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初心者キャンパーの異世界転生 スキル[キャンプ]でなんとか生きていきます。  作者: 奈輝
混沌が広がる世界

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教官役は貴方です!

ちょっと更新遅れてしまい、ごめんなさい。




 翌朝。陽が昇りきる前の、まだ涼しさの残る時間帯。


 冒険者ギルドの一角に、昨日のメンバーが再び顔を揃えていた。


「おはよう、みんな」


 ウィリアムの柔らかな挨拶に、他の面々も声をそろえる。


「「おはよう」」


 それぞれが昨日の反省を胸に、今日は早めの集合となったようだ。


 フィオナを除いた全員が、すでにギルド食堂の定位置に座っていた。


「なんか今日は、人が少ないわね?」


 きょろきょろと周囲を見渡したセシルが、ふと首を傾げる。


「そやなぁ……昨日あんなけクエストのこと叩き込まれたから、みんな朝早うから張り切って稼ぎに出てったんとちゃう?」


 ルーが頬を掻きながら笑うと、他のメンバーも納得したようにうなずく。


 そんな和やかな空気の中、ギルドの扉が突然バンッと勢いよく開かれた。


「おはよう!お前ら、今日はちゃんと準備してきたかーっ!」


 声の主はもちろん、フィオナだった。


 昨日の参加出来なかった事が効いたのか、彼女の気合は明らかにいつもより一段高い。


 表情にも覇気がみなぎっている。


「昨日の反省を踏まえて、ちゃんと準備してきました!」


 ウィリアムが胸を張って答えると、他のメンバーも自信ありげに頷いた。


「うむ、素晴らしい心がけだ。あとは抜けがないといいな」


 と、満足そうにうなずいたフィオナはくるりと踵を返し、ギルド内のクエスト掲示板に向かって指を伸ばす。


「さて、今日のクエストだが……」


 クエスト掲示板をジーっと見ていくフィオナだったのだが、とあるクエスト票を発見すると指を指す。


 その指先が示したのは、一枚の依頼票。


「通称『角ウサギ』の討伐だ。正式名称はホーンラビット。初心者向けとしても悪くない案件じゃないか?」


「角ウサギ……?」


 テオが小首を傾げる。見慣れない名前に、やや警戒心を滲ませていた。


「ああ。角の生えたウサギ型魔物でな。サイズは小柄だが、頭の角で突進してくるんだ。素早いし、意外とタフだぞ」


 フィオナはそこでふっと頬を緩めると、指を唇に当てて恍惚の表情を浮かべた。


「しかしな……あいつの肉、めっちゃ美味いんだよなぁ〜」


「……美味い?」


 ウィリアムが若干引いた表情で聞き返す。


「ああ! 脂と赤身のバランスが絶妙でな。シンプルに塩胡椒で焼くだけで……ほら、想像してみろ? 噛めばじゅわっと肉汁が口いっぱいに――」


「よだれ、よだれ」


 ラグナが呆れたようにタオルを差し出す。


 フィオナは照れたように口元を拭きながら笑う。


 だがその話に影響されたのか、他のメンバーの表情もどこか浮つき始めた。


「肉……」


 ぽそりとシャールが呟き、彼の目がわずかに光った。


 食べることへの情熱が、ひしひしと伝わってくる。


「どうせ受けるなら、食えて美味い魔物がええやん?」


 ルーも満更でもなさそうに言いながら、早く狩りに行きたそうな様子だ。


 だが、ラグナが依頼票に目を落とし、眉をひそめた。


「……残念だけど、この依頼、角と肉の両方を納入しなきゃいけないみたいだ」


「マジか……!」


 フィオナのテンションが一気に下がる。


 肩をがっくりと落とし、その落胆ぶりに思わず周囲が笑い出した。


 そんなやり取りの最中、奥のカウンターから、低く落ち着いた声が聞こえてくる。


「おう、朝から騒がしいな」


 その声に全員が振り向く。


 そこに立っていたのは、冒険者ギルドのギルド長イシュバルだった。


 だが、どこか疲れ切ったような様子で、いつもの落ち着いた雰囲気には翳りがあった。


「おはようございます、ギルド長。……どうかしたのですか?」


 ミレーヌが丁寧に挨拶をすると、イシュバルは深いため息をついた。


「ああ、昨日言っていたお前たちの教官役の件だがな……今朝、ようやく決まった」


 そう言ってイシュバルが後ろを振り向く。


 そこには……


「よう。本当にお前たちに教官が必要なのか疑問だけどな。改めてヴァーマスだ。よろしく頼むわ」


 そこに立っていたのは、模擬戦でラグナと剣を交え、昨日はフィオナの元で過酷な訓練を受けていた熟練冒険者、ヴァーマスだった。


 だが、


「……あれ? なんか、昨日よりボロボロじゃ……」


 テオが不安げな声でつぶやく。


 その言葉に応じるように、ヴァーマスはばつが悪そうに笑いながら、頭を掻いた。


「ま、まあ、ちょっと色々あってな……」


 彼の服はところどころ破れており、顔には昨日よりも明らかに増えた痣と擦り傷。


 そして何より、表情がどこか遠い。


 そんなヴァーマスをチラリと見ながら、イシュバルが事情を語り始める。


「……実はな。昨日の夜、お前たちの教官役を探してるって話が、どこからともなくギルド全体に広まってな」


「広まった……?」


 セシルが目を見開いた。


「ああ。しかもな、その情報を聞いたフィオナ親衛隊とかって連中が、勝手に盛り上がりやがって……」


「フィオナ親衛隊って……」


 ラグナが無言でフィオナを見ると、彼女はバツが悪そうに咳払いをして視線を逸らした。


「……お酒なんて飲むから……酔っぱらってあんな事言うからこんな事になったんだよ?」


「うっ……ちょ、ちょっとくらい、いいと思ったんだ……」


 イシュバルが続ける。


「それで……そのフィオナ親衛隊やらお前たちの強さの秘密を知りたい奴らが次々とギルドに押しかけてな。それも夜遅くに数十人もが詰めかけたんだ」


「マジで……」


 全員が呆れたように天を仰ぐ。


「仕方なく、その連中の中で選考テストをやることにしたんだ。まさか一晩中やる羽目になるとは思わなかったがな……」


 イシュバルの疲れ切った声に、全員が苦笑をこぼした。


「それで、最後まで勝ち残ったのが……ヴァーマスさんってことですか?」


「ああ、なんとか俺が選ばれたんだ」


 ヴァーマスは苦笑しながらも、どこか誇らしげな表情を浮かべていた。


 その背後には、選考に敗れた冒険者たちが、今なお名残惜しそうにこちらを見つめていた。


「というわけで、これからしばらくの間は、俺が正式にお前たちの教官ってわけだ。よろしく頼むぞ」


「「よろしくお願いします!」」


 全員が、勢いよく頭を下げる。


 ヴァーマスは腕を組みながら頷き、イシュバルの方を向いた。


「んじゃ、まずは冒険者として必要な道具の再確認からだな。ギルド長、会議室借りるぞ」


「ああ、好きに使え」


 そうして、ラグナたちはヴァーマスの後に続いて移動していく。


 新たな教官と共に、彼らの冒険者としての第二歩が動き出そうとしていた。



今回も読んでいただき本当にありがとうございます。

少しでも気に入って頂きましたらブックマークの登録や☆☆☆☆☆にて高評価して頂けると焚き火の火を見ながら1人嬉し涙を流すかもしれません。

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