神託には心付けを
予約時間を間違えてました泣
慌ただしく動く神殿を後にして再び商業ギルドへと階段を降りて戻る。
「おかえり、ラグナ君。大丈夫だったかい？」
「それが……」
チラッと後ろを見る。
サイさんとギルド長も俺の視線に気がつき俺の後ろにいる司祭に気がつく。
「マホッテト司祭か。どうしたというのだ？」
ギルド長のアムルさんが司祭をギロッと睨む。
商業ギルドと商業の女神様の神殿は協力関係ではあるけど仲がいいと言うわけでは無いのか。
マホッテト司祭がアムルさんに近づき耳打ちする。
「なんだと！！それは本当か？」
「えぇ。真実にございます。我らはそれに従いこれより行動致します。」
はぁーっと深いため息をギルド長が吐くとこっちを見てくる。
「流石にここまでは想像してなかったぞ。」
そう言われてもですね……
サイさんが恐る恐るギルド長に伺う。
「何があったのですか……？」
「ふむ……なんと言うべきか……どこまで話をして良いのか……」
「この方々はどなたで？」
司祭はサイさん達のことは知らないみたいだ。
「こちらの方々はラグナ君とレシピ契約を結びに来たエチゴヤ商会の方々だ。」
「司祭様、お初にお目にかかります。エチゴヤ商会で働くサイと申します。」
サイさんはあえて商会の人間としか説明しないみたいた。
「これはこれは。あの有名なエチゴヤ商会ですか。こちらこそ初めまして。ナルタ支部司祭のマホッテトです。」
エチゴヤ商会の名前を聞いてから司祭がにこにことした笑みを浮かべている。
サイさんがカバンから包みを取り出し司祭に渡す。
「これは少しばかりですが心付けにございます。」
「おぉ、これはこれは申し訳ない。ありがたく女神様へと捧げるとしましょう。サイ殿に女神様の加護がありますように。」
流れるような動作で包みを懐へ。
サイさんも手慣れてるな。
「ではサイ殿も関係者のようなのでお耳を。」
司祭はサイさんにも教えるみたいだ。
心付けって素晴らしい。
「……それは本当でしょうか？」
「はい、書類の方は私共で保管しております。」
チラッとサイさんが見てくるので頷く。
「わかりました。ありがとうございます。」
「それでは私はこれで失礼します。」
マホッテト司祭は俺に一礼すると部屋を退出した。
部屋の中は重苦しい雰囲気に。
「とりあえずはあれだな……うちのギルド会員になって貰う。どうせレシピの登録もあったしな。」
「わかりました。よろしくお願いします。」
ギルド長が溜め息を吐くけど溜め息を吐きたいのは俺も同じ。
「はぁ……」
「まさかこんな事になるとはね……」
「お兄様、何があったのですか？」
そう言えばミレーヌさんだけは知らないままか。
サイさんは少し考え込む。
「ちょっとこればっかりは父に相談してからで無いと教えられないな。」
「わかりました。何やら深刻そうなので大人しくしておきますわ。」
その後ギルド長がギルド登録の書類を持って来たのでサインする。
本来ならば年会費なども必要らしいのだが……
経費は神殿持ちと通達が来ていたらしい。
重苦しい空気のまま登録が完了し会員証が発行された。
渡された会員証をみる。
「商業ギルド会員証の表には名前と特許申請数が登録されている。裏の窪みに血を一滴垂らしてみろ。」
針を手渡されたので痛みを我慢しながらチクッと刺し言われた通りに一滴血を会員証に垂らす。
すると一瞬プレートが光り輝いた。
「これで登録が完了した。」
「今のはいったい……」
「このプレートは商業の女神様のお力により作られた物だ。血を垂らすことにより偽造を防ぐ仕組みになっている。」
「偽造はどうやって見分けるのですか？」
「商業ギルドの入口に会員証を認証する魔道具が設置されているんだ。本人以外が会員証を持って入口を通った時点でその装置が反応する。後はその会員証を落とし物として提出するのか偽って取り出すのかで対応が変わるな。」
「偽って取り出した場合は……」
ギルド長はにっこりと笑うと
「別室に案内して仲良くお話し合いだな。」
ギルド長の笑顔がとても怖かった……
