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初心者キャンパーの異世界転生 スキル[キャンプ]でなんとか生きていきます。  作者: 奈輝
混沌が広がる世界

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絶望は日の出と共に。

 夜明け前。


 砦の窓から見える外は漆黒に近い藍色だった。


 ゴブリンの群れが蠢く気配は微かに感じられるが、その姿をはっきり見分けることは難しい。


 日が落ちてしばらくすると、ゴブリンどもからの攻撃が一旦止んでいた。


『なぜ攻撃の手を止めた?ゴブリンは暗闇だろうと見えるはずだぞ?』


 しかし、確実にいる。


 奴らは諦めていない。


 正直ほっとしたが、休んでいる暇などない。


 外は風が冷たく、吐く息が白く煙る。


 戦いは夜明けとともに最悪の局面を迎えるのだった。


「……そろそろ夜明けか」


 砦の中では、騎士学園と商業学園の生徒たちが動き回っていた。


 あの演説によって復活した騎士学園の生徒たちは、自ら進んで商業学園の生徒と協力し、負傷者の手当て、水の確保、投石用の石の運搬、倒れたバリケードの再構築などを自らの意思で行っていた。


 その際、負傷者の手当の為に専用の部屋が必要だったので、一切起きることなく眠っている二つの置物のような物体については、冒険者の2人が砦とシールドの境界になっている場所へ運んで地面へと転がしていた。


