反省会は胸に刻んで
「ほら、初めての冒険者デビューがどうだったのか、正直に話してみろ!」
テーブルを囲んだ円卓の中央で、フィオナが腕を組みながらぐいっと前のめりに乗り出す。強めの口調ながら、その目はどこか期待を込めたように輝いていた。
促されるままに、ウィリアムたちは反省の色を浮かべた複雑な表情で顔を見合わせた後、ぽつりぽつりと今日一日の冒険を語り始めた。
あの草原での戦い、スライムに囲まれたときの驚きや焦り、そしてラグナの判断によって立て直された戦局。
彼らにとっての初実戦は、単なる記念すべき第一歩に留まらず多くの教訓を残す体験となっていた。
最後まで聞き終えたフィオナは、少し間を置いてから、豪快に笑い出した。
「はっはっは!まぁ、そんなもんだろうな!でも、ラグナ、お前の判断は見事だったぞ。まさに未熟な奴らの浮かれた鼻っ柱をへし折るには、うってつけのクエストだったじゃないか!」
「……」
「……」
「……」
笑うフィオナに対して、ラグナ以外の全員がばつの悪そうに黙りこむ。
その姿に、フィオナは肩をすくめると、
「まぁいい教訓になっただろう。仮に私が同行していたとしても、きっとラグナと同じように判断していた。いや、むしろそう動けとラグナに指示していたはずだからな」
そう言って、手近にあったグラスを取り上げると、フィオナは果実水を一気に飲み干した。
「で? スライムの討伐自体ははどうだったんだ?」
その問いかけに、最初に答えたのはテオだった。
「……思っていたよりも素早く動くので、対応に苦労しました」
短くも真摯な言葉。
それに続くように、ルーが口を開く。
「そやねぇ……地面に身体押し付けてた思たら、いきなりこっちに跳びかかってきよるなんて、そんなん予想できへんかったわ。ぴょんって跳ねてくるだけや思てたのに」
彼女は唇を尖らせながらスライムの動きを真似して見せる。
「ああ、確かに。スライムがあんな動きをする事自体しらなかったわね。私も少し焦った」
セシルが苦笑まじりにうなずき、
「もっとのんびりした動きだと思っていましたわ。教科書のイラストでは、いつもボテッとしてますもの」
と、ミレーヌもそれに同調する。
「ぼ、僕は……ラグナくんのおかげで助かったけど……あれが自分に向かって飛んでくるのを見た時は、正直、すっごく怖かったよ……」
そう語ったテオは、拳を胸に当てて息をついた。
臆病だったわけではない。
初めて命の危険に晒された恐怖を、正直に吐露したのだ。
「それが一匹や二匹やったらどうにかなったかもしれへんけど、どばーっといっぺんに来られたら、もうパニックなるしかなかったわ」
ルーの言葉に、他の皆が力なくうなずいた。
「ふむ……まぁ、それも含めて経験しておかねばならないことだな。お前たちの学園生活での授業では、確かに色々と学んでいるはずだ。しかし、それも所詮は学園の敷地内での話。本格的な実戦、とくに魔の森のような危険な環境での訓練はしていないからな。だからこそ、今回のような失敗が起きた。足りていなかったのは、経験と、それに基づいた準備の大切さだ」
フィオナの口調が徐々に厳しくなる。軽口は控え、指導者としての言葉が続く。
「ラグナが言っていたように、油断と慢心。これらは冒険者にとって、確実に命を落とす原因となる。今後の冒険において、それは決して忘れるなよ?」
「「はい……!」」
今度は全員がそろって返事をする。その声に先ほどの浮かれた気配はすっかり消え、重みを持った覚悟が宿っていた。
「それと……魔物との戦闘では、相手を侮るのは最悪の選択だ。たとえ相手がスライムだろうと油断は禁物だ。周囲にスライム以外の魔物が潜んでいる可能性もあるんだ。今回はたまたまスライムとしか遭遇しなかったが、次はどうだ? 例えばワイルドボアが、横っ面からいきなり突っ込んでくるなんてことも十分にあり得る。戦場に絶対なんて言葉は存在しない。覚えておけ」
その言葉は、ウィリアムたちの胸の内に刻み込まれるように響いた。
「よし、反省会はこれで終わりにしようか。パーティー名は『暁の七彩』だったな? じゃあ、改めて結成祝いといこうじゃないか!」
ぱんっと手を叩いて立ち上がったフィオナは、笑顔を見せる。
フィオナ流の優しさ。
つまり、いつまでもグチグチと落ち込んでいるなというメッセージ。
だが、
「えっと……フィオナは、まだパーティーに正式に登録されていないんだよね……」
ラグナの一言が、場に小さな静寂を落とす。
「なんだと!? ウィリアム! 今すぐ登録に行くぞ!」
ガタッと椅子を蹴って立ち上がるフィオナ。
ウィリアムの腕をがっしりと掴み、力強く引っ張っていく。
そのあまりの勢いに、ウィリアムは椅子ごと引きずられそうになりながらも、なんとかついていった。
「……」
「フィオナ先生は、相変わらずですねぇ……」
ミレーヌが小さく呟くと、残ったメンバーも苦笑してうなずき合う。
やがて登録を終えて戻ってきたフィオナは、堂々とした態度で告げた。
「登録、完了したぞ!これで文句ないだろう!」
その誇らしげな笑顔の隣で、ウィリアムはややぐったりした表情を浮かべていた。
その後の食事は、にぎやかで楽しいものとなった。各々が今日の出来事を思い出しながら、時に笑い、時に真面目な表情を交えて会話を続けた。
ふと、フィオナが口を開く。
「そういえば、お前たち。いい加減、その先生って呼び方はやめろ。いちいち面倒くさい。フィオナって呼べって言ってるだろう?」
その言葉に、ウィリアムは少し驚いたように目を丸くし、すぐに笑みを浮かべた。
「……わかりました。が、頑張って……直します……」
彼の言葉に、周囲もそれぞれに笑いをこぼしながらうなずいた。
こうして、「暁の七彩」の結成初日
彼らにとっての忘れられない一日は、悔しさと共に胸に深く刻まれたのだった。
今回も読んでいただき本当にありがとうございます。
少しでも気に入って頂きましたらブックマークの登録や☆☆☆☆☆にて高評価して頂けると焚き火の火を見ながら1人嬉し涙を流すかもしれません。




