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それは、時を超えた恋

あらすじからの再掲になりすみませんが、ベタな展開かつ稚拙な文章です。ご容赦下さい。感想等は私の気持ちなどお気になさらず、思ったままを送って頂ければ、それだけで大変嬉しいです。

 ふう、と一つ息をついて、苦労して背負ってきた荷物を地面へそっと置く。次第に肩に食い込むように感じられてきていたから、なんだか解放された気分だ。文字通り、肩の荷をおろしたってことなんだろう。その余韻の中何もせず、僕はただ立って荷物を見つめていた。

 いつの間にか、5年が経っていた。そう。5年前も、僕は苦労して運んできた荷物を前に、この場所で、ふうと息をついたんだ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「大変だったな」


 荷物へと向けていた視線を外し、ぼくはそう呟いた。自分の身体よりも大きいその荷物の中身は、天体望遠鏡。先週の12歳の誕生日の朝に、ぼくの部屋に置いてあった。


 ぼくにはよく分からないけれど、きっとぼくのうちは「お金持ち」ってやつなんだろうと思う。家は町の外れにある山の中腹に建っていて、いくつもの大きな部屋があって、何人ものお手伝いさんが掃除や料理や庭仕事なんかをして働いていた。両親は海外を飛び回っているとかで、ぼくはろくに顔も知らない。お手伝いさんは当然自分の仕事しかしないから、小学校から真っ直ぐ帰ってきた後に家にやって来る家庭教師の先生と話す時以外は常に家では一人ぼっちだった。家庭教師の先生はぼくに勉強しろとしか言わないし、学校からはすぐ帰らなければいけないからよく遊ぶ友達もいない。家には味方はおらず、学校ではなんとなく浮いている。もっと小さな時からそうだったから、ぼくはこの孤独を当たり前のものだと思って毎日を過ごしてきた。勿論、これからもぼくは孤独なのだろう。

 先週の誕生日も、当然のようにぼくは一人だった。朝起きるとベッドの横に大きな包みが置いてあって、僕が起きると同時に部屋に入ってきたお手伝いさんに、両親からだと言われる。少しは嬉しい気持ちが湧くかと思ったけれど、自分でも驚くほどに何の感慨もおぼえなかった。


 ここに望遠鏡と共に来たのは、一度も使わないと勿体ないと思ったから。ただそれだけ。家から近い星空観賞に適した暗い場所を探し、一人でここまでやってきた。ここは森の中にぽっかりと開けた草むら。今まさに勢いよく伸びる沢山の草たちから、青い匂いが立ち上っていた。気を切り換えて、荷物へと手を伸ばす。家を出る時に説明書を見てきたから、暗くても組み立てられる。早速手を動かし、合唱する虫の声を聞きながら黙々と組み立てを始めた。


 これが月か、土星か、夏の大三角か、と、今まで習ったことを思い出しながら一通り望遠鏡で眺める。黒板や教科書の中の世界の話だった宇宙が、目の前に、手を触れられそうな距離に広がった時は、さすがに心が動いた。が、見終わった今はもう十分という気持ちだった。折角来たし、もうこの望遠鏡を使うこともないだろうし、と何となく帰るには勿体ないような気持ちになって、ただ月を眺める。レンズの向こうで大きく見える、白く輝く月。表面はでこぼこしてどこか寒々しく、寂しく一人夜空を歩く月にぴったりだと思った。

 ふと、円く切り取られた視界を、色とりどりの光が横切った気がした。続いて聞こえたどぉんという音に顔を上げる。花火だ。そう認識すると同時に、ぼくの心にもう慣れっこになった鈍い痛みが走った。この地域では、学校が夏休みに入ってすぐの時期に毎年お祭りがある。地元は勿論、全国的に見ても規模の大きなお祭りで、夜に打ちあがる沢山の花火が名物だった。当然のように、夏休み前の小学生の話題はそのお祭り一色だ。誰と行くだの、何を食べるだの、わくわくして待ちきれないといった顔をしながら、ぼくの周りで楽しそうに話すクラスメイト達。その輪の中に、ぼくはいなかった。

 見ていられなくなって、ぼくは顔をそむけた。あれはぼくとは違う世界のもので、とっても眩しいもので、ぼくには手に入れられないものだった。

 顔をそむけたから、目があったのだろうか。

 どこから、いつの間に現れたのか、そこには女の子が立っていた。年はぼくと同じくらいに見えるが、身長はぼくより高いようだ。肩の辺りで切り揃えられた黒髪に、すっと通った鼻筋。目は少し細いが、目尻が僅かに下がっていて暖かみを感じる。小さな口は物言いたげに少し開かれていた。大きく花の柄があしらわれた浴衣に身を包む彼女は、花火の光を受けて、色とりどりに光っているように見えた。そう、まるで、花火から生れ出たかのように。

何秒経ったのだろう。言葉もなく見つめあっていた二人の間で、先に動いたのはぼくの口だった。彼女のあることに気が付いたからだ。


「……顔真っ青だけど、大丈夫?」


 彼女のその可愛らしい顔は、よく見ると青ざめていたのだ。ぼくの声にはっとした表情を見せるも、顔色は変わらない。少しの間があって、小さな声で返事が帰ってきた。


「……迷子になっちゃって」


 鈴を鳴らしたような、彼女の心細さを物語る、消え入りそうな声。背後で鳴り響く花火の音の方が、ずっとずっと大きかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 企画からです。 青い顔をした彼女と、主人公。はてさてどうなるのやら。
[気になる点] 鈴を鳴らしたような、彼女の心細さを物語る、消え入りそうな声。背後で鳴り響く花火の音の方が、ずっとずっと大きかった。 ⬆ なんか、迷子ちゃんより花火 な感じ  ex:1 鈴を鳴らした…
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