心の底から、ありがとう
ゲリラ豪雨と雷の連発にビビりながら執筆。
停電したらすべてが終わる!
ラグナは、無駄だと制止されてもなお、今にも壊れそうな状態のリオの肉体を包むように、静かに魔力を流し続けていた。
「そんなに心配しなくても、少し休めば元に戻るから大丈夫だよ。だから、その気持ちだけで……十分だよ」
それでも、ラグナは止めようとしない。
何を言っても耳を貸さないラグナの姿を見ながら、リオはふと考える。
誰かにここまで心配されたのって、いったいいつ以来だろう?
しかも、自分より遥かに年下の少年に。
「……もしかして、これなら!」
思いついたようにラグナが収納スキルから小さな小瓶を取り出す。
「それは……?」
「精霊樹の雫だよ」
「精霊樹の雫ですって!? そこまで精霊樹の力が回復していたの!?」
あまりにも驚いた声に、ラグナは逆に驚かされてしまう。
「魔力を上げたお礼に、精霊樹がくれたんだ」
「くれたって……それ、私ですら見たことのない逸品だよ……。私たちが生きていた頃には、もう精霊樹はほとんど力を失っていたんだから。そうか……そこまで回復できたんだね」
「リオ。これを君に使ったら……どうなる?」
「どうなるって……そんな、滅多に手に入らない貴重品じゃないか! 取っておきなよ。それ、手足が欠損してても治せるレベルの代物だよ!?」
「そう言われても……まだ持ってるんだよ、いくつか」
「えぇ……精霊樹が雫を作るには、とてつもない魔力が必要なんだよ? それを……」
ラグナが精霊樹に好かれていて、しょっちゅう魔力を分け与えていること。
そして、一度だけ無理やり大量の精霊樹の雫を口に流し込まれたことも、ラグナはぽつりぽつりと話し始めた。
「まったく……なんでそんな大事なことを黙ってるのさ。精霊樹の雫の過剰摂取は禁忌だって聞いた事ない?昔話で禁を破れば、神から処罰されるって……」
「そうらしいね~。あははは」
とぼけて笑うラグナに、リオはあきれ果てたようにため息を吐く。
「つまり……秩序の女神、エミア様に会ったってことだよね? よく無事でいられたね」
「まぁ……俺の場合、精霊樹が勝手に暴走したせいだったからね。それより、ルテリオ様の方が大変だったよ。精霊樹の世話係だったらしいし」
「そりゃまぁ、自業自得だし、同情はしないけどさぁ」
「それで……これをリオに使ったら、どうなると思う?」
ラグナの問いに、リオは苦笑しながらこう答えた。
「さぁ?」
当時から伝説級のアイテムとされていた精霊樹の雫。
リオですら、見たことも使ったこともない代物だった。
「さぁって……それで、どうするんだ?」
「うーん……どうしよう。中身の成分も気になるし、できれば分析してみたいんだけどなぁ」
「じゃあ、この瓶はここに置いていくよ。でも……今のままの状態じゃ、絶対によくないよね」
ラグナは変わらず魔力を流し続けているが、それでもリオの身体には、目に見える変化はなかった。
「だから、大丈夫だってば。しばらく休めば回復するんだって。そんなに心配しなくても、平気だよ~!」
「……ねぇ、リオ。本当に、休めるの? この国の運営に、商業ギルド、冒険者ギルド……それに、他にも色々と抱えてるよね? それらを放置して、君は本当に休めるの?」
「それは……」
言葉に詰まったリオを見ながら、ラグナは深く息を吐く。
久しぶりに見たリオの本体は、あまりにやつれていた。
スリムだった身体は痩せ細り、目の下には隈が浮かび、頬はげっそりとこけている。
どうして、もっと早く会いに来なかったんだろう。
ゴーレム越しの会話に満足して、直接の様子を見ようとしてこなかった自分を、ラグナは強く悔いた。
そして、彼は静かに、真っ直ぐにリオを想いながら、自身の魔力を限界まで高めていく。
「ラ、ラグナ? 嬉しいけど、僕にそれ以上の魔力を流したって……」
言いかけた言葉が止まった。
「……君は……」
リオの目に映るラグナは、明らかにいつもとは違っていた。
まるで勇者ヒノが本気で魔力を溜めた時のような魔力の高まり。
彼の髪は次第に金と銀、二色に染まり、その全身から放たれる魔力は、かすかに青白く輝いている。
「あったかい……」
まるで温泉にでも浸かっているかのような心地よさが、リオの全身を包み込んでいく。
「ん……あぁ……」
自然と漏れる吐息が、静かな部屋に響き渡る。
あまりに心地よく、優しく、身体がぽかぽかと温まっていく感覚。
この感じ……いつぶりだっただろうか。
「リオ? 大丈夫?」
装置の中のリオを覗き込むラグナの髪色は、いつの間にか元に戻っていた。
だが、リオは驚きと戸惑いに満ちていた。
「だ……大丈夫、だってば……」
けれど、そう言いながらも、リオにははっきりとわかっていた。
何百年と共にしてきた、身体の痛みと苦しみ。
その絶え間ない苦痛が……今、確かに、ほんの少しだけ和らいでいるのを。
「リオ……? 何か、変化があったの?」
不安げなラグナの問いかけに、返答代わりにそっと後ろから腕が回された。
「……ありがとう」
リオはゴーレムボディを操って、ラグナをそっと抱きしめる。
何百年も続いてきた、生き地獄のような苦しみ。
それでも笑顔を忘れず、この世界を支えてきた。
……でも今。
ラグナの温かい魔力が、自分の身体の奥深くにまで届いているのがわかる。
「あぁ……まさか、こんなことが……」
装置の中の液体にすら、ラグナの魔力がゆっくりと、深く染み渡っていた。
魔力の流れは既に止まっているというのに。
それでもなお、ほんの微かに、身体の奥で何かが変わっていく。
リオは、確かにそれを感じていたのだった。
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