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求婚は突然に

一週間連続更新達成。




突然の事態に、いつも冷静なフィオナが珍しく目を泳がせ、アワアワと戸惑っていた。


「な、なにこれ……? なんやこの状況……?」


「さあ……分かるとすれば、フィオナさんがモテモテってことですわね」


ルーが眉をひそめ、ミレーヌが小さく肩をすくめながらため息をつく。


そんな彼女たちをよそに、冒険者たちの熱気は最高潮に達していた。


その中で、中年の冒険者ヴァーマスが他の若手冒険者たちを押しのけ、堂々とフィオナのもとへと歩み寄る。


「な、なんだ、お前は……」


突然の接近に警戒するフィオナだったが、次の瞬間、誰もが予想だにしなかった事態が訪れる。


「お、俺と……結婚してくれ! お前の圧倒的なまでの強さとその美しさに、惚れた!」


その瞬間、訓練場の空気が一気に静まり返る。


フィオナの赤い瞳が大きく見開かれ、口が半開きになる。


告白どころか、求婚された経験など一度もない彼女は、まるで雷に打たれたように固まった。


「ふぇ……?」


間の抜けた声が彼女の口から漏れ、いつもの勝気な態度はどこへやら。顔はみるみる真っ赤になり、視線は定まらず、耳の先まで紅潮していた。


その反応に冒険者たちも、同級生たちも凍り付く。


ヴァーマスは真剣そのもので、片膝をつき、フィオナの手を両手でしっかりと握りしめる。


「俺はBランクの冒険者だ。だが、必ずAランクまで登り詰める。それまでにお前と釣り合う男になる……だから、結婚してくれ!」


どこか感動的ですらあるセリフだったが、場にはあまりに似つかわしくない。


フィオナの思考は完全に停止していた。魔力の安定制御や魔法の進化について悩んでいたときよりも、ずっと深刻なパニックである。


視線を彷徨わせた末に、彼女の目はラグナを捉えた。


その瞬間、思考が一気に回り始める。


そして彼女はヴァーマスの手をパッと振り払うと、ためらいなくラグナの腕へと身を寄せ、ぎゅっと抱き着いた。


「わ、私は……こいつと結婚する予定なんだっ! だから……お前の気持ちには応えられない!」


「……え?」


「えええええええええええぇぇぇっ!?」


絶叫が訓練場中に響き渡った。


真っ先に声を上げたのはセシルだった。


ウィリアムは口を開いたままフリーズし、ルーは「まだその設定生きてるん……?」と呆れ顔。


シャールとテオは、となりにいたミレーヌの顔をチラリと見てから、小刻みに震え始める。


一方、そのミレーヌはというと……いつも通りの冷静な微笑を浮かべながらも、瞳孔だけがぞっとするほど開いていた。


「ちょ、ちょっと待って、フィオナ先生!? 何言ってるのよ、それ!?」


セシルが駆け寄り、フィオナの肩を掴んで力いっぱい揺さぶる。


「お、お前ら……知らなかったのか?」


ラグナにしがみついたまま、フィオナが赤面しつつ呟く。


「知るわけないでしょ! ラグナ、黙ってたの!?」


「え、ええと……」


ラグナは困惑していた。腕に抱きつくフィオナの体温と柔らかな感触が、理性を揺るがしてくる。


「……フィオナが今の姿になった時、確かにビリーさんとそういう話にはなったけど……」


あの当時は確かにいずれフィオナとは結婚するのかなぁと考えた時もあった。


それだけ彼女が大切だとは感じていたから。


「ルーさん、テオくん……説明を」


いつの間にかミレーヌが、微笑みを保ちながら双子の前に立っていた。


「ひ、ひぃぃぃっ!?」


すさまじいプレッシャーに双子はお互いを抱き合い、体を震わせる。


「説明を……」


地の底から響くようなミレーヌの低い声。もう逃げ場はない。


爆弾をぶち込んだ張本人であるフィオナはというと、羞恥心が限界を突破したのか、ラグナの腕に顔を埋めてグリグリとすり寄っていた。


その時、場を再びかき乱すように声が飛ぶ。


「け、けけけ……決闘だッ! 俺がそこの小僧に勝ったら、結婚してもらう!」


先ほど振られたはずのヴァーマスが、いきなり立ち上がって叫ぶ。


ラグナを指さし、挑戦状を叩きつけるような勢いだった。


しかしラグナは、ただ一言だけで空気を変える。


「フィオナは商品じゃない。この子を、もの扱いするような真似は大嫌いだよ。誰と結婚するかなんて、彼女が決めることだ」


その言葉に、訓練場の空気がピリッと締まる。


ラグナの目が鋭くなり、一瞬で周囲の温度が下がったような錯覚さえ覚える。思わずヴァーマスは身を引く。


「く、くそっ……ならば模擬戦闘で勝負だ!」


「模擬戦闘? それ、なに?」


ラグナの首が傾く。事情を察したイシュバルが説明を始めた。


「訓練場には、模擬戦闘と呼ばれる対人訓練専用のエリアがあるんだ。専用の武器と魔法で、安全に戦える仕組みだ。一定以上の威力は自動で制限されるし、致死ダメージに達したら試合終了だ。魔道具の使用も一部可能になってる」


ラグナはその説明を聞きながら、ふと脳裏に浮かぶ声にイラっとする。


『アタイの努力の結晶の一部さ☆ ヒノッちが語ってたゲームってヤツの機能を、なんとか再現してみたのよ!』


忙しいと言っていたくせに、しっかりこの茶番劇をどこかで眺めていたらしい。


「まったく……あの人は……」


誰にも聞こえないように小さく吐き捨てたラグナの目に、静かに闘志の火が灯るのだった。



今回も読んでいただき本当にありがとうございます。

少しでも気に入って頂きましたらブックマークの登録や☆☆☆☆☆にて高評価して頂けると焚き火の火を見ながら1人嬉し涙を流すかもしれません。

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