 もはや生かしておくつもりもない。


 そしてその2つの置物に食いついていたのがゴブリン達だった。


 目の前に美味そうな人間が2人転がっているのだ。


 醜く涎を垂れ流しながらシールドに顔を押し付けるゴブリン達。


 自らの牙を突き立てるが、届かない。


 手を伸ばせばすぐにでも届く場所に転がっているにも関わらず、触れることが出来ない。


 ストレスに晒され続けたゴブリン達は、お互いに醜い争いを始めていた。


『グルル……!』 『ギギッ!』 『グギャギャギャギャ!』


 まるで獣のように喧嘩を始めるゴブリン達。


 餌がすぐそこにあるのに触れる事が出来ないこのストレス。


 それはゴブリン達が自身を制御出来ないほどの激情を呼び起こさせていた。


 冒険者達はこうなることを予想して、あえて嫌がらせをおこなっていたのだった。


 しかしその喧嘩も、完全に日が暮れる頃にはまるで命令されたかのようにぴたりと止まった。


 夜が訪れると、砦の外は不気味なほどの静寂に包まれた。あれほど騒がしかったゴブリンどもの声が一切しない。その静けさが、逆に生存者たちの不安を掻き立てた。


『ゴブリンの癖に行儀よく休むことなんてありえるのか?』


 壁の上で見張りに立つ冒険者リーダーが吐き捨てるように呟く。


『まるで……何かの合図を待っているようだな』


 その得体の知れない静寂は夜通し続き、誰もがろくに眠れぬまま、ただひたすらに夜が明けるのを待った。


 外は風が冷たく、吐く息が白く煙る。


 戦いは夜明けとともに最悪の局面を迎えるのだった。


「日が……」


 朝日が外の景色を照らし出した頃だった。


 それまで闇に溶け込んでいたゴブリンの姿が一斉に浮かび上がる。


 やつらは、砦に光が差すと立ち上がり、じっと武器を構え始めた。


 まるで野生動物のように欲望に忠実なあのゴブリンが、日が昇るまで休んでいた。


 その時点で異常だった。


 それが更に武器を構えたまま今はジッと待機している。


 あきらかな異常事態。


 だが、それ以上の異変に砦中の者が息を呑んだ。


 東の丘の稜線に沿って、巨大な黒い塊がいくつも蠢いているのが見えてしまった。


 いや、塊ではない。何かを担いでいるのだ。


「なんだ……あれは……」


 冒険者リーダーの呟きに、壁の上にいた誰もが言葉を失った。


 朝日を背にしたその影は、巨大な木材を数匹がかりで担ぎ、ゆっくりとこちらへと向かってきていたのが見えてしまった。


「まじかよ……」


 斥候が震える声で呟いた。


「ゴブリン・グラントが巨大な木を担いでやがる!」


 ゴブリン・グラント。


 通常のゴブリンやホブゴブリンを遥かに凌駕する体格と膂力を持つ、ゴブリンから進化した種。


 その筋骨隆々とした巨体が十二体も並び、巨大な倒木をまるで破城槌のように担いで向かってきている。


「十二体だと……?冗談じゃねぇ……」


 リーダーの喉が乾いた。


 グラント自体は、ダンジョンアタックを行った際に戦った事がある魔物だ。


 だがそれは一匹か二匹、それに数体のゴブリンが付き従うだけだった。


 多数のグラントが組織的に動くなど、見たことも聞いたこともない。


 その時だった。


 斥候が突然、恐怖に満ちた叫びを上げた。


「クソが!そういうことかよ!ソルジャーがいる……!」


 リーダーの目が斥候の指差す方向へ釘付けになる。


 グラントたちの背後。わずかに高い位置に立つ、一体のゴブリンがいた。


 他のグラントとは明らかに違う。


 体格こそグラントよりやや細いが、その分更に引き締まった身体を持ち、まるで正規軍の様に武装しているゴブリンが腕を組んでこちらを見据えていた。


「ソルジャーだと……?そんなゴブリン、俺は聞いた事もねぇぞ……!?」


 リーダーの問いに、斥候は顔面蒼白で首を振った。


「ギルドの資料で見たことがあるんだ!初代勇者が戦っていたあの時代に存在していたゴブリン種の魔物。グラントより上位の種……!やつは下位のゴブリンを統率する場合もあるって書いてあったのを覚えてる!あいつが……奴らを統率してる!だから、ゴブリンどもは大人しく待っていたんだよ!」


 斥候の絶叫が砦の空気を引き裂いた。


「統率されたゴブリンだと……?」


 騎士の一人が呆然と呟く。


 ゴブリンと言えば愚鈍で、本能のままに襲いかかる下等な魔物のはずだった。


 それが、統制の取れた軍勢となって襲いかかってくるというのか?


 砦の全員が理解した。これからが本当の絶望なのだと。


 そして、


「キシャァァァッ!!」


 ソルジャーと呼ばれたゴブリンが、甲高い咆哮を上げ砦へと剣先を向けた。


 それに応えるように、


「ングゥゥゥッ!!」


 という苦悶に満ちた咆哮と共に十二体のグラントが一斉に動き出す!


 巨大な倒木を担いだゴブリン・グラント達が全力で走りだし、まるで破城槌のようにシールドへ叩きつけられた!


 ゴウゥン!


 砦全体が地震のように揺れ、シールドが明滅する。


 元々、明朝まで持てばいいと言われていたシールドの魔道具。


「やべぇぞ!このままだとシールドが!」


 冒険者の叫びが虚しく響く中、グラント達は何度も助走をつけては執拗に砦の門の正面付近のシールドを狙って倒木を叩きつけていた。


 ゴウゥン!


 ゴウゥン!


 覚悟を決めたはずの生徒達だったが、その絶望感に叫び声をあげてしまうのも仕方がないだろう。


 それほど、絶望を感じる光景だったのだ。


 ゴウゥン!


 グラント達は再び倒木を持ち上げ、


 そして……


「ギギィィィ!!」


 と叫びながら再び助走をつけて、


 ゴウゥン!


 という音と共にシールドへ倒木を叩きつけた。その瞬間、シールドに大きなヒビが入るのが見えた。


 そして、


「ギギギギギィィィッ!!」


 とグラント達の咆哮と共に更に力を込めて打ち込まれた倒木。


 ゴウゥン!!


 という音と共に、


 パリンッ!!


 というガラスが割れるような音が響き渡り、シールドが砕け散った。


 勢いを殺しきれなかった倒木は、そのまま砦の門へと叩きつけられてしまった。


 門は強固な物だが、倒木の一撃を食らい激しく軋んだ音を立てるのだった。



今回も読んでいただき本当にありがとうございます。

少しでも気に入って頂きましたらブックマークの登録や☆☆☆☆☆にて高評価して頂けると焚き火の火を見ながら1人嬉し涙を流すかもしれません。

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