突如現れた少年と1体の魔物
爆発音と共に物凄い速度でこの戦場へと現れた一体と一人の人間。
静まり返る2つの陣営。
正体不明のコンビに困惑したのは人間側だけでなく、ゴブリン側も同様だった。
特にゴブリン達はどうしていいのか判らずに動きが止まってしまった。
「ギッシャーーー‼」
ゴブリンソルジャーは突然現れた存在を即座に敵と認定。
すぐにゴブリン達に攻撃しろと命令する。
ゴブリン達がラグナ達の元へと殺到しようとした時、
「砦の中に行こう。ジャンプして」
と直ぐにダッシュバーードにお願い。
ダッシュバーードは自分の足をまるでバネの様にしゃがみ込むと、一気に解放。
ゴブリン達の攻撃が届く前に砦の中へと避難することに成功したのだった。
ラグナは腕の中のイルマを見た。
『まだ息をしている。間に合って良かった……』
ラグナは安堵し、イルマを抱きかかえながらダッシュバーードから降りた。
「う……うぅ……」
「イルマ?大丈夫か?」
ラグナの呼びかけに、薄っすらと目を開けたイルマが弱々しく答えた。
「……ラ……グ……ナ……?」
「そうだよ?昔から変わってないなぁ。目を離すとすぐにイルマは無理するんだからさぁ」
安心させるように微笑むラグナ。
イルマの体から力が抜けていくのが分かった。
そのまま気を失ってしまう。
ラグナはそっと彼女を抱きしめると、その頬に触れた。
温かい体温が手のひらに伝わってくる。
『生きていてくれてありがとう』
心の中で強くそう願った。
「ぐぁぱ?」
とダッシュバーードが『知り合い?』とでも聞いてきたように眠るイルマの顔を見ながら首を傾げていた。
「小さい頃から一緒にいた、大事な友人だよ」と苦笑しながら答えた。
気を失ったイルマを抱きかかえたまま、砦の中にある建物へと進む。
「本当にありがとうな」
そう言うとラグナはダッシュバードの頭を撫でてやる。
気持ちよさそうに目を細めるダッシュバード。
「ぐぱ」
満足気にそう鳴いた。
建物の入り口付近までたどり着くと、イルマと同じ服装の子供達が警戒しながらもこちらへと向かってきた。
「この子を頼めるかな?」
「イ、イルマさん!?」
警戒していたうちの一人がラグナが抱えていた存在がイルマだったことに驚いていると、
「イルマさん……騎士学園の生徒と一緒に戦い始めてたんだよ。俺、ちょうど補給物資を運んでいる時に見たんだ」
「え!?イルマさんが戦闘!?」
などと目の前の女子生徒も混乱している様子だったが、
「あ、あとはこちらにお任せください」
と言うと、イルマを受け取り建物の中へと運んで行ったのだった。
それを見送ったあとに、
ラグナはダッシュバーードの方へと向き直った。
「お前はここで休んでいてくれ」
「グァパァ!?」
ダッシュバードが驚いてラグナに振り向く。
まるで『なんですと!?』と訴えかけるような目だった。
「お前には大事な頼みがあるんだ」
ラグナはダッシュバードの目を真っ直ぐに見つめた。
「ここまで無理をさせてごめんな。お前が無理して走ってくれていたのはわかっているんだ」
ダッシュバードは申し訳なさそうに俯いた。
「でもな……ここにいる人たちが心配なんだ。だから……俺が戻るまで、ここにいて、みんなを守って欲しい」
ラグナは真剣な眼差しでダッシュバードを見つめる。
「……ぐぁぱ」
ダッシュバードは一瞬躊躇したが、ラグナの言葉の意味を理解したように頷いた。
「頼むよ。お前はここで一番強いんだ。みんなを頼むよ」
「グァッパ!」
ダッシュバードは力強く鳴くと、その場にどっかりと腰を下ろした。
ラグナは安心したように微笑むと、
「じゃあ行ってくる。絶対にここに戻ってくるからな」
そう言って、ダッシュバードの頭をもう一度撫でてやる。
そしてゆっくりと背を向けた。
「貴様、何者だ! イルマ嬢を救ってくれたことには感謝するが、何故こんな場所に魔物と共に現れたのだ!?」
突然、背後から鋭い声が飛んできた。
ラグナがその声に振り返ると、学園騎士の一人が彼の前に立ちはだかっていた。
剣の柄に手をかけながらも、その顔には複雑な表情が浮かんでいる。
警戒と感謝、そして疑念が入り混じっているように見えた。
『……まぁそうだよね。魔物に乗って急に現れたら警戒するのも当然だよな』
ラグナは心の中でそう呟きながら、口を開いた。
「……敵ではありません。この騒ぎを解決しにきました」
それだけ言い残すと、ラグナは騎士の横をすり抜けて、再び砦の縁へと歩き出した。
「待て!勝手な行動は許さん!」
騎士が叫ぶ。
その瞬間だった。
ラグナの全身から尋常ではない量の魔力が噴き出した。
それは目に見えるほど濃密で、空気を震わせるほどの圧力を伴っている。
「ぐ……っ…!」
騎士が顔を歪ませ、数歩後ずさる。
まるで物理的な力でも働いているかのように。
ラグナはゆっくりと振り返ると、
「……悪いけど、悠長にお話している暇はないんですよ。あと、そこにいる魔物にはその建物を守るように頼んであるので、攻撃しないで下さいね」
その声は静かだったが、有無を言わせぬ凄みがあった。
そして、次の瞬間。
パリンッ!
軽い、だが明らかな破壊音がラグナの頭から響いた。
すると金色に見えていた髪色が元の漆黒に戻っていった。
「なっ……!? 髪色が……?」
騎士が戸惑いと驚きに満ちた視線をラグナに送る。
だがラグナはそれ以上何も言わず、静かに砦の縁へと向かうのだった。
その背中からは、先程までの少年のような雰囲気は微塵も感じられず、
ただ底知れない力と確固たる決意のみが滲み出ていた。
騎士は圧倒的な魔力とラグナの変貌に言葉を失い、動けずにいた。
誰一人としてその背中を止める事など、できなかった。
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