちょっと歯切れ悪くみゆきは答える。


 ——こいつは本当にわかってないんだろうけれど。


 肩を落としてため息をつく。


 彼はみゆきの目の前にいる友人をとても大事にしている。


 ——それを羨ましく思わない奴がいるとでも?


 正直に言えば、みゆきは羨ましいと思ってる。

 友人と彼の関係を知るものなら、そう思う人はそれなりにいるはずだ。


 なんなら友人に取り変わって、彼の隣に入ろうとする女がいてもおかしくない。

 こいつらが未だに《付き合っていない》のは付け入る大きな隙になっている。


「あのさ、あたし、今度のバレンタインでポチくんにチョコレートあげようと思ってるんだ」

「え? そうなのか? 私もあげようと思っていたんだ。ちょうどいいから相談にのってくれないか?」


 友人の危機感を煽るつもりで言った言葉は、面倒ごとを引き寄せてしまった。


「あ、あのね、あたしがポチくんに告白するとか考えないの?」


 誤解を恐れずに言って見たら、彼女はキョトンとした顔でみゆきを見た。


「……みゆきはポチにその気があるのか?」

「ない! それはないけど!」


 思わず大声で否定する。


 彼のことは気に入ってるし、世話にもなった。

 別に顔だってそんなに悪くないし、いい奴だ。


 本音の部分として、ありなしで言えば《あり》だ。


 でも《いまなら、もれなくこの女がついてくる》キャンペーン中である。

 彼に告白とか、悪い冗談にもならない。


「あとな」


 友人はクスッと笑って視線を下げる。


「先日聞いたのだが、ポチは胸が大きい方が好きらしい」

「ねえ、それ笑いながら言うことなの? ぶっとばすぞ、おい!」


 腕を捲ってみゆきが言うと、笑ったまま慌てて両手を振る。


 まあ、それが本当ならそう心配はいらないだろう。

 こいつより胸が大きい奴なんて、校内にそうはいないハズだ。


「いや、すまん。彼はそう言っていたのだが、実際にどうなのかはよく分からないんだ。昨日、私が胸に抱いたら涙目になっていたので、本当は気持ち悪かったのかもしれんしな。うん、ポチに無理させてしまったかも」


 また、こいつはとんでもない事を言い出した。


「……その話、何?」


 多分ロクでもない話なのだろうが、成り行き上で聞かないわけにもいかない。


「これは絢香さん——、前の生徒会長にも話したのだが。どうもいまいち伝わらなくてな」


 ちょっといいか、と友人が一歩前に出てきた。


「こういうのは説明するより実演した方がいいと思うんだ」


 言うと同時にベンチに座るみゆきの頭を抱え、力一杯胸に抱きしめる。


 ——ちょっと待て。


 知りたかったのはそうなった経緯で、どうしたかではない。

 だが何か言おうにも見事に鼻と口を塞がれてしまい、何も訴えることができなかった。


 1分後。

 涙目になったみゆきは、喘ぐ呼吸の中で精一杯の声を出す。


「顔は横向き! 横向きにしないと死ぬから!」


 いまいち分かってない顔の友人だが、みゆきには再現不可能なのが、なんとも悔しい。

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