舐められっぱなしてのはなぁ!
4日連続更新。
久々の執筆で楽しんでもらえているか不安な作者です。
「とりあえず私の権限で赤髪の子以外はⅮランクスタート、赤髪の子とラグナはCランクって事でよろしく!もうデータは変更してあるから~」
「はぁっ⁉ そんなの無理に決まってるでしょう‼ それに、Cランクからは対人戦も含まれるんですよ!?」
「大丈夫、大丈夫~。じゃあイシュバル君にクイズです!ヒノハバラで一時期暴れ回っていた有名な軍人の二つ名は?」
「話を逸らさないでください!……でも、聞いたことがあるとすれば『爆炎の魔女』でしょうか? でも、数年前に魔族との戦いで戦死したって公式発表が……」
「んじゃ~、爆炎の魔女ってどんな容姿だったって噂かにゃ~?」
「容姿って……うーん、実際に見たことはありませんが、鮮やかな赤髪に鋭い眼差し。スタイル抜群で、何とか口説けないかと騒いでいた冒険者もいたような……。でも、そもそももう亡くなってるはずでは?」
イシュバルの視線が、ふと一人の少女に向く。その目に映るのは、赤い髪と強気な眼差し。だが、記憶の中の「爆炎の魔女」とは、あまりにもギャップがある。
「……いや、まさか、こんな少女のはずが……」
顔を真っ赤に染め、怒りとも羞恥ともつかぬ表情で震えるフィオナ。その姿を見て、場の空気が緩む。ついに、我慢しきれずイアンが吹き出した。
「ぷっ!」
すると、謎の声が満面の笑みで叫ぶ。
「正解! その少女が、その爆炎の魔女さんだから!」
「そんな馬鹿な……!」
イシュバルの抗議の声が止まる。フィオナのリアクションが、否定よりも“図星”を突かれたようなものであることに気づいたからだ。
「そ……んな……。あの爆炎の魔女が、こんなちっちゃな――」
その瞬間、ラグナは心の中で絶叫した。
『あー……それ言っちゃダメだって!』
案の定。
「ふふ……誰が“ちっちゃい”だって?」
フィオナが、怒りに震えながらイシュバルにじり寄る。
「いや、あの……本当にすまない!そんなつもりじゃ――」
「“ちっちゃい”だけじゃなく、スタイルが悪いって!?」
怒りのボルテージは一気に跳ね上がり、フィオナの抱きしめる腕に力が入る。
「ぐああっ!フィオナ、落ち着けって!俺、潰れるってば!」
ラグナが必死にタップしながら懇願するも、フィオナの魔力が膨張し、赤いオーラが視覚化されるほどに濃密になる。無意識に発動した身体強化魔法の力が、抱きしめる腕に宿っていた。
耐えかねたラグナも、自らの身体強化魔法で対抗し、何とか押し潰されずに済む。
そこに、イアンの大きな手が、フィオナの頭にぼふっと乗せられる。雑にわしゃわしゃと撫でながら、柔らかく語りかけた。
「いろいろと訳ありなんだ。な、内密に頼むよ?」
イアンの声に、ようやくフィオナの魔力が収束していく。イシュバルも苦笑しながら、ようやく理解する。
『あの魔力……そしてあの反応……。あの少女こそ、本当に“爆炎の魔女”なのか。死んだというのは、偽装だったのか……?』
だが、もっと大事な問題に戻らねばならなかった。
「ですが、ランクについては納得できません。他の冒険者たちが認めませんよ。絶対、もめます!」
イシュバルの正論に対し、声の主があっけらかんと返す。
「もめるなら、実力見せりゃいいじゃん☆ ちょうど立派な訓練所があるし、子供たち連れてって腕前見せてくれれば、みんな納得するでしょ~。それじゃ、よろしく~!私、忙しいの!」
イシュバルは深く、深くため息をついた。
面倒ごとを全てこちらに押し付けてきた上司とも呼べる存在に。
きっとこれ以上抗議したとしても返答はないだろうから。
背中を丸め、子供たちを連れてギルドの受付前を通り過ぎる。
その時、背後から声が飛んだ。
「おいギルド長、何だよ? ガキのお守りにでも転職したのか? ギルドってのは学園だったか?」
冒険者たちからどっと笑い声が上がる。軽口のつもりなのだろうが、挑発的なその空気にイシュバルは振り返り、低く言い放った。
「そうかもしれんな。だが、お前らはその“ガキ”以下かもしれねぇぞ?」
ピリッと空気が張り詰め、笑いは凍りついた。周囲の冒険者たちが殺気立つ。
「おい、その殺気は俺に向けてるのか?」
イシュバルが鋭い視線を投げた次の瞬間、鈍い音とともに拳骨が落ちた。声を上げた冒険者の頭がぐらりと揺れる。
「すまねぇな、ギルド長。こいつら、さっきそこの赤髪の子に絡んだ連中でな。返り討ちに遭って、舐められっぱなしじゃいられねぇって……」
中年の冒険者、ヴァーマスが苦笑いをしながら言った。
「ふん……ちょうどいい。今から、そいつらの実力を確認するところだ。悔しい思いをしたくなけりゃ、見に来るなよ?」
そう言い放ってイシュバルは歩き出す。煽られた冒険者たちは、無言のまま訓練所へとなだれ込んだ。
イシュバルは内心、焦っていた。
『おい、イアン。本当に大丈夫なんだろうな? これで実力が伴ってなかったら、俺の顔が丸つぶれだぞ……』
『安心しろ。たぶん、お前も驚くぞ』
イアンの声が耳に残る。
その不安と期待を抱えながら、一行は訓練所へと足を踏み入れた。
今回も読んでいただき本当にありがとうございます。
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