模擬戦闘開始。フィオナを賭けて。
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訓練場の地下闘技場。
中央に立つヴァーマスとラグナを囲むように、数十人の冒険者たちが観客席から熱狂的に声を上げていた。
ミレーヌからの金貨による心理的ビンタによっていつも以上に加熱していた。
「さあ、始まるぞ!」
「ヴァーマス!あのガキをぶっ飛ばせ!」
「ボウズー!痛い思いをするまえに降参するんだぞー!」
賭けに金貨1枚を投じたミレーヌは、静かに座って見守っていたが、その雰囲気に同級生達はのまれたまま。
更にフィオナが私を賭けて戦うのかと呟いたことで事態は更に悪化していた。
あのイアンですら言葉を発する空気ではないと察知して大人しくしているほどだ。
ヴァーマスは右腕に装着した銃剣型魔道具を構え、左手にはバックラーを装備している。
対するラグナは……
「……おい、あのガキ、武器を何も持ってないぞ!?」
「なに!?」
「素手で戦うつもりか!?」
「まじかよ!?あのガキに銀貨賭けたってのによ!ふざけんな!」
ラグナは確かに何も持っていなかった。手ぶらだ。観客席からどよめきが起こる。無謀だという声が飛び交う。
「ガキが……舐めやがって……」
ヴァーマスは眉をひそめ、険しい表情でラグナを睨みつけた。右手に装着した銃剣型魔道具を強く握りしめながら、唾を吐き捨てる。
「おいおい、坊主。これは遊びじゃねぇんだぞ?素手で戦おうってのか? ふざけんじゃねぇ!」
周囲から「そうだ!武器を持て!」と声が上がる。
しかしラグナは動じず、軽く肩をすくめてみせた。
「僕はこれで大丈夫です」
「なっ……!」
その言葉にヴァーマスの額に青筋が浮かんだ。観客席からは嘲笑と野次が飛び交う。
「ガキが調子こいてんじゃねぇぞ!」
「ヴァーマス!そんな奴に手加減すんな!」
「ボコボコにしてやれ!」
その声を背に受けながらも、ヴァーマスの胸中は油断していない。
彼は確かにBランクの実力者であり、若い冒険者たちから尊敬を集めていた。
危なっかしい若手の教育もギルドに指図されるまでもなく自ら率先していた。
困ったときの頼れる兄貴という評判は伊達ではなかった。
しかし目の前の少年が考えなしで素手で挑むなどとも思えないが……
真剣にフィオナを自分の嫁にと思っている自分に対して侮辱としか思えなかった。
「てめぇ……後悔すんじゃねぇぞ?」
ヴァーマスが低く唸るように言った。ラグナは静かにその視線を受け止める。
「それでは模擬戦闘を開始します!」
司会役を仰せつかったギルドの職員が高らかに宣言する。
「始め!!」
合図と共にヴァーマスが動いた。
彼は銃剣型魔道具を構えたまま、バックラーで素早く前方をガード。
「喰らえっ!」
叫びとともに銃剣から魔力の弾丸が連射される。
弾丸は真っすぐラグナへと飛んでいくが……
ラグナはそれを避ける素振りすら見せない。
銃剣から発射された魔力の弾丸はラグナに向かって一直線に進む。
魔力弾が着弾する直前、ラグナの周囲に微かな光が揺らめき、魔力弾はその光に着弾すると貫通することなくそのまま霧散していく。
「な……!?」
ヴァーマスの目が見開かれる。銃剣型魔道具から放たれた魔力弾は、確かに少年を捉えたはずだった。
にも関わらず、少年は一歩も動くことなく無傷で立っていた。
「魔力障壁……だと?」
観客席からざわめきが広がる。
エーミルダの人間がここまで強力な魔力障壁を張れるとは思ってもいなかったから。
「まだだ……!」
ヴァーマスは舌打ちし、さらに銃剣を連射。
次々と放たれる魔力弾はラグナを取り囲むように飛ぶ。
しかしラグナには一切通じない。
「チッ」
これ以上は魔力の無駄だと判断したヴァーマスは魔力弾の発射を止め、魔道具である銃剣のスイッチを切り替える。
すると剣先に魔力が流れ、炎を纏った剣が完成する。
「ヴァーマスの魔道具の十八番、疑似魔法剣だ!さすがにこれは防げねぇだろ!」
観客席から歓声が上がる。
ヴァーマスの銃剣型魔道具が炎を纏った様を見て、賭けに参加した冒険者たちが色めき立つ。
特にヴァーマスに賭けた連中は拳を振り上げて雄叫びを上げた。
「ヴァーマス!そのガキに一発見舞ってやれ!」
「ボコボコにしちまえ!」
「おいおい!あのガキ、戦う気があるのか?!頭おかしいんじゃねぇのか!」
観客の興奮が最高潮に達する中、ヴァーマスは疑似魔法剣を構えるとラグナへと突撃する。
その一歩を踏み出した瞬間、ラグナが動き出すのだった。
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