閑話2 エチゴヤ誕生へと至る道。
更新放置してしまい申し訳ありません。
持病が悪化し入退院を繰り返していました。
流石に血中酸素濃度90以下が続くと厳しいものがありますね。
皆さんも体調にはお気をつけ下さい。
とりあえず閑話ですが更新再開します。
『エチゴヤ』
初代勇者が魔王討伐戦の際に安定した物資を手に入れる為に仲のいい信頼できる商人と共に設立した商会。
商会の名前は勇者が商人を名付けてそこから取ったと言う。
理由は定かでは無いが勇者の故郷でエチゴヤと呼ばれている大きな商会が過去にあったらしい。
魔王討伐後、勇者は商人に経営を完全に委ねた。
そして自分は国作りに専念することに。
元々商人とは異世界召喚された直後からの付き合いだった。
魔王により世界が荒れ始めたある日のこと。
戦争孤児だった子供がたまたま1人の商人に拾われた。
何故拾ったのか。
自分でも判らなかった。
ただ一目見たときにこの子を引き取らなければと何故かその時に感じ取っていた。
その孤児は名前を聞いても答えない。
歳も判らない。
まぁ年齢に関しては孤児もよく判っていなかった。
拾われた孤児はとても賢く商人の仕事をみるみると吸収していった。
そして拾われてから十数年。
「名無しっ子。話がある。」
拾われた孤児は名無しっ子と呼ばれていた。
「どうしましたか?」
「俺がお前を拾ってから十数年。お前は成長し俺は老いた。俺はそろそろ店仕舞いをしようと思ってる。」
とうとうこの日が来たか。
近いうちにこうなることは判っていた。
俺はたぶん16~18歳くらい。
師匠は既に60を越える身。
最近そろそろ先のことを考えねぇとなと酔った拍子によく語っていた。
「お前が継いでくれりゃぁいいんだがな。」
師匠は溜息をはいた。
本当なら継ぎたい気持ちはある。
でもそれは出来ない。
師匠は食糧難の村に対しては無償で食糧を提供していた。
だからあまり金が無い。
店のものを全て俺が引き継いでしまうと師匠の老後が厳しいものになってしまう。
店にある在庫を少しでも利益になるように色々な地域に向かい俺は売却して行った。
そして最後に残ったのは店舗。
「お前が頑張って捌いてくれたお陰で死ぬまでの資金はたっぷりと貯まったわ。」
「あとはこの店舗だけですね。」
師匠は真剣な目つきで俺をみる。
「この店だけは売らねぇ。ここの店は俺が生きた証だ。だからお前にやる。これだけは譲れねぇ。」
師匠の生きた証か。
「わかりました。この店は俺が引き継ぎます。でも自分の中で1人前になれたと思うまではこの店舗を開けることはしません。師匠の名を汚したくはありませんから。」
師匠は笑うと俺の肩を叩く。
「相変わらず真面目だなぁ。まぁいいさ。もし潰れちまっても俺の見る目が無かったってだけだからな。」
「絶対に潰しませんよ。むしろ師匠なんて軽々と越えてみせますから。」
「そうかよ。まぁいいさ。後は頼んだぞ。」
そうして師匠と呼べる人から元孤児は独り立ちした。
元孤児の商人は行商を行いながら日に日に実力を付けていく。
そしてある日の夜。
今日の取引も無事に終えることが出来たことに安堵し、眠りについた。
気がつくと寝ていたはずなのに真っ白な何もない空間に商人は1人立っていた。
「此処は一体どこだ?寝ていたはずだけど。」
商人はキョロキョロと辺りを見回していると目の前にうっすらと女性らしい姿の光が現れた。
『突然の事申し訳ありません。』
その声を聴いた途端、商人は膝を突き頭を下げて目の前に現れた光に対してお祈りを始めた。
本能が直ぐに目の前に現れた御方の正体について感じ取っていた。
『近々勇者と呼ばれる方がこの世界に召喚されます。貴方にはその御方のお力になって欲しいのです。』
突然の御告げに商人は震えが止まらなくなった。
「はっ。大変有り難き名誉な事。私の力では微力かもしれませんが全身全霊を以て取り組んでいく所存です。」
まだ駆け出しの商人でしかない自分が、かの御方からこの様な御告げをされるなんて誰が想像出来るだろうか。
『頼みましたよ。それではこれを授けましょう。』
その声と共に光がゆっくりと消えていった。
目を開けると天井が見えた。
身体を起こし周囲を見回す。
「ここは泊まっていた宿屋……さっきのは夢か?」
ふと足下に何かがあるのが見えた。
それを恐る恐る手に取り月明かりに照らす。
それは不思議な雰囲気のバッグだった。
「夢じゃなかったのか……それじゃあこのバッグは……」
しばらく呆然としてしまい商人は動くことが出来なかった。
後日、バッグについて調べてわかったことがある。
このバッグは魔法のバッグだった。
