結成『暁の七彩』
明日も18時に更新予定です。
「コンコン」と控えめなノック音とともに、部屋の扉が開かれた。
「お待たせしました。こちらが本日の報酬になります」
現れたのは、冒険者ギルドの受付嬢、モニカだった。
手にしていた小箱の中には、銀貨9枚と大銅貨3枚が並んでいる。
「スライムの魔石買い取り込みで、1体につき大銅貨1枚。全部で63体分。これが銀貨6枚と大銅貨2枚分に相当します。そして……」
モニカは一呼吸おいて言葉を続けた。
「ギルドからの不手際に対する謝罪金として、銀貨3枚を上乗せさせていただきました。合計で銀貨9枚と大銅貨3枚になります」
「すまんな……いくら大量発生していたとはいえ、スライムは元々討伐金が安い魔物なんだ」
そう補足したのは、イシュバルなのだった。
「……いえ」
報酬を代表して受け取ったウィリアムが、どこか困惑したように返事をした。その様子に、ラグナがふと疑問を口にする。
「ウィリアム、どうかした?」
「いやな……この場合、報酬ってどうやって分配するんだ?他の冒険者たちはどうしてる?」
モニカがすかさず応じた。
「基本的には、報酬を均等に分けているパーティーが多いですね。ただ、パーティーを組んで活動する場合は、一部を共同資金として貯めておくこともあります」
「共同資金?」
「はい。武器や防具のメンテナンス費、消耗品の購入、あるいはパーティーで共有する家の家賃などに充てるためです。特に高品質な装備を使っている人は維持費も高くつきますから、全員で支える体制を作っているんですよ。そういった取り決めをしておかないと、報酬の割り合いで揉めることもありますし」
なるほど、と仲間たちがそれぞれ頷く。
「俺たちは……どうする? 他のパーティーと同じ方式にしてみるか?」
ウィリアムが問いかけると、ラグナが口を開きかける。
「あっ、俺は報酬いらな……」
ところがその言葉は最後まで届かなかった。
「ラグナ様?まさか皆で初めて受けた、記念すべきクエストの報酬を辞退しようだなんて、そんな野暮なことをおっしゃるおつもりではありませんよね?」
ミレーヌの冷静かつ鋭い一言に、「うぐっ」とラグナは口をつぐんでしまった。
そんなやり取りを経て、モニカが続ける。
「では、パーティー名の登録をお願いします。登録手続きが完了すれば、次回以降のクエスト報酬から一定額をパーティー資金として振り分けることができます」
「パーティー名か……何か案はあるか?」
ウィリアムの問いに、仲間たちがそれぞれ考え込む。
「はいはーい!『暁の特級組』なんてどうや?」
一番に手を挙げたのは、ノリのいいルーだった。
「……いや、それはさすがにやりすぎだろう」
シャールが静かに却下する。
「……女神様の使徒親衛隊……」
「……」
「……」
ミレーヌがぼそりと呟いた案は、誰にも拾われず、場に静寂が流れた。
だが、その後の会話で「暁」という言葉は気に入られた様子だった。
「でも暁って言葉、なんかカッコイいな」
「夜明けって意味だよね。ヒノハバラ国を出たばかりの今、ちょうど転機のタイミングって感じがする。僕も好きかな、暁の響き」
ウィリアムとテオが肯定的な意見を述べると、珍しくシャールが呟いた。
「暁の七彩……」
「暁の七彩?暁はわかるけど、七彩ってどういう意味だ?」
ラグナが尋ねると、シャールが淡々と語り始めた。
「俺たちはヒノハバラ魔法学園の特級組で出会った。あのクラスの証は七色の紋章だった。その七彩を意味として使った。……それに、俺たちはもともと立場も出自も違った。バラバラな存在が集まって、あの特級組が出来上がった。それが今の俺たちの原点だ」
「なるほど……」
静かに、けれども確かに、仲間たちは頷く。
「では決定だな。我々のパーティー名は『暁の七彩』とする」
こうして、新たな冒険の始まりにふさわしいパーティー名が決まった。
その後、モニカからパーティー登録についての説明を受け、各自のギルドカードにパーティー名とメンバー情報が記載された。ただし、
「登録には本人の立ち会いが必要になりますので、現在不在のフィオナさんの登録は、また後日ということになります」
こうして、正式に冒険者パーティー『暁の七彩』が誕生した。
リーダーはウィリアム、そしてサブリーダーはセシルに決定した。
「前衛が両方ともリーダー役で大丈夫か?」
とラグナが心配したが……
「うち、そういうの向いてへんし」
「僕も、みんなを引っ張るなんて……無理だよ」
「俺の役目じゃない」
「私は常に行動を共にするわけではありませんから」
それぞれのやらない宣言が飛び出し、結局、最前線の二人に責任が集約される形となった。
そして、問題の報酬分配。
「今回は、一人につき銀貨1枚。残りは、ギルドの食堂で反省会と、初クエスト達成のお祝いを兼ねた食事会に使おうと思うんだけど、どうだ?」
ウィリアムの提案に、満場一致で賛成が得られた。
こうして一行はギルドの食堂へと移動し、八人掛けの大テーブル席に全員で腰を下ろす。
……と、そのときだった。
「もう勘弁してくれぇぇぇーっ!」
「俺が悪かったぁぁああーーっ!」
絶叫とともに、ギルド内に響く怒声。
それは訓練場のほうからだった。職員たちも顔をしかめつつ視線をそちらに送っている。
「先生たちは……一体何を?」
ミレーヌが苦笑しながら呟く。
次の瞬間。
「だから俺は嫌だって言ったのにぃぃぃ!」
大の男が泣きながら訓練場から駆け出してきた。服は乱れ、顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃ。ギルドの扉を開けると、そのまま町の通りへと逃げ出していった。
「今のは……」
「フィオナさんの、元部下の方でしたわよね……?」
食堂にいた仲間たちは顔を見合わせ、無言のまま呆然とするのだった。
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