犠牲。繋いだ命を。
お待たせしました。新作の準備で時間が掛かりました。
更新再開します。
当分の間は毎週火曜日と金曜日、18時に更新予定です。
「この砦にこの規模のシールドの魔道具なんてあったのか?」
膝を抱えながら泣きわめく存在達が多数いる中、それを気にすることなく冒険者が騎士に駆け寄ってきた。
「いや。本来はカーリントーで使う予定だった魔道具だ」
「……大丈夫なのか?そんな大事なものを勝手に使っても」
「仕方ないだろ。ここで死ぬわけにはいかないんだ」
騎士の言葉に冒険者も頷いた。
「そうだな。援軍が来るまでは守るしかないか……」
「問題はセットしてある魔石では明朝を迎えたくらいで魔力が切れるって事だ。起動テスト用の魔石がセットしてあるらしくてな。本来使用する予定の魔石ではないから長時間使用できる魔力が無いらしい」
「なんとも上手くいかねぇもんだな……」
「そんな魔道具でもないよりはマシだがな。まぁなるべく早く援軍が来ると信じて私たちは動くだけだ」
「だな。俺らは冒険者だ。防衛戦なんぞやるような知識はねぇ。あんたの指示に従うよ」
「助かる。まずは……そこらでぴぃぴぃ叫ぶヒヨコ共を全員集めてくれるか?」
「了解だ。ヒヨコ共を集めてくる」
冒険者達は騎士の指示に従って動き出すのだった。
夕方が終わりを迎えそうな頃、砦の外ではゴブリン達が忌々しげに唸り声を上げていた。
シールドの魔道具が砦全体を薄い膜で覆い、投石や矢がパチパチと音を立てながら弾かれているのが微かに見える。
放棄された砦の内部には高価な魔道具など残されていなかったので、燭台の頼りない灯りだけが唯一の光源となっていた。
騎士学園の教官は震える生徒達を前に立ち尽くしていた。
目を逸らしたい衝動に駆られながらも、生徒たち一人ひとりを見つめる。
『また繰り返すのか。仲間を見捨てたというあの屈辱を』
教官の心には生徒を見捨てた罪悪感と指導者としての無力感が渦巻いていた。
学園騎士と共に座り込んだままの生徒達の前へと立つ。
「騎士学園の者達よ!」
教官の声が砦の壁に反響する。
生徒達の顔が恐怖で歪むのが見えた。
こいつらにとってはもはや人間の言葉ですら恐怖を感じているのだ。
教官は必死に言葉を紡いだ。
「オリオールはなぜ死んだ!? なぜ彼を置いて撤退しなければならなかった!?」
声が震えるのを抑えきれず、喉が焼けるような痛みを感じる。
自身に英雄と呼ばれるほどの力があれば……
どんな人物であろうとも自身にとっては大切な生徒だったのだ。
それをあろうことか教官である自分は見捨てる選択を取った。
本当にそれが正しかったのか、未だに答えは出ない。
それでも教官は続けた。
「お前たちに生き延びてほしかったからだ! だからこそ彼は我々の代わりに犠牲になった!」
生徒達の目から涙がこぼれ落ちる。
「騎士学園の生徒よ!お前たちはオリオールが自身の身をもって繋いでくれた命を無駄にするつもりか!? 今度はお前たちが繋ぐ番ではないのか!?」
教官の言葉は叫び声となり砦内に響く。
「仲間の命を無駄にするな! 戦え! 立て! オリオールに顔向けできない行動はするな!」
涙を浮かべていた生徒達の瞳に小さな炎が灯った気がした。
しかし震える体は動かせず、恐怖に支配されたままだった。
学園騎士の一人が生徒達の前に歩み出る。
彼は教官の熱弁に耳を傾けながらも、現実的な視点で冷静に状況を見据えていた。
教官の言葉は勇気づけられたかもしれないが、まだ足りない。これだけでは戦えない。
「今この瞬間にもゴブリンどもはお前達を殺すために動いている!お前たちは戦うために訓練を受けてきたのでは無いのか?民を守るために騎士を目指したのではないか?お前たちが本来守るべき民は今何をしている?」
学園騎士が指さした先には少女が次々と仲間に指示をしている姿があった。
商業学園の生徒達は怪我人の手当てや物資の整理に追われていた。
イルマが中心となり商業学園の生徒達をまとめて動いていた。
本来指揮を執るべき教員はすでに一人もいないのだ。
戦う力を持たないたった一人の少女が先頭に立ち、商業学園の生徒達を動かしていた。
「我々が今ここで籠城している事は既に商業学園へと連絡してある。彼女は我々と共に命を懸けて砦の屋上へと上がり、通信の魔道具を見事起動してみせたのだ。わかるか?力を持たぬか弱い少女が、あの石と矢が降り注ぐ中、自身の命を懸けて行動してみせたのだ!更に見てみろ!彼女は商業学園の生徒を纏め、指揮を執り、最善の行動をとっている!」
学園騎士の声が響く。
「お前達はそれでも騎士学園の生徒と名乗る資格があるのか?」
生徒達の表情が変わる。
イルマ達の行動を見て、自分達が恥ずかしくなったのだ。
「手を貸せ!怪我人の治療を!水を汲め!武器を拾い集めろ!出来る事は全部やれ!自分にできる事を全力でやれ!そして我々は誰一人欠ける事なく生き残るんだ!」
学園騎士の言葉に生徒達の目つきが変わる。
学園騎士は真剣な眼差しで続けた。
「ここにいる全員、全力で自分の出来る事を最大限行う。それが今のお前たちに与えられた任務だ!」
学園騎士の言葉に生徒達は顔を見合わせた。
恐怖を抱えながらも『動かねばならない』という思いが湧き上がってきた。
『このままではオリオールが犠牲になった意味が無い』
教官の言葉が彼らの心に響いた瞬間だった。
一人の少年が立ち上がる。
その少年はオリオールと関わりが多かった少年だった。
恐怖で足が震えているが、それでもしっかりと両足で立っていた。
「俺は……やるぞ!」
その声に続いて、もう一人。そしてまた一人と立ち上がる。
騎士学園の生徒達は互いに顔を見合わせるとゆっくりと頷き合い、次々と動き出した。
教官は胸に熱いものが込み上げてくるのを感じていた。
「よし!行動開始だ!」
教官の声に生徒達が動き出す。
再び立ち上がった騎士学園の生徒達の姿を見たイルマは内心安堵しながらも、自分に出来る事を最大限発揮していく。
学園騎士達も各所で指示を出し、作業をサポートする。
教官は生徒達の背中を見守りながら思った。
『お前たちは絶対に生き残れ。これ以上誰一人欠ける事なく』
砦の中には恐怖だけでなく希望の光も確かに灯っていた。
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