怒りの鉄槌は全身全霊全力をもって
※子供の夏休みの宿題をほぼ全て打ち倒す事が出来ました。本当に多すぎるのよ……
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公立の小学校3年生でこの量です……
進学校とかだったらどうなってるの、これ……
空に放たれた光が、まるで空を切り裂くように疾走していった。
淡い残光を引きながら弧を描き、やがて王都マリンルーの方角へと消えていく。
その瞬間、砦を包む怒号も咆哮も矢の飛来すらも一瞬だけ遠ざかったかのように思えた。
ほんの刹那の出来事であったが、あの光は戦場に立つすべての者の目に焼き付いていた。
「……届いた」
震える声で呟いたのはイルマだった。
肩で荒く息をつき、汗に濡れた額を手の甲で拭いながらも、彼女の瞳には確かな安堵が灯っていた。
その声に反応したのか、傍らで盾を構えていた騎士が振り向く。
彼の盾には幾本もの矢が突き刺さり、肩口には深い切創から血が滴っている。
痛みに顔を歪めつつも、彼の瞳はイルマを見て緩んだ。
「よし……よくやってくれた」
短い言葉に、これまでの苦闘と緊張が凝縮されている。
「ええ……」
イルマは必死に笑みを作ろうとしたが、歯を食いしばるような表情になってしまった。
胸の奥に渦巻く恐怖は消えてはいない。
それでも、自分が果たすべき役目を果たせた。
その実感だけは確かにあった。
だが喜びに浸る間すら与えられない。
砦の屋上では相変わらず矢が雨のように降り注ぎ、石の礫が瓦礫を砕いて飛び散る。
眼下ではゴブリンたちが甲高い咆哮を上げ、武器を振りかざして迫り上がってきていた。
血と鉄錆の匂いが混じった生暖かい風が、屋上の空気を一層重くする。
「急いで下に降りるぞ! ここは危険すぎる!」
怒鳴るように叫んだのはもう一人の騎士だ。
盾を掲げ、容赦なく飛来する矢を受け止めながら屋上の縁へと走る。
二人の騎士はイルマを間に挟み、矢を浴びながらも身を挺して守り抜く。
木製の盾に突き刺さる矢の音、石が金属にぶつかる鈍い衝撃音。
耳を塞ぎたくなるような轟音のなかで、彼らはただひたすらに足を前へと運んでいた。
「グギャギャギャッ!」
敵の雄叫びが近づく。
耳障りな咆哮が背中を押すように迫ってくる。
矢が屋根瓦を叩き、火花を散らしながら弾け飛ぶ。
イルマは恐怖に震えながらも必死に足を動かした。
膝が笑い、恐怖で声が出ない。
魔道具の起動を無事におこなってからどんどん自分の中で恐怖が募っていく。
それでも止まってしまえば命はない。
震える手で騎士の背にすがりつき、必死に前進する。
「もう少しだ! 踏ん張れ!」
振り返りざまに騎士が声を張り上げる。
その声に押されるように、イルマは屋上から階段へと身を投げた。
石段を転がるように駆け下りる。
背後では矢が屋根を突き抜け、瓦が粉砕される音が響く。
壁に激突する石礫が砦の内部にまで飛び込み、粉塵が鼻をつく。
外からは冒険者たちの怒号が響いた。
石を投げ、矢を放ち、身を張ってゴブリンの注意を引きつけている。
誰もが必死だった。
「ここからが勝負だ……!」
盾を構えた騎士の一人が低く呟く。
矢が彼の腕を掠め、赤い筋を描いて滴っていた。
しかし彼は眉一つ動かさず、冷静に階段を下りる。
一階へと辿り着くと、砦の中に避難していた商業学園の生徒たちが駆け寄ってきた。
顔は蒼白で、額には汗が滲んでいる。
屋上に向かった時の姿とは違い、血まみれになった騎士の姿に更に恐怖が押し寄せていた。
「大丈夫ですか!?」
震える声で問いかける生徒に、騎士は荒く息を吐きながらも頷いた。
