便利なスキルだこと。
「なぁラグナ。この炭って煙が少ないよな。」
母さんの膝枕でまったりしている俺に父さんがそう話し掛けた。
「そうみたいだね。火持ちってどうなんだろ?薪よりも長いのかな?」
自分でそう言っておきながらあれだけど……
長いだろうなぁ。
何せ備長炭だし。
しかも白炭。
前世だと確か6~8時間も燃焼する白炭があったよなぁ。
「もう大丈夫。母さんありがとう。」
「大丈夫なの?無理だけはしないでよ?」
「うん。それと暖炉に4本だけってのもあれだからもう少し出すね。」
そして地面に手を置いて備長炭を召喚してみた。
とりあえず10本くらいなら大丈夫かな?
床に転がる白炭が10本。
「ラグナ、こんなに出して大丈夫なのか?」
そう言えば思ったよりもキツくない。
「顔色は少し休んで良くなってからは変わってないわね。」
「何回も倒れて魔力回路が鍛えられたか……?普通はそう何度もぶっ倒れながらも魔法の練習するやつなんて居ないからな。」
なんか父さんの言い方にトゲがあるなぁ。
確かに何回も倒れて迷惑かけたけど。
そう言えば倒れてから目覚めるまでの時間が徐々に短くなったのは魔力回路ってのが鍛えられたから?
じゃあ限界までスキルを使えば魔力回路
「ラグナ、頼むから倒れるまで練習しようとか考えるなよ?その顔は考えてるだろ。」
何故バレた。
「倒れるってことはそれだけ身体に負担が掛かってるってことなのよ?万が一があったらどうする気?私達を悲しませたいの?」
確かに……デメリットは考えてなかったよ。
「ごめんなさい。そこまで考えて無かったよ。」
「そもそもお前はまだ5歳なんだぞ?無理する必要なんて無いんだからな。」
「そうよ。まだまだ子供なんだから。お外でいっぱい遊んで、ご飯もいっぱい食べてお勉強すればいいんだからね!」
そうだった。俺ってまだ5歳だったよ。
最近やっぱり肉体年齢に精神が引っ張られてるんだろうか。
わくわくが止まらない。
気になることには手を出したくなっちゃうし。
きっと今目の前にボタンが現れて押しちゃ駄目って言われると我慢出来なくて押しちゃうだろうな。
「でもラグナの子供らしいとこが見れて私はちょっと嬉しいわ。」
ん?
「母さん、子供らしいって何?僕は子供だよ?」
「だってラグナってお友達と遊んでるときも一歩引いてるじゃない。周りのお友達が怪我しないように見守ってるように見えるのよ?」
自分では一緒に遊んでるつもりだったから全然気がつかなかった。
「そんなことないとは思うけど……」
「怪我しないように見守ってる優しいラグナも好きよ?でもどうせなら一緒に元気いっぱい遊んで欲しいとも思ってたのよ。」
うーん……前世と今で精神年齢は20歳以上だからなぁ。心の底からハシャいで遊ぶことが出来なかったのかもしれない。
「でもね、さっきのラグナは母さん初めて見たかも知れない。あんなにもわくわく、うずうずしてる姿なんてね。だからちょっとそこは嬉しいの。」
わくわくか……
そりゃわくわくしちゃうよ。
だって魔法だよ?
スキルだよ?
ゲームや漫画の世界でしか出来なかったこと。
前世だったら中二病って貶されて終わることがこの世界では現実に出来るんだよ?
俺が魔法を使えるのか。
それとも使えないのか。
正直な所は全くわかんない。
でもそのかわりにスキルが使える。
小さい頃に大勢の子供が通る道。
異能だよ?
魔法だよ?
心が沸き立つに決まってるじゃないか。
「だって、スキルってのが使えるんだよ?もしかしたら魔法も使えるようになるかもしれない。父さんみたいに魔法剣が使えるのかもしれない。ワクワクするに決まってるよ!」
ここまでハシャぐラグナを見てミーナはとても嬉しかった。
退屈で毎日がツマラナそうな目で外を見つめてることがラグナは多かった。
イルマと遊んでるときでさえも心からは楽しんでるように見えない。
それが5歳にしてスキルに目覚めた。
それからラグナの雰囲気に変化が。
退屈そうな雰囲気だった日々。
それがどうだろう。
スキルを使いたくて毎日うずうずしている。
ひたすら限界まで香辛料を召喚。
ちなみに少量だけど容器に入れて料理に使うようになった。
あの味を味わってしまうともう塩だけの食生活に戻れない。
置き場に困るほどスパイスを召喚した後は私達にラグナは声を掛けてくる。
今から収納スキルを使いますと。
本当ならば母として止めるべきなんだと思う。
収納スキルを使用した後は倒れてしまう。
でもこの子がこんなにも楽しんでいる姿、止められる訳ない。
小さい頃からラグナは本当に手が掛からなかった。
同じ村で子育てをしているお母さん達で集まってグチ大会をするときがたまにあるけど……
話を聞けば聞くほどラグナの育児って本当に手が掛からない。
何をしてもイヤイヤってする時期があるみたいだけどラグナはそんなもの無かった。
気がついたらお手伝いしてくれる。
そう言えばお手伝いしてって頼んだこと無いかも。
そしてグチ大会の最中にイルマの母から言われて驚いたこと。
イルマが転んで足から血が出ちゃったのよ。そしたらラグナちゃんってばすぐに井戸のそばに走っていって汲んである水で傷口を綺麗にしてあげてたのよ?
その後にお姫様だっこでうちにイルマを連れてきた時はびっくりしたわよ。
あのイルマが顔を真っ赤にして女の子になってたんだから。
元々面倒見がいいとは思ってたけどそんなことまでしてたなんてね。
少し嬉しくてラグナが家に帰ってきた時にいっぱい褒めてあげたら顔を真っ赤にして照れていたわね。
さてと。
「そろそろお部屋も暖まってきたわね。この炭のおかげかしら。」
「だろうな。着火までは大変だが火持ちは良さそうだな。形が崩れたりしてないし。こんな炭は見たこと無いぞ。」
「やっぱりこれもヒミツにした方が?」
「だろうなぁ。これも世間には隠さなきゃいけないだろうよ。薪に困ることが無くなるんだぞ?」
「確かにそうよね。でもお料理とかにもこの炭なら便利そうよ。薪と違って煙が少ないし。」
うーんと悩む2人。
「香辛料については仕方ないが……とりあえずこの炭に関しては出来るだけ隠していこう。薪はとりあえず部屋に持ってきて暖炉のそばで乾かせば使えるはずだ。」
確かきちんと乾燥してある薪って雨とか雪で濡れた程度だったら乾きが早いんだっけ?
理由は忘れちゃったけどね。




