ヒノハバラの国境門へ
「……はっ?エチゴヤ?」
「本当にこの目で見たんだよ!あれは絶対にエチゴヤだ!見間違うわけがない。本当なんだ、信じてくれ!」
ラグナはその話を聞いて、ヒノハバラが国境門を閉めた理由がやっとわかった。
『やっぱりエチゴヤのみんなを素直に出国させるつもりなんて無かったんだ……』
初代勇者の一族である王族を陰ながらずっと支えてきたエチゴヤの一族。
支えてきたはずのエチゴヤが他国へ亡命しようとしている。
もしそんな事が成功されてしまっては、王族への信頼は一気に失墜する。
すでに王族よりも市民から人気があるのはエチゴヤなのだが……
ほとんど関わることがない天上人のような存在よりも自分達の暮らしを支えてくれるエチゴヤの方が市民にとって人気があるのも仕方のない話だった。
だからこそ、ヒノハバラは先手を打ったのだろう。
エチゴヤが全員揃って国境門から出る前に出国を出来ないようにした事がその証拠。
『これはまずい事になったぞ……』
すでにヨハム公爵軍とエチゴヤが争っているというのはほぼ確定だと思う。
エイミーさんが事前にヒノハバラ入りしているというのは聞いていたけど……
いくらあのエイミーさんでもエチゴヤの皆を守りながら領軍を蹴散らすなんて……
『流石に出来ないよ……な……?』
一瞬、あの人が領軍を蹴散らしながら突き進む妄想をしそうになったが……
……いや、あの人ならそれも出来そうと思ってしまいそうになる。
あとはエチゴヤの代表であるブリットさんの側にはリビオさんが護衛として控えているはず。
他にも護衛として何人かはいるだろうが、
『そもそもエチゴヤ単体で領軍と争えるような戦力なんてあるのか……?』
いくらエチゴヤとはいえ、商いがメインの商会。
普通に考えれば領軍に抵抗できるような戦力なんて持っていないはず。
国中の商いを掌握していたエチゴヤに武力まで持たせるなんてことは、絶対に国が許可しないだろう。
エチゴヤに武力まで備わってしまっては王族が黙っていないだろうし……
『じゃあ何で国境門を閉じなければいけないほどの事態になっているんだ?』
もしかしたら、市民も一丸となって争っている可能性も0ではないのかもしれないが。
ここで悩んでいてもしょうがない。
「情報ありがとうございます。僕はこのままヒノハバラに向かおうと思います」
「そうか……巻き込まれないように気をつけるんだぞ!」
「いつどこに魔物が現れるかわからんからな。街道だとしても油断するなよ」
「わかりました!皆さんもお気をつけて!それじゃあ」
と商人達と別れたラグナは再び走り出すのだった。
商人達と別れた後、休憩を挟みながらも走り続けていたラグナ。
「思っていたよりも遠かったなぁ」
そんな感想を抱きながらも、少し遠くに見える国境門を確認する。
シーカリオン側とは違い、ヒノハバラ方面で門が開くのを待っている人数はほんの数人。
しかも門の前で警備する兵士達もどこかピリピリとしていて、ラグナが国境門の待機列に並ぶと厳しい視線を浴びせられた。
「……兵士さんがイライラしてるからな。頼むから騒ぎだけはおこさんでくれよ」
と前に並ぶ商人から忠告を受けた。
ボソボソっと商人が呟いただけだが、門を守る兵士がキッと睨んでくる。
大人しく待機していると、ヒノハバラ方面からガヤガヤと騒がしい音が聞こえてくるのだった。
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