領主と息子と商人と娘と魔物番と息子と。
サイさんの父親が領主を放置して息子の身体チェックをしているのを横目に領主を見ると何も言い出せずにイライラしているのが見えた。
息子がそんな父親をチラチラみた後に口を開いた。
「お主等、不敬であろう!平民の分際で。領主の前であるぞ!」
ドヤ顔で事もあろうにエチゴヤ代表のブリットさんに平民の分際でと言い放ってしまった。
シーンとした空間が広がる。
「申し訳ありません、ご領主様。息子がロープで縛られて連行されていると連絡が来たもので。気が動転してしまいました。」
「う、うむ。よい。」
ブリットさんはすぐさま領主に頭をさげて謝罪するも領主は息子がやらかした事に冷や汗をかく。
よりにもよってあのエチゴヤの代表に向かって平民の分際でと息子がドヤ顔で言い放ってしまった。
これが領主と商人の親子だけだったらすぐに頭を下げて息子の暴言に謝罪していたであろう。
しかし見知らぬ平民が居る手前、見栄が邪魔をしてしまい謝罪することが出来なかった。
「それでサイ殿、何故我が息子と我が配下の息子達の防具を持っていたのだ?」
領主はやらかした事実から話を逸らすためにサイさんに尋ねた。
自分のもう1人の息子がやらかしていたことも知らずに。
「それを話す前にこちらの方々の話をお聞き下さい。」
サイさんは村長さんに話をするように促した。
「お主等は何者だ?サイ殿の護衛と言う訳じゃないのか。」
村長さんは椅子から立ち上がり領主達の前に進み立て膝を付き挨拶をする。
「ご領主様、お初にお目にかかります。辺境の村アオバ村長のアンライドと申します。」
「辺境の村アオバとな?」
領主はアオバと言う村の名前を聞いても思い出せないようだ。
兵士が見るに見かねてそっと耳打ちする。
「あぁ、魔物番共か。お主等がどうした?」
さっきから知らない言葉ばかり。
ずっと辺境の村としか教えて貰えなかった村の名前は『アオバ』
村長の名前はアンライド
そして魔物番。
村長が語り始める。
「きっかけはこの親子が狩りの練習にと守護の森で練習している時のことです」
「守護の森と言えば魔の森との境、何故か魔物が出て来ないと言われている所か。」
領主は一応自分の領土の森などに関しては把握しているらしい。
「そこで狩りの練習時に森の異変を感じ街道まで脱出し村に帰るために歩いていた所、森の奥よりワイルドボアの集団に追いかけらながら逃げまどう若者達が街道に現れたそうです。」
「バカな!街道沿いに魔物を引き連れたまま現れるのは国によって重大禁止事項とされているはず!」
「えぇ。しかし若者達は街道沿いを歩くこの親子の方向に走って逃げてきたのでこの親子も巻き込まれることとなりました。」
「まさか逃げてきたのがうちの子供と言うわけではないだろうな!出任せにも程がある。不敬だぞ!」
自分の息子がやらかした罪を認めると自分にまでも被害があるかもしれない。
領主は認めることなど出来ないので罪を平民である親子に擦り付けようと考えた。
「ならば領主様、うちの者を呼びましょう。審問鑑定魔法持ちなのでその者の話が本当かどうか鑑定しようじゃありませんか。ちょうど城の前で待機している所ですから。」
ブリットさんからの申し出に領主は嫌と言い出すことが出来ずにうむとだけ返事をすることしか出来なかった。
沈黙した室内にトントンと扉がノックされた音が響いた。
「入りたまえ。」
扉がガチャリと開く。
「失礼します。ご領主様、お初にお目にかかります。」
扉が開き現れたのはちょこんと可愛らしい挨拶をするラグナと同じ歳くらいの女の子。
「おぉ、いつ見ても可愛いな!うちのミレーヌちゃんは。よく来てくれたね!」
ブリットは溺愛している娘を後ろから抱きしめる。
領主の前だと言うのに娘を溺愛するブリットに文句も言いたいが言えぬ領主はふて腐れたように言い放つ。
「そちらはブリット殿の娘か。それで鑑定魔法持ちはまだ来ぬのか?」
ブリットは娘を抱きしめていた腕を放すと領主の方を振り向く。
「うちの可愛いミレーヌが審問鑑定魔法持ちです。どうでしょう、可愛いですよね?」
ブリットがドヤ顔で領主に紹介する。
「かわいい……」
小さく呟いた声は全員に聞こえた。
バッと声の方を振り向くとそこにいるのは領主の息子。
「な、なんだ!こっちを見るでない。」
みんなに聞かれてしまったことがあまりにも恥ずかしくなり顔を真っ赤にしたまま領主の息子は俯いてしまった。




