有り難い先輩のお話。
薪を部屋に運び込もうと父さんと2人で外に出た。
玄関をあけると目の前には俺の背丈よりも積もりに積もった雪。
「ねぇ、父さん。こんなに雪が積もってるけど……村の人は大丈夫かな?」
「昨日、村の屋根の雪下ろしをしているときは大丈夫だったんだがな……流石にこの積雪だ。家が潰れたり、寒さにやられてなきゃいいが。」
2人で話をしながら濡れた薪をせっせと部屋に運び込む。
ちなみに……父さんは薪を両手いっぱいにも持ってるけど、俺は頑張って一本。
5歳児の力なんてこんなもんだよ。
お手伝い体験みたいな感じ。
「こんだけあれば明日、明後日も大丈夫だろ。」
暖炉の一角は薪で埋まっていた。
暖炉で薪を乾かす際は火がついて火事にならないように気をつけなければいけない。
母さんが定期的に薪の位置をズラしながら薪の乾き具合のチェックをしていた。
乾いた薪はまだ10本程度。
みんなで薪を乾かしながら今日はゆっくり過ごす予定。
そろそろ体感的に今は昼過ぎ。
備長炭に火をつけたのが朝一番だから4~5時間は時間が経過したと思う。
白炭は多少は形が崩れたのもあるけどまだまだ大丈夫そう。
「この炭って火持ちが良さそうだとは思っていたけど、だいぶ時間が経つのにまだまだ平気そうだよな。」
「そうねぇ。まだまだ形も崩れてないし。凄いわねぇ、これ。」
「普通の炭ってこんなに火持ちが良くないの?」
「まず最初に暖炉で炭を使うなんて無かったからな。普通は薪を使ってるし。でも普通の炭だったらとっくに形が崩れて役目を終えていると思うぞ?」
「そもそも炭って言うのは薪に比べたら高級品だしねぇ。なんでも作り方は秘匿されてるらしくて一部の領地でしか作られて無かったのよ。」
やっぱりそうか。こっちの世界に来てから炭なんて見たこと無かったし。
薪よりも火持ちがいいからお金持ちには高値で売れるだろうから。
なんとなーくざっくりと作り方はネットで見た気がするけど実際に作ったことはないし。
まぁスキルで出ちゃったんだけどね。
母さんがお昼ご飯の準備を始めた。
しばらくしてドンドンと扉を叩く音がした。
「こんな雪の中誰だ?あの積雪の中どうやって来たんだ?」
父さんが扉をあける。
するとそこには村長さんと疲れきってぐったりしてる門番のハルヒィさんが居た。
「じいさんどうした?こんな雪の中。ってかこの積雪の中どうやって来たんだ?」
「無事かどうかの確認じゃ。如何せん薪が使えなくなって暖を取れなくて困っていたのが何人か居たからな。通路はこやつに作らせたわい。」
そう言いながらハルヒィの背中を村長は叩いていた。
「疲れるから使いたくなかったんだよ、俺のスキルは。」
ハルヒィさんのスキル?
「あぁそうか。お前のスキルって「通路作成」ってユニークスキルだったか。」
「今まで山に穴掘ったり地下に潜って隠れたことはあったんだがな。まさかこんなにも積もった雪でこのスキルが使えるとは思わなかったわ。」
何その便利スキル。
地下室とか欲しかったから羨ましいんだけど。
地下室があれば収納スキルで倒れる心配しないで炭とスパイスの保管が出来るのに。
「どうした、ラグナ?そんなワクワクした顔で。」
「だって通路作成スキルってカッコいいんだもん。!」
「あぁそうか。子供からしたら羨ましいだろうな!こっそりと秘密基地なんて作りたい放題だからな。」
秘密基地……
いいなぁ、作りたいなぁ。
「珍しくハシャいでおるのう。でもこやつは逃げてこの村にたどり着いたんじゃぞ?」
逃げる?何から?
「あれは仕方ねぇじゃないか。危うく前に住んでたとこの領主に監禁されて隷属の魔道具で奴隷にされるとこだったんだからな。」
隷属の魔道具?監禁?
「ラグナはまだ判っちゃいないか。俺のスキルは通路作成。ってことは鉱山だろうと地下だろうと簡単に通路が作れちゃうんだよ。んでそのスキルに目を付けた領主が罪をでっち上げて俺を捕まえた訳よ。」
やっぱりそんな領主が居るのか。
「それでどうやって逃げたの?」
「クソ領主が俺を道具のように使おうとしてるのはすぐに判ったからな。なんでも魔道具の準備に時間が掛かるとかで地下牢に押し込められてよ。大人しくしているふりをしてスキルで夜遅くに2ヶ所通路を作っておいたのよ。」
「どうして2ヶ所も?」
「片方は領主から逃げるための通路。もう一通は地下水源と繋いだ通路ってわけよ。」
「えっ?地下水源なんてわかるの?」
「このスキルが使えるようになったばかりの頃は土の先がどうなってるのかわかんなくて、何回かえらい目にあったんだよ。いきなり地下水源にヒットして溺れかけたり。すぐに塞いで助かったんだけどな。そんなことばっかりしてたある日なんとなく判るようになったんだよ。通路を作ってるとこの先に何があるのかとか。」
スキルがレベルアップしたってこと?
「とりあえず朝までにある程度脱出路は作って水源は牢と壁一枚。通路作成のスキルはあけるも塞ぐも自由自在だからな。」
そのスキル便利すぎでしょ。あぁ、だから狙われるのか……
「んで朝に領主が地下牢に部下を連れてぞろぞろ部屋に来たときに俺は目の前で水源の通路をあけて大量の水を入れて俺はすぐに脱出。そのまま逃げ切ったって訳よ。」
「その領主はどうなったの?」
「領主はそのまま部下と一緒に溺死らしいぞ?まぁ噂でしかしらんが。たまたま王都の役人が査察で来ていたらしく、すぐに事件を調べるという名目で領主の館に突入。何代も前からあくどいことしてた書類を探し出してそれを証拠にお家断絶。今はその役人だった奴が領主をしているらしいな。」
「ハルヒィさんは無実の罪のまま罪人になってるの?」
「どうやら俺のことは領主と部下がこっそり罪をでっち上げたもんだから正式な書類は無し。捕まえたことを知ってる人間もごく一部。んで知ってる連中は仲良くお水の中へ。あとはわかるな?」
ラグナはコクコクと頭を頷いた。
「まぁ便利なスキルではあるんだがな。バレたら面倒だから内緒にしてる訳よ。だからラグナも内緒で頼むぞ?」
便利なスキルってやっぱり危険と隣り合わせなのか。
実体験を聞くとより危険度が理解出来たよ。
罪をでっち上げたりとか隷属の魔道具とかいかにもヤバそうな名前もあるし。




