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初心者キャンパーの異世界転生 スキル[キャンプ]でなんとか生きていきます。  作者: 奈輝
混沌が広がる世界

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覚悟を決めてポチっと……

 イルマは震える指で必死に文字を打ち込んでいた。


 冷や汗が首筋を伝い、心臓が喉の奥で暴れている。


 打ち込むたびに手が痙攣し、魔道具の文字盤を何度も打ち損じそうになる。


 だが、それでも少女は歯を食いしばって進めた。


[魔物の襲撃を受け籠城を開始。現在地はカーリントー方面途中にある放棄された簡易砦。救援求む!]


 表示された文面を読み上げると、イルマは小さく息を吐いた。


「……あとは、外に出て……完了を押すだけです!」


 声は震えていたが、瞳には強い意志が宿っていた。


「よくやった!」


 学園騎士が力強く頷き、イルマの背を守るように立ち塞がる。


 剣を抜き、盾を構え、彼女を守護する壁となって外へ踏み出した。


 砦内はすでに酷い有様だった。


 唯一の門は外からガンガンと叩きつけられ、木板が悲鳴のようにきしむ。


 砦の石畳には折れた矢、投げ込まれた石、散乱する木片が転がり、避けることすらままならない。


 怯えきった生徒たちは盾を頭上に掲げ、ただ蹲って震えているだけだった。


 矢の雨が再び降り注ぐ。


「下がれ!」


 騎士が叫び、飛来する矢を叩き落としながらイルマを庇う。


 矢が盾に突き立ち、金属音が鋭く響くたびに、イルマの肩は跳ねた。


 そして、通信の魔道具に手を伸ばし、震える指で「完了」を押す。


 だが、表示された文字は無情だった。


[周囲が開けた場所にて完了ボタンを押してください]


「だ、ダメです! ここからだと……建物が近いから!」


 イルマが顔を上げ、悔し気な声で告げる。


「……ちっ」


 騎士は盾で石を弾きながら、砦の地形を素早く見渡した。


 視線は高台の物見櫓に向かう。


『屋根がついている……これでは空が開けていない。なら……』


 すぐに答えは出た。


 建物の屋上。


 そこしかない。


「いったん戻るぞ!」


「は、はい!」


 恐怖に足を竦ませながらも、イルマは必死に前へ進んだ。


 自分がやらなければ、皆が助からない。


 その思いだけで、細い足を必死に動かしていた。


 その姿に学園騎士は心底驚嘆していた。


 騎士学園の訓練を積んできた生徒ですら恐怖に潰されそうになっている。


 そして、こちらはその背に隠れながらも勇気を振り絞る少女。


 今、守るべきは誰か。


 答えはすでに決まっている。


「……君のことは、必ず守る」


 騎士は小さく呟いた。


 イルマには届かなかったが、それは確かな誓いだった。


 彼らは再び砦の建物へ駆け戻る。


「どうしました!?」


 待機していたもう一人の学園騎士が声をかけた。


「外に出ただけでは魔道具が起動しなかった。どうやら見晴らしがいい場所じゃないとダメらしい。」


「……見晴らしのいい場所……物見櫓ですか? ですが、今あそこは攻撃が集中しています!」


「いや、物見櫓にも屋根がある。遮蔽物があれば条件を満たせん」


「じゃあ、どこなら……?」


 問いかけに答える代わりに、騎士は天井を見上げた。


「ま、マジっすか……⁉」


 もう一人の騎士が青ざめる。


 屋上。


 確かに開けてはいるが、遮るものは何もない。


 魔物たちの矢も石も、丸裸で浴びることになる。


「そ、そこしかないんですよね……」


 後輩である学園騎士がため息をはきながらそう尋ねてきた。


「あぁ。そこで駄目なら、もう思いつかん」


「はぁ……わかりました。自分も騎士です。命を懸けて姫を守る。まるで物語ですね」


「ははっ……そうだな」


 緊張の中でも、ほんのわずかに笑みを交わす。


 その時、商人が慌てたように声を上げた。


「き、君たちが行くのか!? 生徒だけで行かせればいいではないか!」


 戦える騎士二人に何かあれば、籠城戦は一層厳しくなる。


 だからこそ、彼は怯えに駆られて叫んだのだ。


「ならば貴様が壁となればよかろう。よし、共に行こうではないか!」


 騎士が商人の腕を掴む。


「む、無理だ!私にこんなことをしていいと思っているのか!? 後日学園に報告してやるからな!」


 商人は顔を真っ赤にし、腕を振りほどくと、商業学園の教師が隠れている部屋へ逃げ込んでしまった。


「……この状況でも、周りが見えていないか」


 騎士は呆れ、ふと呟いた。だが、同時に一つの発想が閃く。


「……待て。完了を押すだけなのだろう? ならば私が屋上に上がり、押せばいい。君が行く必要はないな」


 だがイルマは首を横に振った。


「……この魔道具は、最初に起動した人しか使えないように作られているらしいです。防犯のために初回に起動した魔力の波長を記録していて……。元々は先生が起動実験をする予定だったのに、今は私しか……」


「そうか……」


 騎士は短く息を吐く。結局、彼女が行かねばならない。


「仕方ない。我々は屋上へ向かう。君たちは物資を確認しろ。外で戦っている冒険者を支援できる魔道具がないか探せ。絶対に生き残るぞ!」


 力強い声が砦の中に響く。


「「はい!」」


 生徒たちが慌てて動き出す。怯えて縮こまっていた彼らに、騎士の言葉は火を灯した。


 イルマは胸の奥で拳を握った。


 恐怖はまだ消えない。だが、今だけは進むと決めていたのだった。



今回も読んでいただき本当にありがとうございます。

少しでも気に入って頂きましたらブックマークの登録や☆☆☆☆☆にて高評価して頂けると焚き火の火を見ながら1人嬉し涙を流すかもしれません。

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