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心の傷

神殿騎士の一人が付き添い、神殿へと向かう。


『なんでアヤトさんの家の中があんな事になっているんだ……?』


本当に意味がわからない。


混乱の中、マリンルーの城壁へと近づく。


以前のように何台もの馬車が次々と出入りしていたあの面影は消えていた。


「あれは……?」


城壁の上にはまるで防衛兵器の様な物が何台も取り付けられていた。


さらに以前とは違い、解放されていたはずの城門はがっちりと閉じられていた。


「あれは魔物からこの国を守るために配備された魔道具です。さぁこちらへ」


「わかりました……」


神殿騎士が小さな扉に近寄ると、コンコンッ と扉を叩く。


「神殿騎士団所属、エバンスだ」


すると扉が開かれ、中にいた兵士がこちらを確認すると扉を開けてくれた。


「どうぞお入りください」


エバンスは兵士達に会釈すると、俺を中へと案内してくれた。


マリンルーの中も以前のような活気は感じられず、市民達の表情もどこかどんよりとした雰囲気だった。


「こんな事態になってしまっては……仕方ないでしょう。皆、不安なのです」


やや早足で神殿へと向かうと、すぐに神殿に到着した。


「では私はこれで」



そう言うと神殿騎士は去っていく。


神殿騎士と一緒に神殿へと来たので、なんだアイツはという視線を感じながらも

ラグナは何とか無事にマリンルーへと戻ってこれたとホッとした瞬間、


「お帰りなさい、あ な た ♪」


耳元で急に呟かれた爆弾発言にラグナはバッと耳を押さえて振り返ると……


「そこまで、驚かなくてもいーじゃん」


と少しむくれている少女がそこにはいた。


「リ、☆※!?」


思わず、リオという名を口にしそうになった所で、人差し指で俺の唇を塞ぐと悪戯っ子のような笑顔を向けて来た。


「こんなところでそれをいっちゃ~ダメよ?」


ラグナが思わず叫びそうになったことで、更に注目を集めてしまったのでリオは付いて来てと合図するとコクンと頷き、歩き出したリオの後を追う。


後ろからは俺達のやり取りを眺めていた市民の声がザワザワとしているのだった。


二人は神殿の一室にたどり着くとリオは中にいたシスターに何かを指示すると俺を椅子へ座るように促した。


「本当にお疲れ様~。大変だったでしょ?」


「まさかこんな事になるとは思わなかったよ」


「だよね~。私も予想外だよ。まぁいつかは世界がこうなるとは思っていたから準備はしていたんだけどさぁ~。ちょっと予想よりも早い展開でビックリよ」


「予想よりも早い展開……?」


ラグナはリオの言葉に引っかかりを覚えて聞いてみることにした。


「だって魔王が復活するのは確定していたんだよ?それなら魔物があちこち我が物顔で跋扈するような世界に戻ることは確定していたんだからさ~」


そしてほんの一瞬だけ辛そうな表情をすると、


「近場の村の避難は間に合ったんだけどね……ちょっと遠くの場所は間に合わなかったよ」


とリオが説明する。


「……国境沿いにあった砦と国境付近の村の人たちの遺品や遺体は収納してあります」


途中で回収することを諦めてしまった時の事を思い出すと、罪悪感に包まれる。


そんな事を思っていると、


「……えっ?」


賢者リオともあろう人が、椅子に座ったままの俺を優しく抱きしめてきた。


そして


「君が気にする事じゃないよ。これは僕達国家の失敗だ。それに……辛い作業をさせてしまったね」


と言うと、ギュっと力強く抱きしめてくれた。


自然と涙が溢れ、そのまま零れていく。


「また……また俺は間に合わなかった……」


ラグナは砦や村が崩壊したのを目にする度に、とある辛い記憶を思い出してしまっていた……


何とか心をギュッと押し潰して、無心で作業していた。


「ありがとう。あの砦にいた騎士達の亡骸や遺品は君のおかげで遺族の元へと帰ることが出来るんだ」


よしよしと背中をトントンされる度に涙が止まらない。


「よく我慢したね。辛かったよね」


我慢していたものが決壊する。



「どうしても……どうしても頭から離れないんだ。急いで駆け付けたのに間に合わなかった……アオバ村が崩壊したあの日の光景が……崩壊した砦や村を目にする度に頭の中で思い出すんだ……また、俺は守れなかったって……」


「人間一人の力では限界があるんだよ。それにこの国の失策は私の責任なんだ。君が責任を感じる必要なんてこれぽっちもないんだよ」


「……それでも……」


「何もかも君が背負い込む必要なんてないんだよ?」


「それでも……急いで駆け付けていれば助けられたかもしれない……」


リオはラグナのその様子を優しい目で見つめると、頭を撫でながらそっと魔術を発動させる。


そしてゆっくりとラグナの身体に浸透させていく。


「……俺が……もっと……」


そう言い残して眠りにつくラグナ。


「……おやすみ」


リオは自身の執務室に備え付けられているベッドにラグナを運び、そっと毛布をかけると頭を優しく撫でて仕事へと戻るのだった。






今回も読んでいただき本当にありがとうございます。

少しでも気に入って頂きましたらブックマークの登録や☆☆☆☆☆にて高評価して頂けると焚き火の火を見ながら1人嬉し涙を流すかもしれません。

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