残念ながら自分で蒔いた種なんだよ。
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次の日の朝。
ラグナの一日は、ベッドにいつの間にか潜り込み、がっつりとラグナをホールドしていたリオを引き剥がすところから始まった。
『私のことは遊びだったのね……本当にひどい男なんだから』
などと、どこかの劇場女優のようなセリフを吐きながら名残惜しそうに手を伸ばしてくるリオを振り切り、ラグナは集合場所である冒険者ギルドへと向かう。
昨日よりも少しだけ魔力が回復していたリオを確認できたことで、ラグナの心は少しだけ軽くなっていた。
もちろんまだ完全復調というわけではないけれど、少なくともあの危うい状態ではない。
無理をしないようにと、シーカリオンの女王であるミオンに「実はリオさん、最近ちょっと無理してます」とチクっておいた効果もあった。
ミオンは日頃リオを慕っている人物だ。
案の定、彼女に涙目で「お願いですから、ちゃんと休んでください」と懇願されてしまっては、リオも何も言えなくなっていた。
そしてミオン自身も深く反省していた。
この国が建国されたその時から、代々ずっと陰で支えてくれていたリオという存在に知らず知らずのうちに甘えていたのだと。
気づけばこの国は、独り立ちをせず、常にリオの知恵や判断に頼り切っていた。
それが当たり前だと思っていた。
でもそれでは駄目だと、ミオンは静かにそして力強く決意を口にした。
「リオ様に安心して見守ってもらえるような国に、私は必ず変えてみせます」
その言葉に、リオがどこか誇らしげな表情を浮かべていたのが印象的だった。
そんなことを思い返しながら冒険者ギルドの扉を開けたラグナは、思わず足を止める。
「姉御! いつ鍛えてくれるんですか!」
「俺たちは昨日ずっと待ってたんすよ!」
と、若い冒険者たちに囲まれ、タジタジになっているフィオナの姿がそこにあった。
「な、なんのことだ!?」
完全に心当たりがないといった表情で目を泳がせるフィオナ。
どうやら、酔った勢いで交わした約束を一切覚えていないらしい。
そんな彼女の様子を、少し距離を置いたところから同級生たちが微笑ましそうに見守っている。
「俺たちを鍛えてくれるって、確かに言ったじゃないですか!」
「姉御に見合う男になりたいんすよ!」
熱意をぶつけてくる冒険者たちにフィオナは完全に押され気味。
目線を泳がせていた彼女は、ついにラグナを見つけて走り寄ってきた。
「ちょ、ちょっと待ってろ!」
逃げるようにラグナの元へと駆け寄ってきたフィオナ。
ラグナは咄嗟にギルドの外へ逃げようかと考えたが、
『逃げたら殺す』
そう目で語ってくるフィオナの圧に白旗を上げるしかなかった。
そして、開口一番。
「遅い!」
「いやいや、約束の時間にはまだなってないでしょ?これでも早めに来たつもりなんだけど……」
「私が困ってるんだから、もっと早く来い!」
ラグナは思わず頭を抱える。相変わらずの暴君っぷりだ。
「で……あえて聞くけど、あれは何の騒ぎ?」
「あれか……私があいつらを鍛えるって約束したって言うんだ。私には何が何だか……」
「はぁぁ……」
深いため息をついたラグナは、ひとつ決意をする。
ギルド併設の食堂にある椅子の上に立ち、堂々と宣言を放った。
「お前らは爆炎の魔女であるこの私が直々に鍛えてやる!強くなりたい奴は私についてこい!」
場内が一瞬静まり返った後、冒険者たちの雄たけびが響く。
「うぉぉぉぉぉ!!」
完全に流れを作ったラグナは、キョトンとした表情のフィオナに向けてトドメを刺す。
「こうやってみんなに対して宣言したのは先生ですよ? みんなも見たよね?」
フィオナが恐る恐るウィリアムの方を見ると、彼は真面目な表情で頷いた。
「確かに先生は椅子の上に立って、そう宣言されていました。ここにいる全員がその姿を見ています」
ウィリアムの言葉に、周囲の冒険者たちも「うんうん」と頷く。
「う、嘘だ……」
顔面蒼白のフィオナに、ラグナは一言。
「お酒なんて飲むからいけないんだよ」
「そ、それは……」
「飲みたい雰囲気だったのは理解できるけどさぁ。今回は、何もフォローできないよ……」
「ぐっ……わかったよ! でもずっとじゃないからな! 私が暇な時だけだ!」
「やったぁぁぁ! それじゃあ、今から訓練場行きましょうぜ!」
大喜びの冒険者たちはフィオナを強引に引っ張っていく。
「俺は参加しないって! マジで参加しないから!」
と叫んでいた冒険者もいたが、
「照れてんじゃねぇよ!」
と背中を押され、そのまま強制参加の流れに飲み込まれていった。
「ふぅ……朝から騒がしかったね。みんな、おはよう」
ラグナがウィリアムたちと合流すると、テオが笑いながら答える。
「おはようラグナ! フィオナ先生、大変だね」
「それは仕方ないよ。テオ、心配なら訓練所に行ってもいいよ?」
「あはは。それは遠慮しておくよ」
「だよね。自分から蒔いた種だしね」
軽口を交わしていると、セシルが一歩前に出てきた。
そして深く頭を下げると、真剣な表情で言った。
「ラグナ、ミレーヌ。私の愚兄達が、本当に申し訳ないことをした!」
空気がピリリと引き締まる。
彼女の言葉に、場の空気が次第に静まり始めていった。
今回も読んでいただき本当にありがとうございます。
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