「ああ……魔道具の送信は完了した。だが安心している暇はない。次に必要なのは、生き残るための行動だ」
そう言って騎士は生徒に視線を鋭く向ける。
「魔道具の目録を持っているな。今すぐ見せてくれ。使えるものがあれば、なんとしてでも活用するぞ」
生徒は慌てて羊皮紙を差し出す。
騎士の指先が走り、数箇所で止まった。
「……シールドの魔道具」
それは本来カーリントーで使用される予定だった強力な拠点防衛用の魔道具。
「これは……使える」
騎士の目に確かな光が宿った。
砦の規模であれば十分に展開できる防御力を持つはずだ。
「本来より小さな範囲で展開すれば、魔力の消費も抑えられます。簡易砦のサイズなら、少なくとも明朝までは持つはずです」
そう言ったのは、実家が魔道具工房を営む生徒だった。
彼は性能を把握しており、この魔道具の設定の変更すらできるという。
「どこにある!?」
「さっき倉庫に移しました!」
「すぐに持ってこい!」
命じられ、生徒たちは全速力で駆け出す。
ほどなくして二人がかりで大きな魔道具を抱えて戻ってきた。
「お待たせしました!」
床に降ろされた魔道具は素人にはどう起動したらいいのか全くわからない物だった。
「これが……シールドの魔道具か」
包帯で腕を固定されながらも、騎士の一人が目を細めて呟いた。その時だった。
ドタバタ、と慌ただしい足音が廊下から迫ってきた。
次の瞬間、扉を乱暴に押し開けて商業学園の教員と商人が飛び込んできた。
顔は歪み、目は血走り、手には金属の棒を握りしめている。
「その魔道具を寄越せ!」
怒号が響く。
怯えではない。
己の生存欲だけに突き動かされた狂気じみた叫びだった。
「黙れ! お前らは下がっていろ!」
即座に騎士が剣を抜き、前へ出る。
だが商人は一歩も退かない。
「これさえあれば……私だけでも生き残れるんだ!」
己の命しか考えぬ言葉。
仲間を見捨て、他を犠牲にしてでも助かろうとする醜悪な本音が剥き出しになった瞬間、騎士の怒りが爆発した。
「ふざけるな!」
剣を振るう代わりに、騎士は拳で商人の顔面を殴り飛ばす。
鈍い衝撃音とともに商人の身体が宙を舞い、壁に叩きつけられ呻き声を漏らして床に崩れ落ちた。
「お前は下がってろ!」
怒鳴り声が響いたが、すでにもう一人の教員が突進してきていた。
狙いはただ一つ。
目の前にある魔道具。
「このクソ野郎がぁぁ……!」
その瞬間、イルマが動いた。
恐怖に固まっていた身体を無理やり奮い立たせ、一歩踏み出す。
その動きには怒りと本能が混じり合っていた。
教員の背に回り込むと、全身全霊を込めて足を振り上げた。
グニャリ、と嫌悪感を伴う感触が彼女の足裏に伝わった。
「ぐぁっ!?」
教員の顔が歪む。
股間への鋭い一撃が見事に命中したのだ。
「グハッ!? グ……グッ……!」
声にならない悲鳴を上げ、教員は膝から崩れ落ちた。
その背中にさらに蹴りを叩き込むと、前のめりに床へと倒れ込む。
「こんな状況下でバカが!」
怒声とともに騎士が駆け寄り、倒れ込んだ教員の頭を足で踏みつける。
「おい! 暴れさせるな!」
「分かっている!」
二人がかりで教員の腕を縛り上げ、もともと閉じこもっていた部屋へと引きずり込む。
椅子に括り付けられ、脱走できないようにガチガチに固定された。
意識を失っている商人も同じように縛り上げられる。
こうして場の混乱はようやく収束を迎えた。
だが、砦の外から響く咆哮と石の雨は依然として止む気配を見せなかった。
今回も読んでいただき本当にありがとうございます。
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