まさかこんなテントが!?
※本日、子供がマイコプラズマ肺炎に感染してしまったので明日以降の更新についてはお休みする可能性があります。
。゜(゜´Д`゜)゜。
「ワンタッチテントよりも袋がデカいな……」
地面にどっかりと置かれた袋を見下ろしながら、ラグナは思わずそう呟いた。
サイズ的にはそこまで巨大というわけではないが、過去に使っていた軽量型のテントと比べると確かに収納サイズが一回り大きく感じる。
「ま、まぁ……それでもエアーフレームって書いてあったし。軽いはずだよな?」
そんな楽観的な予想とともに、袋の取っ手を両手で掴んで持ち上げた瞬間、
「うぐっ!? 重たっ!? なんでこんなに重いんだ!?」
名前から勝手に軽いと想像していたラグナは予想外の重さに驚く。
「……いや、まじで?エアーって名前から、もっとこう軽やかでフワッとした感じかと……」
ぶつぶつと文句を言いながら、なんとか平らな場所へと袋を運ぶ。
中から取り出すと、丸められたテント本体がごろりと転がり出た。
ぐるぐると布が巻かれていて、金属フレームらしきものは確かにまったく見当たらない。
「どこからどう見てもただの布じゃないか……本当にテントになるのか、これ?」
不安と疑念を抱いたまま立ち尽くしていると、頭の中に説明書が浮かんでくる。
『設営方向を決めてください』
「まずは設営の方向か。風向きも考えなきゃダメだよな……」
誰に語りかけるわけでもなく、ラグナは声に出して説明書の指示に従う。
ラグナは周囲の状況を確認し、風の流れる方向を意識しながら設営方向を決めた。
ちょうどダッシュバーードが羽根を休めている方向へ向けてテントを展開することになった。
地面にシートを広げると、その大きさにまたも驚く。
「これ……一人用じゃないな。どう見てもファミリーテントじゃないか?」
テントの後方左右2カ所に仮止め用のペグを打ち込む。
初めてのテントという緊張感も相まって、手元がわずかに震えていた。
そして次に表示された指示は、
『エアーを注入してください』
「本当に……ここに入れるのか?」
テント側面にあるキャップをひねると、確かにそこには注入口が現れた。
なるほど、ここから空気を送り込むらしい。
セットの中には手動のエアーポンプも同梱されていたが、ラグナはそれには目もくれず、風魔法を発動する。
シュゥウウウ……
魔法で生み出した風が注入口に向かうと、そのまま優しく注入されていく。
最初は変化が見られなかったが、徐々にテント内部のフレームが膨らみ始めた。
「おお……!?」
ボフッ、バシュゥッ……
鈍い音を立てながら空気がテントの骨格を形作り始め、それに伴って布地が少しずつ立ち上がってくる。
まるで魔法のように倒れていたただの布が、しっかりとしたドーム型に姿を変えていった。
「……立った。勝手に立ち上がったぞ、コイツ……」
目の前でテントが完成形に近づいていく様子に、ラグナは呆然と立ち尽くしたままだった。
まさか本当にこうなるとは思ってもいなかった。
バルブの蓋をしっかりと閉めると、改めて4カ所の固定を行う。
地面にしっかりと踏みしめるように打ち込まれたテントは、見た目にも十分な安定感を感じさせた。
「……失礼かもしれないけど、ちゃんとテントになってる……まじか……本当に空気だけで……」
テントの前方には小さなタープが備え付けられていた。
これを広げるとちょっとした屋根のような空間ができ、影を落としてくれる。
タープ部分だけは通常の金属ポールで支える構造になっていたが、それも組み立ては簡単だった。
「まさか、ビニールプールだけじゃなくてテントまで空気で立ち上がる時代になってたとはね……」
テント内に頭を突っ込むと、そこには大人四人が寝転がれるだけのスペースが広がっていた。
地面には厚めのマットを敷けば快適そうだ。
「……ちゃんとテントだ……いや、マジで感動だわ……」
思わず笑みがこぼれる。
こんな世界で、新しいキャンプ道具を試せるとは、思ってもみなかった。
気をよくしたラグナは、
「蚊取り線香、召喚っと!」
スキルにより取り出された線香に、火魔法で火をつける。
モクモクと立ちのぼる煙が、ほのかに懐かしい匂いを辺りに漂わせた。
「これで虫も来ないはず……たぶん」
さらに、土魔法を使って簡易的な椅子や火床を地面から作り出す。
野営地としては十分すぎるほど整ってきた。
「さて……ご飯でも作るか」
今日は魚の気分だった。
以前、時間があったときに釣っておいた魚を取り出し、串に刺して塩を振る。
そして、それを焚き火でゆっくりと焼き上げる。
炭火に近い状態の火床が、魚の表面をこんがりと香ばしく焼き上げていく。
ジューッ……パチパチ……
「いい匂いだなぁ……」
その瞬間——。
「グワッパ!? グワッパグワッパ!!」
ダッシュバーードが、鼻をひくつかせながら飛び起き、魚の焼ける匂いを辿って走り寄ってきた。
「はいはい、分かったって」
念のためにと、塩を振らないで焼いておいた焼きたての魚を一本差し出すと、ダッシュバーードはそれを一口で丸呑みした。
「……魚を食べて大丈夫なのか?」
心配になったが、どうやらこいつは大丈夫らしい。
ダチョウって草食だった気がするのだが……
何事もなかったかのように次の魚を催促してくる。
「仕方ねぇな……はい、次」
ラグナは魚を追加で串に刺し、次々と焼いていく。
それをダッシュバーードがペロリとたいらげていく様子に、餌やりをしている気分になり自然と顔がほころんだ。
「グワッパパァァ!」
満足げに鳴くダッシュバーードの横で、ラグナも自分用の焼き魚にかぶりつく。
「うん、やっぱり美味いな。この塩加減が最高だ」
ふと目をやると、キャンプスキルの魔導書がふわふわと浮かびながらうろついていた。
「はい、お前も食うか?」
串に刺した魚を差し出すと、それがスッと消えていった。
『んまい!最高!』
空中に浮かぶ魔導書がプルプルと震えながら喜びを伝えてくる。
「そっか。それなら良かったよ」
食事を終えると、ラグナは神器のひとつであるウォータージャグの高さを調整し、簡易シャワーとして使用する。
サラサラと流れ落ちる水を頭から浴び、砂埃と汗を洗い流す。
「ふぅ……さっぱりした……」
星が瞬き始めた頃。
ラグナは清潔なテントの中に潜り込み、寝袋を取り出すと明日に備えて早めに就寝したのだった。
今回も読んでいただき本当にありがとうございます。
少しでも気に入って頂きましたらブックマークの登録や☆☆☆☆☆にて高評価して頂けると焚き火の火を見ながら1人嬉し涙を流すかもしれません。