恐る恐る自分の荷物を入れるとバッグの中にスッと消える。
そして脳内に何がどの位入っているか浮かぶ。
少しずつ行商をしながら商品を収納していき、わかったことは家一軒分の収納量がある。
他者には決して話すことが出来ない。
こんなものが存在するとわかったら命を狙われる。
商人はその後バッグの存在がバレないように気を付けながら商いをしていた。
いつか勇者が召喚されるその日まで。
「勇者が女神様によって召喚されたらしい。」
その話を聞いたのはあの御方から御告げがあってから半年ほど経った時だった。
どうやら隣町にある大神殿で召喚されたらしい。
商人は隣町へと直ぐに向かう。
4日後、隣町へと到着した。
商人は町から運んできた品物の売買を行いながら情報収集をした。
どうやら大神殿に召喚されたのは確実だ。
勇者が召喚された日のこと。
日は落ち暗くなっていた空が突如輝き、光の柱が大神殿へと降り注いだのを町の住人の過半数が見たらしい。
情報収集をした後は宿に泊まり1泊。
次の日の朝に大神殿へと向かって歩いて行った。
そして大神殿へと到着。
「来てみたものの、どうしたものか。」
たかが流れの一商人が勇者に会いたいと言っても会えるわけがない。
考え込むが何も思い浮かばない。
「せっかくここまで来たんだ。せめて拝礼だけでもしてから帰ろう。」
大神殿に入り受付を済ませお布施をする。
そして神々の石像の前へ。
膝をつき頭を下げ商人は例のバックについて感謝を伝える。
お祈りが終わった後に立ち上がり振り返ると見知らぬ男が笑顔で手を振って呼んでいた。
黒目、黒髪。肌の色もあまり見たことがない。それに顔立ちも。
「失礼ですが、どこかでお会いしましたか?」
「いんや。初めてさ。今日この時間に君がここに来るって聞いたからね。」
今日ここに来ることを聞いた?
この町は初めて来たから知り合いなんて居ない。
「女神様から今日ここに来る商人に会えって言われたから。」
その言葉に驚く商人。
ということは目の前にいる少年が……
「じゃあ君があの御方が言っていた……」
「あぁ。俺の名前はヒノ。君は?」
俺の名前か。
「俺は戦争孤児になった時に名前を捨てた。商人の師匠は名無しっ子って呼んでいたからそれ以外の名前が無いのさ。」
勇者はそれを聞くと笑い始めた。
「その歳になってまで名無しっ子ってヤバいだろ。」
商人が少し気にしていたことを勇者は遠慮なく突っ込んできた。
「仕方ないだろう。師匠が頑なに付けてくれなかったんだから。何なら君がつけてくれるのか?」
その一言がいけなかったのだろう。
勇者が真剣に考え初めてしまった。
勇者が考え込んでいる間に神殿の神官達が集まって来てしまった。
「ヒノ様。お下がりください。どうか奥の間へ。」
勇者は神官達を見ると溜息を吐くと頷きながら言葉の爆弾を投下した。
「コイツも一緒に奥の間に連れて行くわ。」
神官は急に何を言っているんだ?と言う雰囲気を出していた。
「ヒノ様。流石に見ず知らずの者を神殿内に入れるわけには行きませぬ。」
変な空気になりそうだったので商人も素早く立ち去ろうとする。
「ヒノ様。今日あなたに出会えたご縁に感謝します。また機会がありましたらよろしくお願いします。」
そう周囲に聞こえるように話をしながら商人は神殿から退出しようとした。
ところが勇者ヒノはさらに追い打ちをかける爆弾を投下した。
「そいつ、今日女神様からの神託で会うように言われた奴だから。」
神官も。
たまたま礼拝に来ていた市民も。
その一言で辺りが静まりかえる。
そして視線が商人の方へ。
「あの御方は噂の勇者様?」
「神託?じゃあそっちにいる兄ちゃんは誰だ?」
礼拝にたまたま来ていた市民が騒ぎ始める。
神官達もこれはマズいと思ったのか商人も含め強引に神殿の中へ。
そして奥の間と呼ばれている部屋へと案内された。
部屋の中はごちゃごちゃ物があるという訳ではなくスッキリと整えられている。
ただしさり気なく隅に置かれている調度品はとても高価な物だろう。
部屋の奥では勇者が神官に叱られている。
「この度は申し訳ない。」
若い神官が俺に頭を下げる。
「気にしないで下さい。自分にも何が何だか。」
「そうそう、気にしなーい。」
さっきまで叱られていた勇者が笑顔でこっちに歩いてきた。
「んで君が女神様の言っていた商人君でいいんだよね?」
「あの御方がなんと仰ったのかは判りませんが勇者様をお手伝いするように承ったのは私です。」
「「おぉ。」」
神官達が驚きの声をあげる。
「じゃあこれからいろいろよろしく頼むわ。」
これが勇者と商人の出会いであった。




