手のひらを返した結果は……
六日連続更新!
褒めてぇぇぇ!
「ば、爆炎の魔女だ……間違いない。あれは本物の爆炎魔法だ……」
フィオナの魔法から避難し、遠巻きに見学していた冒険者の一人が、顔を青ざめさせて呟いた。
「で、でもよ!俺が見たときの爆炎の魔女は、もっとボンキュボンの姉ちゃんだったぞ!?」
「俺だって知るかよ!けど魔法は本物だったろ!? お前も一緒に見たじゃねぇか!」
どうやら彼らの中には、軍属時代のフィオナと共に戦ったことのある者たちも混じっていたようだ。
そのやりとりに、フィオナがふいに眉を上げる。
「ん? 誰か今、失礼なこと言わなかったか?」
鋭い視線が冒険者たちの一団に突き刺さる。
「い、いえっ!何も言ってません!」
慌てて手を振って否定する男たちに、じっと視線を向けたフィオナは、何かを思い出したように首をかしげながら一人の冒険者の前へ歩み寄った。
「お前……どこかで見たことがあるな?」
「ヒッ⁉」
突然目の前に現れた少女に、中年男が思わず腰を引いた。
「なあ団長、こいつどこかで見覚えないか?」
「んー……ああ、もしかしてソドンか?」
イアンの言葉に、男の顔がさらに引きつる。
「な、なんでアンタがこの国に!? 学園のトップになったって聞いたぞ⁉」
「そんなの、クビになったからに決まってんだろ。……それより、お前がなんで冒険者なんかやってんだ?」
「ぐっ……そ、それは……」
言葉に詰まり、苦々しい表情を浮かべるソドン。
そこへフィオナが「あーっ!」と声を上げる。
「思い出した! 私が隊長になったとたん、訓練から逃げた根性なしじゃん! 一緒にいたのが数日だったから、すっかり忘れてたわ!」
「う、うるせぇ! あんなイかれた訓練に付き合ってたら、命がいくつあっても足りねぇっての!」
そう怒鳴るソドンを、フィオナは冷ややかな目で睨みつけた。
「ふん、根性なしめ。……まあ、いい。お前もよく見ておけ。最後の奴はちょっとぶっ飛んでるからな。さあ、ラグナ。次はお前の番だ」
そう言われても、ラグナは内心でうなった。
正直なところ、これ以上目立ちたくない。
仲間たちは訓練用の的を派手に破壊し、フィオナに至っては“爆炎の魔女”と呼ばれる所以を証明する魔法をぶっ放した。
自分にあれ以上のインパクトを求められても、さすがに厳しい。
「……シンプルにいこう」
そう決めたラグナは、柄だけの剣を取り出し、人型のわら人形に向かって構えた。
「なんだ、あれ?」
「剣先がねぇじゃねぇか。ただの柄だろ? あんなもん構えてどうすんだ?」
見物していた冒険者たちが、次々と嘲笑する。
柄だけの剣などで何がしたいんだ?誰もがそう思ったその時。
ラグナは無言でガストーチソードを発動した。
ごうごうと風を巻き、炎が剣の柄に収束し、燃え盛る“魔法剣”が姿を現す。
「おい、まさか魔法剣かよ⁉」
驚きの声が上がる中、ラグナは身体強化魔法を併用し、一歩踏み込む。
ドン、と重い音が床を鳴らした瞬間、ラグナは疾風のごとく駆け、人型のわら人形に一閃を浴びせる。
瞬間、わら人形は跡形もなく、黒い灰へと変わった。
その一太刀が何を意味するのか、多くの冒険者には理解すら追いついていなかった。
「……え、どこ行った?」
気づけばラグナはもとの場所から消え、人形は消し炭になっていた。
あまりの速さに、誰一人として彼の動きを目で追えなかったのだ。
「さすがラグナだな。私でも、あの速度は厳しいわ」
フィオナが感心したように呟く。
もっと派手な魔法が来ると警戒していた同級生たちは、苦笑しながら魔法障壁を解除し、ラグナを迎えた。
「また一段と速くなったな」
「本当に。全然見えなかったわ」
ウィリアムとセシルが素直に称賛する。
他のメンバーたちも、緊張がほどけたのか、わらわらと駆け寄った。
「もっと派手なのぶち込んでくると思って、必死に障壁張ってたのに~。まさかの地味アピールとは!」
「ラグナのことだから、最後にドカーン!ってやってくるかと思ったよ」
「はは……だって爆炎魔法はフィオナがぶっ放したし、俺はみんなと違って訓練の時間がなかったからね」
ラグナの一言に、一同は少しだけ表情を曇らせる。
「そう言うわりには、魔法剣の展開速度も上がってたし、動きも尋常じゃなかったぞ? どうやって身につけたんだ?」
フィオナの問いに、ラグナは少し間をおいて答えた。
「……まあ、簡単に言うと実戦かな。ちょっと、いろいろあってね。詳しいことは……また後で」
その言葉と雰囲気から、彼が何度も死線を越えてきたのだろうと、誰もが察した。
「お、おい……あいつら、何者なんだ……?」
「知るかよ。でもソドンの奴、知り合いがいるっぽいな」
「つーか……あの赤髪、本当に爆炎の魔女なのか? なんで若返ってんだ……?」
「いや、もうどうでもよくねぇか。……むしろ、なんかカッコいいわ」
「……よし、決めた。爆炎の姉御! 俺たちと組んでくれ!」
「おいバカ! 抜け駆けかよ! 姉御! 俺たちはダンジョン経験豊富です! ぜひ俺たちとパーティーを!」
次々と頭を下げて手を差し出す冒険者たち。
先ほどまでフィオナに怯えていた男たちが、手のひらを返してアプローチを始めたその姿に、仲間たちは呆れるしかなかった。
「なんだこれ……」
ラグナは、笑いを必死にこらえていた。
その光景はまるで、昔テレビで見たアイドルに群がる男たちのような、まさにコントだった。
『これ……昔テレビで見たやつじゃん……!』
笑いがこみ上げそうになるのを堪え、ラグナはそっと目を逸らした。
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