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模擬戦闘、ごり押しを添えて。

詠唱もなくヴァーマスに向かって突如発射されたウォーターボール。


「くっ!?」


切りかかろうとした瞬間に現れたウォーターボールに体勢を崩されたヴァーマスだが、そこは熟練の冒険者。


ヴァーマスは体勢を崩したままウォーターボールを切り裂く。


切り裂いたことで観客のボルテージが一段と白熱する。


ヴァーマスが切り裂いた勢いのまま再び突撃しようとした所で、容赦無くラグナからのウォーターボールが次々と連射される。


「ぐっ!」


ウォーターボールは連射速度を上げながら次々と襲いかかる。


最初は一発ずつだったものが二発、三発と増え、さらに四発五発と増えていく。


ヴァーマスは必死にバックラーで防ぎながら切り裂いていくが一向に止まる気配がない。


それどころか連射速度はどんどん上がっていき、まるでガトリング砲の様にズドドドドと音を立ててヴァーマスに襲い掛かる。


「なっ……!」


ヴァーマスの顔が歪む。


その姿はまさに怒涛の攻撃に耐える様相で、彼の額には汗が滲んでいた。


「あいつ……なんだよ、あの連射速度は……!」


観客席からどよめきが走る。


特にラグナに賭けた者たちは熱狂的に声を上げた。


「やれやれ!ヴァーマスを圧倒してるぞ!」


「あのガキ……本当にあの姿通りの人間か!?」


ミレーヌはその光景を冷静に見つめながらも、口元に微かな笑みを浮かべていた。


一方で、ウィリアムたちは固唾を飲んで戦いを見守っている。


「更に魔力のコントロールが上手くなってるな……」


ウィリアムが呆然としながらそう呟く。


「ラグナの実戦ってどんなに厳しい戦いをしてきたのよ……」


セシルも目を見開きながら同意する。


フィオナは腕を組みながら、静かにラグナの動きを見つめていた。


その表情には微かな誇らしさと、同時に僅かに高揚していた。


「くそっ……こんなはずじゃ……」


ヴァーマスは歯を食いしばりながら攻撃をしのぐ。


しかし次々と放たれるウォーターボールの連射は止まる気配がない。


ヴァーマスの疑似魔法剣で切り裂くペースも限界を迎えようとしていた。


模擬戦闘によってだいぶ威力が軽減しているとはいえ、こうもダメージを負うと身体中が痛みで悲鳴をあげている。


観客たちの興奮はピークに達し、もはや悲鳴すらも聞こえていた。


「よっしゃあ!あのガキに賭けて正解だったぜ!」


「ヴァーマス!耐えろ!耐えてくれ!」


「俺の生活費がぁぁぁぁ!」


観客席は怒号と歓声が入り混じり、まるで嵐のような騒がしさだった。


そしてついに──


「……これで終わり」


ラグナが小さく呟くと同時に、最後の一発がヴァーマスのバックラーを弾き飛ばす。


「ぐあっ……!」


ヴァーマスは衝撃で地面に叩きつけられ、そのまま倒れ込む。


観客席からは一瞬の静寂が訪れ、その後すぐに大歓声が湧き上がった。


「勝者!ラグナ!!」


職員の高らかな宣言に続き、「うおおおおおお!!」という叫び声が闘技場全体を揺るがした。


ミレーヌはその瞬間、うっとりとした表情をしていた。


『あぁ、ラグナくん。一段とカッコよくなって……』


「よしっ!」


フィオナが腕を組んだまま満足気に頷く。


ウィリアムたちは呆然としながらも、徐々にその勝利の実感が湧いてきていた。


「……マジで魔法のお化けやんか……」


ルーは口を半開きにしたまま呟いた。


「ふん」


シャールは内心目指すべき目標だったラグナが更に成長していたので面白くはなかった。


ラグナは倒れたヴァーマスに手を差し伸べると、静かに声をかけた。


「大丈夫ですか?」


ヴァーマスはその手を見つめると、ゆっくりと握り返し、立ち上がった。


「……見事だった。まさか、こんなに強いとは思わなかった。俺もまだまだだな」


ヴァーマスは苦笑しながら頭を振った。


「俺の完敗だ。彼女の事は諦める」


ヴァーマスの潔い言葉に、一部の観客たちが拍手喝采を送った。


「おおー!見事な負けっぷりだ!」


「ヴァーマスも立派だぞ!」


ラグナはヴァーマスから手を離すと、苦笑いしていた。


それは観客席の方からは


「俺の生活費がぁぁ」


「魔道具貯金だったのにぃぃ」


と悲痛な叫びが上がっていたから。


「そんなにショックなら賭けなんてしなきゃいいのに……」


ラグナの呟きにヴァーマスはため息を吐くと、


「まぁな……冒険者なんてそんなもんだ」


観客席の方を軽く振り返ると、


「みんな、すまなかった!今日は俺のおごりだ!」


ヴァーマスがそう叫ぶと先ほどまで凹んでいた冒険者達も含めて歓声が上がる。


「おおお!!ヴァーマス!男前だぜ!!」


「さすがヴァーマス兄貴!」


「今日は酒が美味いぞぉぉぉ!!なんたって他人の金だからなぁぁぁ!」


ヴァーマスの宣言に喜びの声が広がる中、ラグナは苦笑いしながらも彼らの陽気さに少しだけ微笑んだ。


「お前ら、少しは俺の財布を心配しろよな!」


テンションが上がりまくった冒険者にそう釘を刺したヴァーマスだったが、掛け金を受け取ったミレーヌが更に宣言する。


「みなさん、心配いりませんわ!今日は沢山飲み食いして騒ぎましょう!資金は私も提供しますわ!」


と銀貨や銅貨が大量に入っている袋を掲げると更に雄たけびや悲鳴があがる。


「食って飲んで騒ぐぞーーーー!」


「今日は宴だぁぁぁ!」


「俺の金だったのにぃぃぃ!」


「なんで賭けなんてしちまったんだぁぁぁぁ!」


ラグナがふとフィオナに視線を送ると、フィオナはニヤリと笑った。


「目立たないようにするんじゃなかったのか?」


その言葉にラグナは肩をすくめ、小さく微笑んだ。


「君を守るために頑張っただけだよ」


ラグナのその返しに顔を真っ赤にして黙り込むフィオナ。


そのやり取りを横で聞いていたミレーヌは少し不満げに唇を尖らせていたが、すぐに平静を取り戻して優雅に微笑んだ。


「さぁ、みなさん!ギルドの食堂へ移動しましょう!今日はお祭りですわ!」


ミレーヌが高らかに宣言すると、観客席から歓声が爆発した。



今回も読んでいただき本当にありがとうございます。

少しでも気に入って頂きましたらブックマークの登録や☆☆☆☆☆にて高評価して頂けると焚き火の火を見ながら1人嬉し涙を流すかもしれません。

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