酔った勢いって大事だよね
冒険者たちの興奮は止まらなかった。
「よっしゃー!今日は朝まで飲むぞ!」
「ヴァーマス!奢ってくれるなんて優しいな!」
ヴァーマスは照れくさそうに頭をかきながら、
「まぁ……今日はお前らを巻き込んじまったからな!みんな楽しめよ!」
と観客席を見渡しながら叫んだ。
冒険者たちは歓声を上げ、ギルドの食堂へと一斉に駆け出す。
ラグナたちもその流れに乗り、一同は食堂へ向かった。
食堂はすでに準備万端で、テーブルには豪華な料理が所狭しと並べられていた。
香ばしい肉の香りやスパイシーな料理の匂いが鼻腔をくすぐる。
「わぁ!すごく豪華!」
テオが目を輝かせながら料理を見渡した。
「こんな量……いつから準備してたんだ?」
ウィリアムが呆れたように呟く。
「ヴァーマスの性格を考えたらこうなるだろうからな。模擬戦闘が決まった時点で食堂の連中は動き出していたぞ」
「もしもヴァーマスのおっちゃんが言い出してなかったら、この費用どないしてたん?」
「そん時はそん時だ。今はダンジョンのおかげでギルドも潤っている。日頃の慰労を兼ねてって奴だ」
イシュバルはヴァーマスがそう言い出したとしても、全額支払わせるつもりはなかった。
彼がどれだけ今まで腐らずに真面目にギルドに貢献してきたか、よく理解しているからだ。
ギルドの食堂は、まさに熱狂の坩堝と化していた。
先ほどまでの模擬戦闘の興奮は冷めやらず、あるいはその騒ぎを聞きつけて駆けつけた新たな顔ぶれも加わり、テーブルはどこも満席だった。
各テーブルには酒や子供たち用の果実水が並んでいる。
イシュバルがパンパンと手を叩くと、騒いでいた冒険者たちが大人しくなった。
「まずはヴァーマス、ラグナ。今日は素晴らしい試合を見せてもらった。両名に拍手を!」
冒険者たちが一斉に拍手を送る。
「さて……本来はこんな予定じゃなかったんだがな。最初から見学していた奴はラグナだけじゃなく、そこにいる子供たちの実力も理解しているだろう? 本来、新たに冒険者登録した新人はFランクからスタートがルールだ。でも、何事も例外はある。俺よりも上のお方から、そいつらに相応しいランクで登録しろとお達しがあったんだ」
ラグナたちの実力を見ていなかった一部の冒険者からはブーイングが飛ぶが……
「俺だって疑問を感じたさ。冒険者とは実力主義。実力のないやつをランクアップさせるつもりなんて、上からの命令でも聞く気はねぇ! でもな、俺だって雇われだ。一応、実力をこの目で確認する必要があったから訓練場に向かっていたんだ。まぁ、まさかこんな騒ぎになるとは思わなかったけどな」
イシュバルは苦笑いしながらもこう宣言した。
「ウィリアム、シャール、テオ、ルー、セシル、ミレーヌはDランクスタート。フィオナ、ラグナはCランクスタートだ!文句があるヤツは俺に言え!模擬戦闘でも何でも相手になってやる!」
「うぉぉぉぉぉぉー!!」
彼らの実力を最初から見ていた冒険者たちは、ラグナたちの実力を認めて雄たけびをあげる。
若手の冒険者や訓練場の様子を見ていなかった一部の冒険者は面白くなさそうな表情だが、イシュバルやヴァーマスが認めるならと渋々納得する。
「それじゃあグラスを持て!新たな仲間に乾杯‼」
「「「「「乾杯!!」」」」」
こうして宴会が始まった。
ラグナたちはあっという間に冒険者たちに囲まれた。
特にフィオナは大人気だった。
「爆炎の姉御!今度俺たちを鍛えて下さい!」
「あっ!ズルいぞ!姉御!俺たちもその時は是非!」
姉御コールが止まらない。
その様子を見てイアンがふふっと笑った。
「あいつは昔から変わらんな。周囲から自然と慕われていく。あれは一種の才能だな」
いつの間にか果実水ではなく酒を手にしていたフィオナが椅子の上に立ち、
「お前らは爆炎の魔女であるこの私が直々に鍛えてやる!強くなりたい奴は私についてこい!」
と大声で宣言した。
その宣言に冒険者たちは雄たけびをあげる。
その中にはちゃっかりとヴァーマスも含まれていた。
「「うおおおお!!!!」」
「姉御ぉぉぉ!!ついていくぜぇぇぇ!!」
「爆炎の魔女の教えを乞えるなんてチャンスじゃねぇか!!」
「姉御!絶対に振り向かせて見せるからな!!」
「いや俺だ!お前らには負けん!」
冒険者たちがフィオナを囲みながら騒いでいた。
「……学園長。あれって絶対に酔っぱらっていますよね?」
ラグナが呆れた視線をイアンに向けると、
「酔っぱらってはいるな。でも宣言しちまったんだからな。今更逃げられんだろ?」
と笑いながら果実水を口に運んだのだった。
今回も読んでいただき本当にありがとうございます。
少しでも気に入って頂きましたらブックマークの登録や☆☆☆☆☆にて高評価して頂けると焚き火の火を見ながら1人嬉し涙を流すかもしれません。