鉄のサークル、内と外で
『……来たか』
ラグナが青い炎を纏った剣を構えたまま呟く。
ゴブリンソルジャーの指示を受けたゴブリングラント三体が、逃げ惑うゴブリン達を蹴散らしながらラグナ目掛けて真っ直ぐに突進してきたのだ。
その巨体はまるで小さな巨人。
ゴブリンソルジャーよりも更に二回りは大きい体躯を持ち、肌はゴツゴツとした岩のように堅そうに見える。
武器は棍棒を持っており、その重量感のある武器を軽々と振り回している。
『こいつらと戦うのは初めてだ』
ラグナは剣を構えながら内心舌打ちをする。
初めて戦うゴブリンが複数、そしてその強さは未知数。
しかも逃げ惑うゴブリン達が邪魔をして動き辛い状況だ。
「……チッ」
ラグナは小さく舌打ちすると地面を蹴り、グラント達を迎えるべく加速した。
砦の上では、冒険者達が戦場の変化に戦慄していた。
「やべぇぞ!グラントが三体も来やがった!」
「この量のゴブリンと戦いつつのグラントはやべぇだろ!」
「いくらガキが強かろうが、この流れはよくねぇな」
冒険者リーダーが焦燥感に駆られながら叫ぶ。
「お前ら、覚悟は出来てっか‼」
「まさか……あの中に行くのか!?」
「怖気づいてんじゃねぇ!ガキ一人に押し付けてんじゃねぇ!俺たちは冒険者だろうが!」
リーダーの叱咤激励に、冒険者達は覚悟を決めたように頷き合う。
「行くぞ!全員であいつを援護する!」
そう叫ぶと、冒険者達は砦の上から次々と飛び出し、ラグナがいる戦場へと駆け下り始めた。
『来なくていいってのに!!』
ラグナは目の間に迫りつつあるゴブリングラント三体に意識を集中しながらも、砦から飛び出してくる冒険者達の姿を視界の端で捉えていた。
グラント達は逃げ惑うゴブリン達を踏み潰しながらラグナへと接近する。
その巨体が地面を揺らし、土埃を巻き上げながら迫ってくる。
「俺達も参戦するぜぇぇぇ‼」
冒険者達は雄叫びを上げながら、ラグナとグラント達の戦いに割って入る為にゴブリン達と戦いつつこちらへと向かってくる
『逆に連携もしたことないのに邪魔だっての!』
どんな動きをするのか知らない冒険者と戦うにはあまりにも危ない。
それに……。
迫りくるゴブリングラントの三体のうち二体はイルマを攻撃した個体。
何故かそれぞれが少なからず怪我を負っているので、見分ける事が出来た。
最初にイルマに対して攻撃した個体は左の脇腹を負傷しており出血している個体。
そして、二つ目の岩を投げた個体は右目を負傷している個体。
はっきりとこの二体の特徴だけは覚えていた。
『こいつら二体だけでも、俺の手で』
そう考えたラグナは、勇気を振り絞って駆け付けようとしている冒険者の乱入を阻止すべく、スキルを発動させた。
「ウィンドスクリーン、召喚!」
ラグナがスキル名を唱えた瞬間、空に現れた巨大な多数の金属の板が現れてた。
ズドォォォン‼
そして巨大な金属の板達は地面へと深く突き刺さり、瞬く間に一つの巨大なサークルが形成された。
「うおっ!?なんだこりゃ!?」
「壁が急に降って来たぞ⁉」
冒険者達は目の前に突如として現れた巨大な壁に驚愕し、急停止せざるを得なかった。
その壁はラグナを中心に広がっており、外側から見る限りではただの巨大な金属の壁だった。
冒険者達はその壁の中に閉じ込められたラグナの命を心配し、
「おい!坊主が中に居るぞ!」
「この壁は一体何なんだ!?」
「お~い!坊主!大丈夫かぁー!?」
冒険者達は必死に壁を叩き始めたが、目の前の金属製と思われる壁はびくともしない。
「クソッ!この壁、壊れねぇ!」
冒険者達の攻撃が壁に当たるも、その壁は頑丈で傷一つ付いていない。
「キシャァァァ!!」
甲高いゴブリンソルジャーの命令が、ウィンドスクリーンの外側に響き渡った。
「なっ……!?」
冒険者リーダーが焦燥に駆られた声を上げる。
ラグナのウィンドスクリーンによって戦場が分断されたのを見るやゴブリンソルジャーは即座にこの場に残っているゴブリングラント六体のうち二体を、立ち往生している冒険者たちへと差し向けたのだ。
「チッ!坊主の心配してる場合じゃなくなったぞ!」
「こっちも来やがった!」
「壁を背にして陣を組め! 砦に戻るな! 戻れば子供らが危ねぇ!」
冒険者リーダーの叱咤が飛ぶ。
彼らは、今やラグナが作り出した巨大な金属壁を背中の守りとして利用し、突撃してくる新たなゴブリングラント二体と強制的に対峙させられることとなった。
ラグナのスクリーン外部では、ゴブリングラント二体+この場にまだ残っていた五体ほどのゴブリンと冒険者チームによる、死闘の場と化してしまった。
ラグナはウィンドスクリーンの発動を確認したのち、迫りくるゴブリングラントへと向き直った。
冒険者達を隔離したので、ラグナの攻撃で巻き込んでしまう可能性は消えた。
しかし、その代わりに目の前にいる巨大な敵との戦いが待っている。
「……さてと」
ラグナは小さく呟くと、ウィンドスクリーンの中で孤立したことも気にせずにこちらへと走ってくるゴブリングラント達に向かってガストーチソードを構えるのだった。
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