両親の想いと気楽な本人。
「ほら、水飲んで。」
どうも。5歳のめでたい誕生日のお祝いの日に自宅で倒れたラグナです。
スパイス召喚とか収納とか意味がわからん能力を発動した挙げ句、ぶっ倒れるとは思わなかったよ。
あの時にイルマが側にいなかったらどうなってたことか……
今度会ったら心からお礼を伝えよう。
「体調はどう?まだご飯は厳しい?」
「まだふらふらするから水だけでいいよ、ありがとう。」
「スープなら作ってあるから食べられそうなら早めに言うのよ?」
「わかったよ。ちょっと横になるね。」
まだ起きあがるのがしんどい。
やっぱり原因はスパイス召喚か収納か……
まぁよくよく考えてみると何の代償も無しに出せるわけ無いよなぁ。
何の代償も無く永遠にスパイス召喚出来たらお金は安泰だろうなぁ。
まぁ誰か立場が上の人にバレた時点で監禁奴隷コースだろうけど……
きっと永遠に作らされて人生が終わる未来しか見えない。
どっちにしてもこの能力?は絶対に隠し通していかなければ。
でもどうやって隠していけばいいか。
せっかく料理が美味しくなるスパイスが有るのに使わないのは勿体ない……
だからといって堂々と使えるわけはないし。
うーん……
とりあえずあれだ。
寝よう。
身体だるいし。
おやすみなさい。
ラグナが水を飲んだ後ぐっすりと寝始めた姿を見て2人の両親はホッと一息つくことが出来た。
イルマが血相を変えて走ってきた時は何事かと村中が騒然に。
大声でラグナが倒れたとイルマが叫んだ時、2人は一瞬だが言葉の意味が判らなかった。
夫婦2人してだいぶお酒を飲んでしまっていたけど、急いで自宅へと戻り部屋に入るとそこには倒れているラグナの姿が。
慌てて呼吸をしているか確認した所、一応呼吸はしていた。
しかし、いくら呼びかけても返事はなく頭を触ったら発熱が凄い。
今朝は病の症状など一切無かったのに。
でも夫がぼそりと言った言葉に凍りつく。
「この感じ、この症状……冒険者が魔力欠乏した時によく似てる……」
この子は魔力を使うような何かをしたのだろうか?
5歳で魔力を使うことが出来るなんて、普通なら有り得ないと鼻で笑うところだけど。
この子との出会いからして普通じゃない。
その後に起きた事件も……
だとしたらきっとこの子は何かをしたんだろう。
よくよく考えてみると忘れ物を取りに家に帰ると言った時の顔はニコニコしていたような……
やっぱり何かしたんだろう。
とりあえず意識が戻らないことにはどうにもならない。
先ずはこの子が無事に意識を取り戻すことを神様に祈ろう。
こんな辺境の村に唯一医者の真似事も出来た産婆様は、領主に連れ去られて以来一切帰ってこない。
反抗的な態度ばかりで処罰されたという噂も聞いたことがある。
こんな辺境の開拓村にはそれ以降、医術に心得がある人も治癒魔法が使える人も来なかった。
その結果、少しの病気や怪我でも亡くなってしまう子供や大人が増えてしまった。
近隣の数ヶ所の村も我が村にいた産婆様に頼りきりだったので同じ様な事態に陥っていた。
さらに少し離れた場所にあった村では疫病が発生したらしく、領主軍によって村ごと焼き尽くされたらしい。
住人諸共……
こんな辺境の領地では領主が好き放題やっても国王の元にまで声が行くことはない。
途中で握りつぶされる。
もしくは国王に届いたとしても所詮は平民の命と鼻で笑われて終わり。
魔王を討伐して世界を平和にした勇者の末裔の国。
それが今では悪魔の如く腐敗した貴族や王族だらけ。
国の歴史だけは古く、さらに最悪なことに周辺の国よりも軍事力だけは高かったのでたちが悪い。
反乱など起こそうものなら徹底的に潰される。
さらに貴族や国王の暇つぶしで周辺の国と戦争が起きたりする。
食糧がない。無いなら周りの国から奪えばいいか。
でも管理が面倒だから領土はいらないと略奪したり好き放題。
そろそろ小麦の時期か?
なら戦争ついでに相手の領土の小麦を刈り取ってしまおう。
やられる国はたまったものではない。
気分一つで攻められ略奪される。
国力と食糧は減るばかり。
仕方ないと、現在ではヒノハバラと接している領土では略奪されても構わないような作物を育てているくらい。
自分達の分はヒノハバラと離れている反対側の領土で栽培している。
そんなことをしているので周囲の国は疲弊しきっている。
手を組んでヒノハバラに立ち向かう体力も無い。
そんな最悪の国にある辺境の村。
ちょっと話がそれたので愚痴はこれ位で。
この子の出自を考えると辺境で良かったのかも知れない。
王都周辺でこの子が現れていたらきっとこの子を守れなかった。
あの御方が降臨なされたとバレたら教会に連れて行かれて利用される運命になっていた。
辺境で結束力が強かったので秘密を徹底的に守ることが出来た。
そのおかげで今までみんなで見守り育てることが出来たんだと思う。
「神様。どうかこの子を天に旅立たせないようお守り下さい。」
ミーナはただただラグナが無事に意識を取り戻すように、神様に必死に祈ることしか出来なかった。




