表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初心者キャンパーの異世界転生 スキル[キャンプ]でなんとか生きていきます。  作者: 奈輝
混沌が広がる世界

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

419/447

結成『暁の七彩』

明日も18時に更新予定です。




「コンコン」と控えめなノック音とともに、部屋の扉が開かれた。


「お待たせしました。こちらが本日の報酬になります」


現れたのは、冒険者ギルドの受付嬢、モニカだった。


手にしていた小箱の中には、銀貨9枚と大銅貨3枚が並んでいる。


「スライムの魔石買い取り込みで、1体につき大銅貨1枚。全部で63体分。これが銀貨6枚と大銅貨2枚分に相当します。そして……」


モニカは一呼吸おいて言葉を続けた。


「ギルドからの不手際に対する謝罪金として、銀貨3枚を上乗せさせていただきました。合計で銀貨9枚と大銅貨3枚になります」


「すまんな……いくら大量発生していたとはいえ、スライムは元々討伐金が安い魔物なんだ」


そう補足したのは、イシュバルなのだった。


「……いえ」


報酬を代表して受け取ったウィリアムが、どこか困惑したように返事をした。その様子に、ラグナがふと疑問を口にする。


「ウィリアム、どうかした?」


「いやな……この場合、報酬ってどうやって分配するんだ?他の冒険者たちはどうしてる?」


モニカがすかさず応じた。


「基本的には、報酬を均等に分けているパーティーが多いですね。ただ、パーティーを組んで活動する場合は、一部を共同資金として貯めておくこともあります」


「共同資金?」


「はい。武器や防具のメンテナンス費、消耗品の購入、あるいはパーティーで共有する家の家賃などに充てるためです。特に高品質な装備を使っている人は維持費も高くつきますから、全員で支える体制を作っているんですよ。そういった取り決めをしておかないと、報酬の割り合いで揉めることもありますし」


なるほど、と仲間たちがそれぞれ頷く。


「俺たちは……どうする? 他のパーティーと同じ方式にしてみるか?」


ウィリアムが問いかけると、ラグナが口を開きかける。


「あっ、俺は報酬いらな……」


ところがその言葉は最後まで届かなかった。


「ラグナ様?まさか皆で初めて受けた、記念すべきクエストの報酬を辞退しようだなんて、そんな野暮なことをおっしゃるおつもりではありませんよね?」


ミレーヌの冷静かつ鋭い一言に、「うぐっ」とラグナは口をつぐんでしまった。


そんなやり取りを経て、モニカが続ける。


「では、パーティー名の登録をお願いします。登録手続きが完了すれば、次回以降のクエスト報酬から一定額をパーティー資金として振り分けることができます」


「パーティー名か……何か案はあるか?」


ウィリアムの問いに、仲間たちがそれぞれ考え込む。


「はいはーい!『暁の特級組』なんてどうや?」


一番に手を挙げたのは、ノリのいいルーだった。


「……いや、それはさすがにやりすぎだろう」


シャールが静かに却下する。


「……女神様の使徒親衛隊……」


「……」


「……」


ミレーヌがぼそりと呟いた案は、誰にも拾われず、場に静寂が流れた。


だが、その後の会話で「暁」という言葉は気に入られた様子だった。


「でも暁って言葉、なんかカッコイいな」


「夜明けって意味だよね。ヒノハバラ国を出たばかりの今、ちょうど転機のタイミングって感じがする。僕も好きかな、暁の響き」


ウィリアムとテオが肯定的な意見を述べると、珍しくシャールが呟いた。


「暁の七彩……」


「暁の七彩?暁はわかるけど、七彩ってどういう意味だ?」


ラグナが尋ねると、シャールが淡々と語り始めた。


「俺たちはヒノハバラ魔法学園の特級組で出会った。あのクラスの証は七色の紋章だった。その七彩を意味として使った。……それに、俺たちはもともと立場も出自も違った。バラバラな存在が集まって、あの特級組が出来上がった。それが今の俺たちの原点だ」


「なるほど……」


静かに、けれども確かに、仲間たちは頷く。


「では決定だな。我々のパーティー名は『暁の七彩あかつきのしちさい』とする」


こうして、新たな冒険の始まりにふさわしいパーティー名が決まった。


その後、モニカからパーティー登録についての説明を受け、各自のギルドカードにパーティー名とメンバー情報が記載された。ただし、


「登録には本人の立ち会いが必要になりますので、現在不在のフィオナさんの登録は、また後日ということになります」


こうして、正式に冒険者パーティー『暁の七彩』が誕生した。


リーダーはウィリアム、そしてサブリーダーはセシルに決定した。


「前衛が両方ともリーダー役で大丈夫か?」


とラグナが心配したが……


「うち、そういうの向いてへんし」


「僕も、みんなを引っ張るなんて……無理だよ」


「俺の役目じゃない」


「私は常に行動を共にするわけではありませんから」


それぞれのやらない宣言が飛び出し、結局、最前線の二人に責任が集約される形となった。


そして、問題の報酬分配。


「今回は、一人につき銀貨1枚。残りは、ギルドの食堂で反省会と、初クエスト達成のお祝いを兼ねた食事会に使おうと思うんだけど、どうだ?」


ウィリアムの提案に、満場一致で賛成が得られた。


こうして一行はギルドの食堂へと移動し、八人掛けの大テーブル席に全員で腰を下ろす。


……と、そのときだった。


「もう勘弁してくれぇぇぇーっ!」


「俺が悪かったぁぁああーーっ!」


絶叫とともに、ギルド内に響く怒声。


それは訓練場のほうからだった。職員たちも顔をしかめつつ視線をそちらに送っている。


「先生たちは……一体何を?」


ミレーヌが苦笑しながら呟く。


次の瞬間。


「だから俺は嫌だって言ったのにぃぃぃ!」


大の男が泣きながら訓練場から駆け出してきた。服は乱れ、顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃ。ギルドの扉を開けると、そのまま町の通りへと逃げ出していった。


「今のは……」


「フィオナさんの、元部下の方でしたわよね……?」


食堂にいた仲間たちは顔を見合わせ、無言のまま呆然とするのだった。



今回も読んでいただき本当にありがとうございます。

少しでも気に入って頂きましたらブックマークの登録や☆☆☆☆☆にて高評価して頂けると焚き火の火を見ながら1人嬉し涙を流すかもしれません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