起床ラッパの君と共に
再び時はラグナへ。
「グワパッパーーー! グ、グ、グ、グワパッパーーー!」
という鳴き声で目を覚ましたラグナは朝食を済ませエアーフレームテントなどを収納すると準備が完了。
「それじゃあ、頼むよ!」
その一声で、ダッシュバーードは地を蹴り、風を切るように走り出した。
『何故こいつは俺が急いでいることを把握しているんだ?』という疑問を飲み込むと、目的地へと進路を取った。
平原の起伏をまるで平地のように駆け抜け、驚くべき速度で進んでいく。
グーワッパ、グーワッパという効果音をBGMにしてしばらく。
「グワワ?」
ダッシュバーードが走るのを止めて一旦停止してしまった。
キョロキョロと顔を動かし始めた。
するとラグナの耳がかすかな異音を捉えた。
「……何かが聞こえる」
それは前方から響いているような感じがする。
ズドォォン!!
遠くで轟音が響き渡る。
「これは!?」
まるで爆裂魔法がさく裂して時の様な爆発音が聞こえた。
「まずい……!」
アオバ村の悪夢が脳裏をよぎる。
あの時の絶望的な光景が鮮明に蘇る。
『イルマ……!』
血の気が引くのを感じながらも、ラグナはダッシュバーードに叫んだ。
「急いで!全速力だ!頼む!」
「グワァッパ!」
ダッシュバーードは再び全速力で走り出した。
轟音の正体が何なのかは分からない。
しかし、良い知らせでないことは確かだった。
嫌な予感が背筋を凍らせる。
数分も経たないうちに、ラグナの目には砦の姿が見えてきた。
幸いにも門は健在なように見える。
だがそれも時間の問題だろう。
多数のゴブリンに囲まれており、どこからどう見ても劣勢だった。
更に見たことも無いゴブリンまでいる。
「このまま突き進むよ!」
「グアッパ!」
ダッシュバーードが吠えた。
更に砦に向かって進むと、砦の壁の上に人影が見えた。
どうやら砦の上から投石をしているみたいだ。
しかしその人影に向かって、見たことも無い大型のゴブリンが巨大な岩の塊を投げつけた。
あんなものが直撃したら無事では済まない。
更にその人影が幼い頃から共に育った人物であった事に気が付いてしまった
「イルマァァァ!」
あんなものがイルマに直撃したら耐えられる訳がない。
ラグナの気持ちを感じたのか、ダッシュバーードは残りの体力を全振りで急加速を始めた。
しかし、間に合わない。
「クソったれぇぇ‼」
ラグナの叫びも空しくイルマに向かって飛んでいく岩。
避けてと願うが、イルマは硬直してしまっていた。
「頼む!頼む!誰かイルマを!」
しかし現実は無情だった。
ラグナの願いも虚しく、岩はイルマの命を奪うべく突き進む。
まるで時間が止まったかのように時がスローモーションに感じた。
岩がゆっくりとイルマへと近づく。
『あぁ、そんな……間に合わない……』
友人の命が失われる。
岩が彼女の元へとたどり着いた。
あとは彼女を押しつぶすだけ。
『俺は、また間に合わなかったのか』
絶望に染まるラグナだったが……
岩がイルマに触れる直前、異変が起きた。
イルマの周囲を青く美しい光の障壁が包み込んだのだ。
岩は青い光に触れた瞬間、粉々に砕け散った。
その光から発せられたのは魔力とは違う力。
まるですべてを包み込む優しい力をラグナも感じた。
「この力は……マリオン様!?」
イルマからマリオン様の力を感じる。
でもそれがイルマの命を救ってくれた。
しかしその安堵も束の間。
すでに2つ目の岩がイルマに迫っていたのだ。
その岩は狙いがズレたのかイルマの足元の壁に直撃。
「グワァァァ!?」
ダッシュバーードの驚愕の声と共に壁の一部が崩れ落ちる。
その衝撃でイルマが外へと吹き飛ばされてしまった。
このままではイルマがゴブリン達が蠢く場所に落ちてしまう。
「ぐぱぁぁぁぁぁぁ!!」
ダッシュバーードが吠えた。
ゴブリンを踏みつぶしながらも走るダッシュバーードの速度では間に合わない。
そう判断したラグナは一瞬で覚悟を決めた。
「飛べぇぇっ!!!」
その声に応え、ダッシュバーードが地面を蹴り上げ大きく跳躍する。
空を飛ぶラグナとダッシュバーード。
このままでは間に合わないのは確実。
ならばやることは一つ。
無理をするだけ。
「エクスプロージョン!!」
ラグナは自身の背後に爆炎魔法を発動させる。
爆発する直前、爆風を受けるように魔法障壁を後方へと展開。
そして炸裂。
凄まじい爆風が空を飛ぶ1頭と1人に襲い掛かる。
「グパァァァァ!?」
「ぐぅぅ……!」
しかし後方に展開した魔法障壁がラグナとダッシュバーードを守る。
魔法障壁が爆風を受け止め、それを推進力としてラグナ達は急加速する。
まるで弾丸のように空を切り裂きながらイルマへと突き進んでいく。
「ぐぁぱぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ダッシュバーードが恐怖によってよだれをまき散らしながら悲痛な叫びを上げる。
ラグナは魔法障壁の維持に集中し、爆風を推進力に変える。
その砲弾は羽で微調整をしながら、落下する少女の元へと突き進む。
そして壁に衝突する寸前で、ダッシュバーードは大きな羽を広げてエアーブレーキをかけた。
「イルマぁぁぁぁあ!」
ラグナは少女の名を叫びながら腕を伸ばし、落ちていくイルマの体をしっかりと抱き止めることができた。
無事にイルマをキャッチできたラグナはほっと息をついたのだった。
ダッシュバーードはイルマを抱えたラグナを乗せたまま地面へ。
その下に群がっていたゴブリンの上にドスンッ!と落ちる。
その衝撃で数体のゴブリンは潰れてしまうのであった。
ラグナは腕の中のイルマを見た。
まだ息をしている。
良かった。
イルマは無事だったのだ。
ラグナは安堵し、腕の中の少女に声をかけた。
「……イルマ?大丈夫か?」
救世主が今、戦場の真ん中に降り立ったのだった。
今回も読んでいただき本当にありがとうございます。
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