慌てふためく領主と。
村長は話の続きを始めた。
「この親子がワイルドボアを討伐後に直ぐに村に伝えに戻ってきました。その後、村でどう対応するか話し合いを始めました。その時にサイ殿が村に来ていたのを思い出し、村からまだ出ないようにと伝えに行かせたのですが……既に出発した後でした。その為急いで救助部隊を結成し、サイ殿を追いかけました。暫くすると馬車が倒れているのを発見、中を覗くとサイ殿が馬車の中で怪我を負って意識を失っている状態で発見されました。」
サイは改めて村の皆に感謝した。
「皆さんが迅速に動いて下さったおかげで私は命を失わずに生き延びることが出来ました。」
村長と息子の話を聞いていたブリットは、後一歩救助が遅れていたら息子の命は無かったことに驚きを隠せなかった。
「息子の命はアオバ村の皆様のお陰で助かったのですな……私からも感謝を。息子の命を助けていただき本当にありがとうございます。」
ブリットは村長達に頭を下げて感謝を伝えた。
その一方で領主は顔色がどんどん悪くなって行く。
自分の息子が街道に魔物を引き連れてしまった。
そのせいでエチゴヤの御曹司が魔物に襲われた。
エチゴヤの身内が怪我を負った時点で国に隠し通すなど不可能。
何かしらのペナルティーは覚悟しなければならなくなった。
「それでは続きを。サイ殿を救助している間に偵察に出ていた狩人がワイルドボアの群を発見。直ぐに討伐に向かいましたが……到着した頃には若者達と思われる遺体は荒らされ激しく損傷しておりました……その後戦闘になりワイルドボアを討伐。若者達の遺品を出来るだけ回収し、ご遺体は1人1人目印をつけて埋葬してあります。」
息子はやはり魔物によって殺されたのか……
領主は深い溜息を吐く。
すると隣に座っていた息子がまたもや暴走する。
「何故はやく兄さん達を助けてくれなかったんだ!早く行けば助けられたんじゃないのか!」
その言葉を聞かされた村長も心の中で溜息を吐く。
ラグナと同じ歳くらいの子供とは言え、先程から失言の連発。ここまで酷い出来だとは……
「急いで駆けつけましたが居場所がわからないままではどうにもなりませんでした。」
村長は領主の息子に対して頭を下げる。
その光景を見て領主は息子を止める。
「もう良い。お前は少し大人しくしておれ。話が進まぬ。アンライドとやら、後でうちの兵に埋葬した場所を伝えておいて貰えるか?亡くなったことは親として悲しいが丁寧に埋葬して頂き感謝する。亡くなった他家の息子達の遺体もそれぞれの家族に戻すことが出来そうだ。」
領主は村長に対して感謝を伝える。
村長達に息子の遺体を埋葬されていなければ魔物や動物に荒らされてしまい、無惨なまま放置されている所だった。
さらに1人1人埋葬場所を変えてくれた結果、他家に対しても回収するように直ぐに手配することが出来る。
「それでは続きは私が話すことにしましょう。」
サイは救助された後の話をし始めた。
「私は村の皆さんによって救助されたのち村へ引き返しました。そして疲れを数日癒した後に今ここにいる皆さんと共に遺品を運ぶためにこの街へと出発しました。」
領主は何故サイが捕縛されていたのかまだ知らなかったがこの後の話によりさらに顔色が悪くなる。
「夜になり野営をしていた時のことです。突如として領主様の私兵に囲まれました。そして馬車の中で私とラグナ君は休んでいたのですが、ラグナ君は馬車から地面に引きずり落とされ私は突然兵士に顔を殴られました。」
自分の息子が突然殴られたと聞いて雰囲気が変わるブリット。
「領主様、これは一体どういうことでしょうか?私の息子が何かしたのでしょうか?」
「私はそんな連絡も命令も出してはいない……おい、どうなっているんだ!」
領主は慌てて捜索隊のメンバーを招集するように命令をする。
捜索隊のメンバーが続々と集まる中、隊長は来れないと連絡が来た。
尻に怪我を負ってしまい現在治療中らしい。
「お前達、この方になんて対応をしたんだ!」
怒鳴り散らす領主の言っている意味が分からない捜索隊のメンバー。
「ご子息の持ち物を馬車に積み込んでいる怪しい人物だったので捕縛したまでですが……」
捜索隊メンバーの言葉に領主はさらに怒鳴り散らす。
「お前達が捕縛したこの方はな、エチゴヤ商会の御曹司なのだぞ!それなのになんて事をしてくれたんだ!」
捕縛したメンバーの1人がエチゴヤ商会の御曹司だった。
捜索隊メンバーはその言葉を聞いた瞬間に背筋が凍る。
自分達がおこなってしまった非礼の数々……
「終わった……」
捜索隊のメンバーが小さい声でそう呟いたのであった……




