学園から脱出する特級組
フィリスの放ったエクスプロージョンによって周囲が砂煙に包まれる。
「全く。服が汚れちゃったじゃない。それに逃げられちゃったか……追いかけるのも面倒ね。まぁいいわ。」
砂煙が晴れると、砂を払うかのようにパンパンと手で服を叩いた学園長と呼ばれた女性は再びカツ、カツ、カツとヒールが奏でる音と共に学園内へと戻っていくのだった。
意識を失ったまま倒れている兵士達の事など、まるで全く気にしてないような雰囲気で学園内へと戻っていく学園長を、シャールの父親は呆然と見ることしか出来なかった。
その頃、フィリス達は全力で学園の出口へと向かっていた。
「止まれぇぇぇ!」
「邪魔だ!!」
学園の出入り口である門を封鎖していた兵士達の前に特級組の生徒達が現れる。
すぐに兵士達は武器を構えて生徒達を包囲しようと試みるが……
フィリスの無慈悲な暴力に抗える訳もなく……
兵士達は瞬く間に制圧されてしまうのだった。
出口で立ち止まり、後ろを振り向くウィリアム。
「これ以上は無理だ!退くぞ!」
「くっ……クララ、ベティー、シーヴァ……」
「ウィリアム、早ようして!」
「……すまん」
門を抜けて校舎の外へ出たところでエチゴヤの馬車が待機していた。
「セバス!?何でこんな所に!?」
「まぁいろいろとありましてな。それよりも皆様、急ぎこの馬車へ」
遠くから止まれと叫ぶ声が聞こえる中、セバスが馬車を急発進させる。
馬車が走り始めると、セバスは馬車の中にいる子供達へと話し掛ける。
「しばらく激しく揺れると思いますので、舌を噛まぬように気をつけて下さいませ」
ガラガラと激しくタイヤが回る音が馬車の室内に響く。
「先生……」
不安そうな表情でフィリスを見るテオ。
「……不安な気持ちはわかる。だが、今は生き残る事だけを考えろ。まずはこの国から無事に脱出することに全力を出すんだ。ここから先、私一人の手ではどうにもならない可能性だってあるんだ」
そう言って、これからどう行動すればいいかを考えるフィリス。
「そこの馬車止まるんだ!!」
外からはその様な声が聞こえたが、フィリス達が乗る馬車は止まらない。
「押し通らせて頂きますぞ!」
馬車を操るセバスが手を振りかざすと、前方で馬車を止めようとしていた兵士達に強烈な風が襲い掛かる。
「ぐはぁぁぁ!」
突風とも呼べる風に抗う事が出来ずに、兵士達は吹き飛ばされ馬車一台分の道が出来る。
その隙をついて馬車は走り去り、やがて見えなくなったのだった。
それからしばらく馬車を走らせた後……
「お嬢様方、このまま王都から脱出しますので」
セバスからの突然の宣言に皆は驚く。
このままエチゴヤ商会へと向かうものだと思っていたから。
「お父様やお兄様は……」
不安に陥りそうになるミレーヌに対しセバスは、
「ご安心下さい。旦那様、若様は既に国外への脱出に向けて行動しております」
と答えるのだった。
「そうですか……」
安堵するミレーヌを余所にフィリスはセバスに問い掛ける。
「ちょっと待ってくれ。もしかしてエチゴヤ商会自体がこの国から脱出するのか……?」
初代勇者がいた時代からずっとこの国を支えてきたエチゴヤ商会。
もしもエチゴヤ商会がこの国から撤退なんて事になれば……
「旦那様も悩みに悩み続けましたが……結果的にこの様な事になってしまい、誠に残念です」
「エ、エチゴヤ商会までもがこの国から撤退……」
唖然とする生徒達。
一体この国に何が起きているのか、もはや理解することすら出来ないのだった。