無事を祈って
お待たせしました。
予定外の出来事に疲れきった一同は椅子に座ると、深い深いため息を吐く。
意識を失っていたメンバーも何とか意識を取り戻したのだが、シャールだけはリオをみる度に先ほどの映像がフラッシュバックするのかガタガタと小刻みに身体がダンシングしていた。
「まぁあれやな。賢者様がまだご存命ってのにも驚いたんやけどさ。それ以上に死んだと思っていた友達がひょっこり目の前に現れたってのは、不思議な気持ちやね。嬉しいって気持ちはもちろんあるんやけども、なんかこう……もっとはやく教えんかい!って気持ちも出て来てしまうんよ。」
ルーはそう言いながらもラグナが処刑された時の事を思い出し、再び目頭を押さえる。
そしてその様子を見たラグナは椅子から立ち上がるとルーの頭をぽんぽんと叩く。
その行動にルーは思わず顔を上げると、そこには優し気な表情のラグナがいた。
そして顔が赤くなるのがわかるほど熱を帯びた瞬間、ふと視線を感じたので目の前に視線を向けると一気に全身の血の気が引く。
ミレーヌが目を見開きながら、笑うこともなくこちらをジッと見ていたのだ。
ルーは慌ててラグナの手を掴むと、
「は、恥ずかしいからやめーや。」
と顔を隠しながら思わず声をあげてしまった。
「お、おう……」
そんなルーの様子を見たラグナは一言そう答えた後、ストンと再び椅子に座るのだった。
しばらくの沈黙の後……
「改めてみんなに内緒にしていた件だけど。本当にごめんね。あのまま、あの国に居続ける訳にはいかなかったからさ。」
「それはそうだろうな。もし見つかったら今度は確実な方法で息の根を止められただろうしな。」
ウィリアムがポツリと呟くと、再び沈黙する一同
。
そんな重い空気の中、口を開いたのは意外にもシャールだった。
「あの国に居続けるのは無理だったってのはわかるんだけどよ。どうやって国境を超えたんだ?俺達みたいに真っ正面からって訳じゃないだろ?そんな事をしたら生きていた事すらバレちまうだろうし」
「あ~。それは俺の力って訳じゃないんだよ。マリオン様と商業の女神の神殿の協力があったからさ。」
あの助けが無ければ本当に強行突破で逃げるしか無かったかも。
「ラグナくんもいろいろ大変だったね……」
「テオもな……ビリー様か……」
ラグナはルーとテオの父であるビリーにはフィリスの件も含めて物凄くお世話になったのだ。
「あの父さんだからね……心配は心配だけどさ。飄々としながら相手をおちょくって上手く脱出していそうだよね。」
「せやな~。やられたフリでもして最後は自爆や~!って屋敷ごと爆破して自分らは隠し通路から脱出してる可能性もあるからな~」
無理して笑顔を作る2人の姿を見つつ、ラグナは『うまく脱出出来ていますように』と、ビリーの無事を心の中で願うのだった。
「で、だ。俺達はフィオナ先生と共に冒険者になるわけだが……ミレーヌはどうするんだ?」
「皆さんと一緒に冒険者登録はいたしますが……私はお父様とお兄様のお手伝いをして、まずは我らが商会を立て直してから皆さんと一緒に冒険者として活動しようと思いますわ」
ミレーヌの答えに思わず笑顔になるサイ。
「確かにミレーヌが手伝ってもらえると助かるよ。何せヒノハバラの販路を全て失ったからね。もうあの国で商売することは無いだろうから。それに父も怪我は治ったけど、流れた血までは戻ってないからさ。今は僕が動くしか無いんだよね」
「ですので私は私の戦いを全力でしますわ。一日も早く皆さんと肩を並べられる様に頑張ってみせます!」
ふんすと胸を張るミレーヌ。
その様子にシスコンパワー全開のサイはにっこり笑顔になりながらもこちらに振り向き提案する。
「別に冒険者に無理にならなくてもいいんだよ?君たちには此処まで送り届けて貰ったし、もう十分すぎる程お世話になったんだ。遠慮しなくてもいいよ」
ヒノハバラでの商いを失ったとはいえ、まだ完全に販路を失った訳ではない。
それに初代エチゴヤの代より溜め込みに溜め込んだ今までの膨大な資産は全て魔法のバッグに収納されている。
初代エチゴヤが手にした時は家が一軒分の収納量だったが、魔王の討伐の報酬として拡張された。
そして更に代を重ねるごとに袋の収納量は少しずつ拡張されていったのだ。
今ではどれほどの量の品が収納出来るのか、把握出来ぬほど。
「いつまでもその好意に甘えてる訳にはいかないのでな。それにあの国の事だ。国内の統制が完了したら、次は外に眼を向けるだろう。だからそれまでに私らは力を蓄えておかねばならない」
「そうですわね。あの国がこのまま大人しくしてくれるとは思いませんから」
フィオナとセシルがサイの提案に対してそう答えると、ルーも
「せやな。ウチらの家族の事も心配やけど、ただ無駄に時間を浪費するくらいなら鍛えた方が有意義やね」
「それにラグナも付いてきてくれるんでしょ?」
テオがそう訊ねるとラグナは頷くのだが……
「ダメー!!ラグナは私のそばにいるの~!」
リオがそう叫ぶと再びラグナに抱きつこうとするが、
「いい加減にしろ!」
と再びフィオナによって阻止され、更にラグナは再びがっしりと頭を掴むと
「あだだだだだ!?」
ギャーギャーと再び騒がしくなる部屋に、静かなため息が広がっていくのだった。
今回も読んでいただき本当にありがとうございます。
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